コロナに立ち向かう世界のトップブランド、LVMH、メルセデス・ベンツ、ジョルジオ・アルマーニ etc.:日本のブランドはこれに続くのか

イタリア、スペイン、米国をはじめ世界各国で、新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るっているのは周知のとおりです。そんな中3月16日(2020年)、FORBUS JAPANのオンラインサイトに載った「LVMHが手指消毒剤をノーブランドで生産、病院などに無料提供へ」という記事が目に留まりました。
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「仏高級品大手LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンは3月15日、所有する3ブランドが香水を生産する施設を利用し、新型コロナウイルスの感染拡大で供給不足に陥っている手指消毒剤の生産を翌16日から開始すると発表した。消毒剤の生産に使用するのは、通常はクリスチャンディオール、ジバンシィ、ゲランの香水を手掛けている施設。ジェルタイプの手指消毒剤を週当たり12トン生産し、1週間後までに国内の保健当局と欧州域内の大規模な病院に無料で提供する予定だという。」


3月15日といえば、フランスの感染者数は4500人(4月2日現在6万人弱)、このアクションの準備に2週間かかったとして3月1日にはフランスではまだ感染者数は3桁に留まっていたはずです。この時宜を得たスピーディな、そして社会の深刻なニーズに応える適切で勇敢なアクションには頭を下げざるを得ませんでした。
(2020年4月3日現在フランスを含めた世界の感染者数の推移はこちら


LVMHに続け:欧州トップブランドが次々に「参戦」

LVMHに続いて、最近になって欧州のさまざまな著名なブランドが本業の得意技を「本業を離れて」COVID-19との闘いに全力で投入しているというニュースが次々と飛び込んできています。順不同でご紹介します。


■ジョルジオ・アルマーニは3月26日、イタリアの全生産設備を医療用オーバーオールの生産に振り向けミラノ、ローマ、トスカーナの医療従事者を守ることを発表

■ローマを本拠とするブルガリはイタリアの医療関係者のために数十万単位の消毒用ジェルを生産すると発表

■プラダはイタリア、ペルージャの工場で8万着の医療用オーバーオールと11万個のマスクの生産を開始し近日中に医療関係者に配布すると発表
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クルマのメーカーも負けてはいません。ジャガー・ランドローバーやアストン マーティンといった比較的小規模なメーカーが熱いです。


■ジャガー・ランドローバーは4月2日、同社の試作品製作事業部の技術を使って週に5000個のフェイスバイザー(顔全体を覆う保護バイザー)を生産し英国の医療関係者に配布すると発表
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■フランスのプジョー・シトロエン グループは3月31日、フランスの人工呼吸器専門メーカーと協力して、自らの工場、労働力、技術力を提供することにより5月中旬までに10000個の人工呼吸器を生産すると発表
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この記事では他にマスクが大幅に不足している事態に関して、あのランボルギーニまでマスクの生産に乗り出すと伝えています。

■昨日(2020年4月3日)入ってきたニュース。英国のスーパーカーメーカーのアストン マーティンは、同社のクラシックカー事業部が医療関係者のマイカーの応急修理を無償で引き受けると発表。同事業部の近隣には全国保健機構(National Health Servic)の本部があり約4000人のマイカー通勤者がいるとのこと。それ以外でも医療関係者は、どんなクルマでもすべて無償で対応するとのことです。
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やはりメルセデスが・・・

極め付きは、メルセデス・ベンツF1チームの動きです。

■英国ベースのメルセデス・ベンツ高機能パワートレイン事業部(HPP事業部:F1のエンジンを開発する部門)は、英国政府とロンドン大学(University College of London)医学部の要請に応えて重篤なCOVID-19の患者に必要な高機能人工呼吸器(CPAP)の量産体制の開発に取り掛かり、完成させた。そのプロジェクトは「プロジェクト・ピットレーン」呼ばれ、3月18日に召集されたメルセデスの技師とロンドン大学の医師と技師は驚異的な集中力を発揮して100時間ほどで開発を完了したという。現在テスト中で近日中に認可され医療現場に配置される予定とのこと。
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その中で、メルセデス・ベンツHPP部門の役員のアンディ・コーウェル氏は「F1の仲間は援助の要請に対して素晴らしい反応をした。「プロジェクト・ピットレーン」の名の下に国家のニーズに応えるためにさまざまなプロジェクトからメンバーが集結した。・・・われわれの全資源、全能力をロンドン大学(University College of London)に提供し、人工呼吸器開発のプロジェクトを最高の品質で可能な限り最短な時間で実現させることができた」と胸を張る。


