(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年7月号『制約上等!』に記載された内容です。)

 常日頃感じている事がある。やりたいことに対しての多少の負荷は工夫や発想を産み出し自分の力だけでは辿り着かなかった場所にのし上げてくれているのだと。例えるなら不条理な敵と戦うたびに徐々に強くなっていく少年漫画のようでもある。

負荷とはおそらく様々な形の制約であるともいえる。ネガティブなイメージを持たれやすい制約という言葉。しかし実力にブーストをかけるものと定義すると、さてどうだろう。その先に想像を超えた展開が開けると思うとワクワクしてはこないだろうか。

2021年現在、コロナ禍という制約がほぼ全ての人にかかっている。それ以外にも常日頃から人それぞれ色々な制約があるものだ。制約というのはバラエティに富んでいる。

さて今、私にかかっている「制約」とは改めて何があるのだろうか。「フリーランス」「地方移住」「飲食兼業」「在宅ワーク」「育児」・・・思いつくまま並べてみた。私自身の制約もなかなかにバラエティに富んでいる。そのどれもが様々な方向から私にブーストをかけてくれている。僭越ながら少しばかり紹介させて頂こうと思う。

 


vs見知らぬ土地で起業


 

美術大学卒業後、都内某精密機器メーカーのデザインセンターに勤務しながら友人たちとデザインユニットを組み、自主的に作品を作るなどデザインにどっぷり浸かっていた20代。30代に差し掛かった頃、三重県四日市市に結婚を機に移住。勤務していたメーカーも本当なら辞めたくなかった。それほどまでにデザインの仕事もそれを取り巻く自身の環境も好きだった。

今ならばテレワークも一般化されているが、その当時はほぼ無いに等しかった。そしてフリーランスになると同時に人生ひっくり返ったかの如く変化に飛び込むこととなった。移住した先には一人も知人が居らず、フリーランスデザイナーとして始めようとも仕事のあてもない。パートナーが新規開店した飲食店に立つことになるが、接客経験など学生時代のアルバイト以来の超素人。

見方によっては絶望的状況ではある。果たしてデザインの仕事はできるのか?そもそも店は上手くいくのか?知り合いはどうやって作るのか?ヒントも答えもどこにもない。どうしたらよいのか、と途方に暮れた。突然の「二足の草鞋(どっちも手探り)」状態なのである。

だが、視点を変えるとどうだろう。ここではしがらみもなく自分の設計図で道を切り開くことができるのだ。問題はしがらみもないが、仕事で重要な繋がりもないことなのである。再度どうしたらよいのか、が噴出する。

その答えは身近に潜んでいた。現在はそう珍しい事ではなくなったが、その当時はあまり見られなかった副業や兼業。私はその時「飲食」と「デザイン」を兼業していた事により現状を打破する術を見つけることが出来た。仕事を受注する上で重要な「人との繋がりと信頼関係」と「需要の把握」。自らがデザインを手がけた店内でお客様との会話を通して自身の作品や考え方を知ってもらい、会話の中から需要を拾い、提案する事ができた。

一見無関係に見えるデザインと飲食の兼業。それがあったからこそ、今の仕事につながる地盤を整えることに成功した。一つを起点として少しずつ、仕事が繋がり出していくのだ。飲食店を兼業していたそのおかげで見知らぬ土地での出会いのキッカケがあった。結果的に自分の現在の環境における仕事の進め方を手にする事ができた。履き慣れない二足の草鞋が生み出した奇跡の一つである。

 


vs育児



その後出産を経て新たな生活に突入した。私にとって三足目の草鞋である「育児」である。多くの親となった人が経験してきた道だが決して甘いものではない、とにかくこれは大きな環境変化なのだ。あり得ないほど自分の時間がなくなり、睡眠は細切れ。店は事務経理及び裏方を担当する事とし、夜中まで仕事をするパートナーは、ほとんど家に居ない。早朝から深夜まで一人で子供にひたすら向き合う日々となった。

