コロナ変化後のブランド戦略/顧客体験をナラティブから設計する

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年11月号『アートで変える!』に記載された内容です。)

コロナ禍に見舞われた1年が終わろうとしている現在、国内メーカー各社ではようやく1年~3年先を見据えたブランド戦略の見直しに取り掛かれるようになったと言えるでしょう。しかし、これだけ大きく消費者が変化した今、従来通りの戦略の“決め方”で十分でしょうか。より顧客を中心に据えたブランド戦略や顧客体験の設計を行うために、「ナラティブ」からの戦略策定方法について解説します。

 


日本人の約半数が戻れない変化をすでに自覚している


 

生活者に及んだ変化は、コロナ禍が過ぎ去った後も残り続けるのかを調査した結果を紹介します。「あなた自身の『商品の購入方法や購入頻度、商品を選ぶときの基準や選び方』に変化はありましたか。」という質問を、日本全国20~69歳の男女を対象にアンケート調査を行い、集計しました。【図1】

結果、すでに商品の選び方や買い方に何かしらの変化があったと自覚している人の合計は55%にのぼり、そして変化を自覚した人のうち約80%が、すでに変化した自分の「商品の選び方・買い方」は、コロナ禍が過ぎ去っても「変化したままだと思う」と回答しています。つまり、すでに日本の約半数の生活者が、コロナ禍によって自分の購買行動に不可逆な変化が起こったことを認識しているわけです。

 


現在のマーケターは仮説不足


 

戦略を組み立てる際に、市場のデータや定量調査を駆使しているとしても、出発点には必ず「マーケターの仮説」が必要です。普段からマーケターの皆さまは、売り場に足を運んだり、データを確認することで、自分たちの顧客がどのような人であり、どういった時にどんな反応をするのか、という「顧客についての仮説」を前提にマーケティングを組み立てていると思います。

特に、売上データやアクセスデータなど、数値のデータを見て「これはこの施策がうまくいったからだろう」といったデータの背景や原因を推測できるのは、ひとえに「顧客についての仮説」が十分に頭の中にあるからだと言えます。

ところが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で生活者にとっての「当たり前」は更新されてしまいました。顧客がどのように認識し行動するのかといった、今まで描いていた「顧客についての仮説」は、新型コロナウイルス流行以前のものとは変わってしまっているのです。

今もしマーケティングのデータを見て、「原因がわからない」、「理由に確信が持てない」といった悩みを抱いているのであれば、間違いなくあなたに足りないのは「顧客についての仮説」です。マーケターに不足している仮説を取り入れるには、「ナラティブ」を用いた戦略策定が効果的です。

 


ナラティブとは顧客の「語り」



「ナラティブ(ナラティヴ)」は心理学や文化人類学で研究された後に、医療領域で実践的な発展を続けてきた領域です。例えば患者と医者がいるとします。患者は自分が「食欲がない」「おなかが痛い」と語ることはできても、「私は十二指腸潰瘍があるので**薬の投与が必要です」とは語ってくれません。

患者の語る言葉から、適切に病状を特定して治療を決定するのは医師の役割です。このように、ナラティブ(語り)の内容から、適切な医療を実現する為に研究が進められてきたものです。そして、この患者と医師の関係は、消費者とマーケティングの関係に非常に似ているとも言えるでしょう。

実際に顧客のナラティブを見てみましょう。このデータはコロナ影響で特に売上が落ち込んだ「リップ」についてのナラティブです。コロナの影響によりマスクをすることが当たり前になり、外出時でもリップをする必要が無くなった影響で、リップカテゴリの売り上げは昨年同月比で1/4程度まで落ちてしまっています。そんな中でも、「あえてリップを買った人」が、どのような体験を経て、この環境下でもリップをあえて買ったのかを語っています。【図2】

ナラティブを読むと、この消費者は一度「マスクをするのでリップをしなくなった」ものの、自分の笑顔が少なくなっていること、気分が上がらないことなど、リップが自分を彩るだけではなく、自分の気分をアゲてくれていることに気づき、マスクで隠れるとしてもリップを買って使用するようになった、という顧客体験が読み取れます。このように、顧客の体験変化をナラティブで収集することで、コロナ影響があった中での生活者変化を捉え、マーケターの顧客に対しての仮説が更新されるというわけです。

 


ナラティブを読み解く「アクセプターモデル」と顧客体験の設計



「アクセプターモデル」という構造を用いることで、ナラティブから顧客体験ストーリーを組み立てられます。アクセプターモデルは生活者がブランドを受け入れる過程を「現状体験」「課題感の発生」「受容価値」「生活変化」4つの段階で整理するものです。詳しい説明は拙著「顧客体験マーケティング(インプレス社)」で解説しています。このモデルを用いることで、ナラティブから顧客体験ストーリーを設計できます。【図3】

一般的には定量調査でマーケティングSTPを決めることが多いと思いますが、このような顧客体験ストーリーを念頭に、「受け入れてもらえる顧客は誰か」という視点でターゲット消費者の規模推定・評価や、ターゲットプロファイル特定と、ポジショニングの為の具体的な顧客体験ストーリーを一貫させることができます。

実際に、STP調査とナラティブ分析を組み合わせることで、中期経営計画における「顧客獲得戦略」の骨子をナラティブから作成した顧客体験ストーリーで描き、経営層への説明はもちろん、マーケティング現場やパートナー企業へ自社の目指す顧客体験を伝え、正しくマーケティング資源を集中するための材料としても使われています。

図表 《クリックして拡大》

 

村山 幹朗 (むらやま みきお)
株式会社コレクシア 代表取締役
2011年に株式会社コレクシアを創業。マーケティングリサーチを用い、顧客データに基づいたブランドの戦略策定・施策立案の支援を行う。現在までに5000件を超えるカスタマージャーニーを作成し、ブランドの成長を実現する顧客体験の設計を手掛けている。公益社団法人日本マーケティング協会認定マーケティング・マスター。

会社概要
株式会社コレクシアでは、100以上のブランドと5000件以上のカスタマージャーニー調査(ナラティブ分析)実績から、最新のマーケティング手法の開発とブランドのマーケティング支援を行っています。一般的なSTP調査から製品開発の為のナラティブ調査、実施施策の広告効果測定など、マーケティングサイエンスを応用した各種ソリューションを取り揃えています。

お問い合わせ先
株式会社コレクシア東京都中野区東中野4-30-9 リオイルハ2F
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電話:03-5937-0137(代表)     HP:https://collexia.co.jp/

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