それに答えてロンドン大学機械工学科のティム・ベーカー教授は「緊急の要請に応えて、通常何年もかかるプロセスをほんの何日かに短縮することができ感謝に堪えない」と語っている。既存の専業メーカーだけに頼って「人工呼吸器が足りない」と叫んでいる日本政府はこのニュースを知っているのだろうか。


社会のために燃えるということ

普通の会社はこのような危機に「大変なことになった。どうしたらいいのか」と頭を抱えます。社会をリードするという自覚のあるごく少数のブランドは、同じような困難に直面しながら今ご紹介したように「大変なことになった。われわれに何ができるのか」と立ち上がります。


ランボルギーニがマスクを生産し、メルセデスが人工呼吸器を開発するのは普通では考えられない「とんでもないこと」です。でも自分たちが持っている技力、知力、胆力を総動員して今困っている社会、国家、世界のために何を生み出せるのかを考える人たちにとってはこれらの帰結はそれほど不自然なことではないかもしれません。


平時では見えなかったいい会社と普通の会社の根本的違いがこんなにクリアに見えるのはこの危機のおかげかもしれません。危機に慌てて元気をなくすのではなく、そのようなときこそうちの出番だと「社会のために燃える」会社のお手本がいくつも目の前に現れてくれたのは筆者にとっては大変な刺激です。ここまで読んでくださって感謝です。皆様にとっても何か一つでもいい刺激になればこんなうれしいことはありません。

追補:日本企業の動き(2020年4月8日追加)

日本の企業も一部ではありますが立ち上がっています。

■シャープ:おそらくこれが一番早い動きでもう広く知られていますが、2月24日にマスクの生産を決定し、3月24日から同社三重工場で生産を開始しました。日産15万枚から始め最終的には日産50万枚を目指すということです。
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■富士フイルム:これもよく知られていますが、新型インフルエンザ治療薬「アビガン」に関する動きです。2月下旬から動きがありますが、3月31日にメーカーである富士フイルム富山化学が国内で実際の患者を対象にした臨床試験を開始したとのこと。厚生労働省も関わる複雑な状況です。
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■ファーストリテイリング(「ユニクロ」、「GU」のメーカー):3月26日医療用マスク約1000万枚を日本や海外の医療機関へ寄贈すると発表しました。
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■資生堂:4月1日、「アルコール消毒液の生産を米欧で始める。化粧品を作る際に必要なアルコールを扱う技術をいかす。既に3月末にフランスで開始し、米国でも4月6日をメドに着手する。」と発表。なぜ米欧? 日本は?という多くの声が筆者には届いています。
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■トヨタ自動車:この記事が出た直後の4月7日、次の一報が入ってきました。「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、トヨタ自動車は7日、グループと連携し医療現場の支援に乗り出すことを表明した。自社工場で医療用品の生産を始めるほか、医療機器の増産支援でも協力する。グループが持つ製造・物流面のノウハウや世界に展開するサプライチェーン網を活用し、感染症の治療や拡大防止に貢献する。日本の基幹産業である自動車業界が復興のけん引役となり、経済・社会の正常化を根底から支える構えだ。」(日刊工業新聞)こちらに相当詳細な記事があり、登録により無料閲覧できます。
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遅ればせながら、ですが今後このような動きが加速することを祈りたいです。


追補2(2020年4月9日追加)

■花王:さらなる大きなニュースです。「 品薄が続いている除菌・消毒用アルコール製品に「一筋の光」が差しそうだ。   花王は2020年4月9日、新型コロナウイルス感染の影響で品薄状態が続いているアルコール消毒液「ビオレu 手指の消毒液」、業務用「ハンドスキッシュEX」の生産を4月後半から、これまでの20倍以上に増やすと発表した。」(J-CASTトレンド)
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花王広報は「1月後半から大きな需要が発生したことを受け、2月から全力で増産を行ってきた。直近3月は昨年の3倍ペースで増産してきたが、それでも供給が追いつかない状況」と説明。「これまでは政府の要請を受けて医療機関や介護施設などに優先的に供給してきましたが、今回の増産により、試算では一般の家庭向けの供給も増える見通しです」とのことです。
消毒液が店頭に並び消費者に届くのは5月以降になりそうです。スローな感じは否めませんが朗報です。

 

【これに関連する2020年4月10日以降の動きは、以下をご覧ください】
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片平 秀貴(かたひら ほたか)
丸の内ブランドフォーラム 代表  
2001年、「丸の内」ブランド再構築のお手伝いがきっかけで丸の内ブランドフォーラム(MBF)創設。「社会に笑顔の火種をつくる」の信念のもと、同志とブランド育成の勉強と実践を続けている。2010年から『マーケティングホライズン』誌編集委員長。趣味は仕事とラグビー、併せて2019年に東京21世紀管弦楽団創設

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