このような状況になり、何かを変えなければ仕事ができない状況下で改めてデザインの仕事が好きだという事を自覚することができたのは大きな収穫だった。慣れてしまい渇望することを忘れていたが「そうか!私はデザインが好きだったのだ」とはっきりと自覚する事ができた。

そこでどうやっていこうかと実践に移すこととなる。在宅のフリーランスであるからこそ、途切れ途切れに訪れる限られた自分の時間を駆使する事が可能だと気づけた事も大きい。体力的に厳しい事もあったが、私にとってはやりたいことができないという事の方がよっぽど精神的にダメージが大きいという事実を知る。

その結果どうにかして限られた時間をやりくりする術(多方面に渡り、かつ長文となってしまうので割愛させていただく)や断続的な時間での作業方法を身につける事ができた。これは後々も役にたつ「効率化」にも繋がる大きな収穫だった。

 


vsコロナ



数年かけて三足の草鞋も何とか履きこなせてきたと思った矢先、未曾有の感染症による飲食店への大打撃が襲いかかってきた。細かい事やそれに対する思いは省略するとして、とにもかくにもこれはまずい。もちろん命が一番大事だ。しかしこのままでは店が潰れる、生活が経済的に破綻してしまう。近隣の他のお店も同じくだ。The大ピンチ。

そんな時、デザインの力が役に立つのでは、と周りが気づき始めてきた。テイクアウトの案内、感染症対策の店内表示、はたまたホームページやweb shopなど、近隣のお店や企業からの依頼が続発する事態が訪れたのだ。またそれを支援するかの如く助成金なども立ち上がり始め、それをキッカケとして近隣店舗や企業は今まで手付かずだったデザイン面でのアプローチへ手を伸ばし始めてくれたのである。

その結果、飲食店は要請に基づき時短となったり、休業したりと不安定な日々が続いているが、デザイン業は引き続き、近隣のクライアントさんの「コロナ禍に対する新しいアプローチ」に関するお仕事を頂けている。

また、自身の店舗のある商店街の活性化を目的とした企画が立ち上がり、そこにデザインとして協力する機会にも恵まれたのもこのコロナ禍ならではだ。往来の減った商店街での安心安全を保持した新しい試み、新しい動き。デザインの力とそれによって強化されるブランディングは窮地に陥った飲食店や商店街にもブーストをかけられる可能性がある。

ありがたいことにここにきて「街の、皆の、役に立っている」と感じる事ができた。それは移住当初から目指していた目標であり、まさかのコロナ禍という制約において、手が届くことになった。

以上がそんな今の自分を形成したこのとりとめのない経験談である。いくつかの制約が想像以上のブーストとなり思いもよらぬ展開や成長となったいくつかの事例。それがお読みいただいた方のほんの数人であっても、制約への捉え方がポジティブなものへと少しでも変わったのならば幸せだ。

自分の想像で切り開ける道は、あくまで「知っている」道でしかない。制約というブーストによって想像を超えて、時には手の届かなかった目標に、ぐんと近づく事もできる。全ては個人個人の捉え方次第ではあるが、せっかくなら見た事のない世界を見る為に、その壁を乗り越えるべく動き出してみるのもオススメだ。

図表 《クリックして拡大》

 

岡本 亜希  (おかもと あき)
veloデザイン製作所代表/wine&kitchen velo経営。デザイナー。埼玉県さいたま市出身。美術大学卒業後精密機器メーカーインハウスデザイナーを経て2013年夏、三重県四日市市に移住。現在飲食店経営兼フリーランスデザイナー兼1児の母。通常業務に加え、店舗のある商店街を中心に地域貢献、活性化を目指しデザインスキルを活かして活動中。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年7月号『制約上等!』に記載された内容です。)


制約が新たな未来を創り出す


 

今回の新型コロナウイルス感染症は、1918年のスペイン風邪以来の感染症拡大といわれている。戦時体制下ならいざしらず、少なくとも戦後の日本で、人の移動がこれほど大規模に制限されたことはなかった。

また今回のコロナ禍において、ほとんどの人が強制的に働き方を変えざるを得なくなった。働く場、働き方に関する考え方が今までとまったく変わったのである。こうした制約された環境が、人々の価値観や行動に大きな影響を与えていることは間違いないであろう。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年6月号『アルコール・ダイバーシティ 』に記載された内容です。)

「若者のアルコール離れ」が言われて久しい。けれども、言うまでもなくお酒好きの若者もたくさんいるし、あるいは飲まないけれどお酒は嫌いではないという人もいる。今回は25歳から30歳の男女4人をオンラインで繋ぎ、お酒に関する座談会を開催した。
出席者(仮名)
二郎(飲む・30歳・広告)、礼子(飲む・25歳・不動産)
麻里(飲まない・27歳・IT)、拓也(飲まない・25歳・IT)    
*お酒を飲む二郎と礼子は名前を青字に、飲まない麻里と拓也は赤字にしている。

 

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年5月号『土地の地力 魅力度ランキングかい? 実はすごいぞ群馬県』に記載された内容です。)


退職率35%、平均年齢58歳だった旅館が変われたきっかけ


 

「先輩たちが、人によって教えることがバラバラで、その人のやり方と違うと怒られる」これは今から約10年前、1年足らずで辞めてしまった新入社員に言われた言葉だ。親の代から引き継いだ旅館業。熱意を持って取り組んできたのだが、半年間で85人いたスタッフのうち30人が辞め、従業員の高齢化も進んでいたこともあり、倒産すると噂になるくらい悲壮感が漂う宿だった。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年3月号『変わる売り方 ~アパレルの未来~』に記載された内容です。)

新型コロナの影響で世界のデジタル化が加速する中、中国の躍進は特に目覚ましい。約14億人が暮らし、日本の26倍の面積を誇る中国EC市場の可能性は無限大だ。中国に向けた日本の情報提供、ビジネス展開のコンサルティングを手がけ、中国の主要メディアとの広いネットワークを持つ株式会社ミニマル代表・高村学さんに中国EC市場の最新動向を聞いた。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年4月号『なんとなく欲望の行方』に記載された内容です。)


水面下から地上へ、動き出す50代の欲望


 

この1年を振り返ると、コロナ禍の巣ごもりで、生活者の消費意欲が減退したことは言うまでもない。しかし、春の訪れとともに次第に気持ちは緩み始め、2度に渡る緊急事態宣言もなんのその、街は結構な人で溢れている。我慢してきた消費の糸が今すぐにでも切れそうだ。そんな中、一番最初に動き出しそうな50代女子に絞って「この先の欲望の行方」を探ってみた。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年2月号『多様なASEANか、閉じたASEANか』に記載された内容です。)

コロナウイルスは、2019年末に原因不明の肺炎流行として報道されて以降、年明けには新型コロナウイルスとして全世界に蔓延しました。足元では、ワクチンの投与も開始されていますが、依然として、地域、国によっては、第2波、第3波への対応に追われている状況にあります。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年2月号『多様なASEANか、閉じたASEANか』に記載された内容です。)

高まる保護主義や国境閉鎖は、一見、ASEANの多様性に逆作用するように思える。しかし、パンデミックの影響でその多様な文化や社会、行動様式そのものが変化していることに我々は目を向けなければいけない。変化をとらえ、物理的、そして意識的境界を越えていくには、創造性とアントレプレナーシップが今こそ求められる。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年1月号『新型でいこう』に記載された内容です。)

新型コロナウイルス感染拡大によって、3密回避、在宅勤務の推奨など、「人が集まること」に制限がうまれた。そのため、「リアル(対面)」の価値を再認識する機会となっている。日常のリアルはどのような状況になっているのか、体験的に書いてみたい。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年1月号『新型でいこう』に記載された内容です。)

コロナで見えた大きな課題、どのようにリスクに対応するのか、について“リスク管理”、“リスク排除”という観点から考えてみたい。今までも我々はリスク管理しながら生きてきたが、それは、“いつか来るかもしれないものに備える”というタイプの管理であった。例えば、損害保険、生命保険、火災や地震保険に入る、防災グッズを備える、防災訓練をするという類の備えをしながら生活していた。

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