組織は魔物か、未来への道しるべはあるのか?

組織のあり方には、絶対的な正解などありはしません。しかし、ともすると哲学的なお話や組織の「ハコ」としての形体論などに終始して、実効性を伴わない施策ばかりということもしばしば。毎年のように組織をいじっていても、さして改善するわけでもなく、本質的な組織の課題はそのままになっていることがほとんどでしょう。

ですが、一人ひとりの行動や現場に多大な影響をもたらすのが組織というものです。歴史のある大企業だと、いまある組織にがんじがらめに縛られていることも珍しくありません。ベンチャー出身の若い企業でも、一度成功して大きくなると、おかしなカルチャーが定着して調子が悪くなった例も一つや二つではありません。
組織とは得体のしれない魔物なのでしょうか?

 

企業文化の新たな波
9万人を擁する監査法人超大手のアーサーアンダーセンが2002年に消滅しましたが、当時同社にいたテルモ株式会社の佐藤慎次郎社長は、ジャック・ウェルチら著「ウィニング 勝利の経営」のミッションとバリューの章にある、「企業の使命と社員の行動に一貫性がなくなったとき企業は滅びる」という一節をその原因だと戒めます。


この例は、組織は魔物となりえることを示しています。このように企業文化の劣化ゆえに、衰えたり消え去る会社があります。これは企業文化の負のサイクルですが、逆に企業文化は正のサイクルも生み出します。トヨタなど日本を代表する巨大企業も学ぶ伊那食品工業株式会社や、世界的に研究されている米ザッポスなどは、その分かりやすい例でしょう。


しかし、伊那食品工業やザッポスはユニーク過ぎて真似ができない、という声もよく聞きます。それは本当でしょうか?
これは企業文化についての正しい理解が欠けているから起こる錯覚でしょう。そもそもマネする必要もなければ、企業文化をコピーすることなど無理です。実例から学んで、我が社はどうありたいのか、考えることです。世界の様々な組織に企業文化重視の経営を指南しているデリバリング・ハピネス社のジェン・リムCEOが示しているように、やる気になれば、企業文化の醸成は可能でしょう。
世界的にはこの数年、企業文化や社員の幸福度がますます注目されています。ハーバードビジネスレビューの2012年1-2月号は「The Value of Happiness - How employee well-being drives profits」(日本版2012年5月号「特集:幸福の戦略」)をテーマにし、2014年出版の書籍「Reinventing Organizations」(邦訳「ティール組織」)は話題沸騰となりました。


企業文化はそれ自体は大昔からあるものですが、リム氏のようなアプローチは、新たな組織論の一つととらえてよいのではないでしょうか。Airbnbなど米国の成長企業では、例えばCulture Ampのような企業文化づくりのためのツール(日本でもHRテックなどと呼ばれ注目されている)を活用しています。このように、企業文化の醸成をプロセスとしてマネジメントするのは、かつて日本ではあまり見られなかった取り組みです。


松林博文氏が紹介しているエンゲージメントを高めるwevoxなどのように、日本でもようやく、こうしたツールが登場してきたのは歓迎したいことです。
と言っても、ミレニアル世代を惹きつけるスチューデント・メイドのクリステン・ハディードCEOが言うように、企業文化づくりは容易なことではなく、経営において最重要課題としなければうまくいきません。そして人が集まった組織が相手ですから、粘り強く取り組むことが不可欠です。



自律型組織を実現するには?
では、企業文化だけにフォーカスしていればよいかというと、そう単純ではありません。例えば、強力な企業文化を持つザッポスは、思い切ってホラクラシーを導入しました。これは、組織が大きくなるにつれ、企業文化だけではカバーできない問題が目立ってきたためです。逆に、適切な企業文化なしに、ホラクラシーやティール組織を、というのは、土台のないところに建築するようなもので、うまくいかないでしょう。両方が重要です。


リム氏は、ティール組織は素晴らしいコンセプトだが、ティールやホラクラシーなど注目されている自律型組織の実践は容易ではないのでトレンドに乗って安易に取り組むな、と忠告します。「(自律型組織にはボスはいないが)マネジャーによくやったと言われたいとか、いままで教えられてきたことから変わり難いとか、人間の行動と心理について理解することです。」と指摘し、時間がかかることであり、すぐ100%の成果を求めないことだとリム氏は言います。


書籍「ティール組織」を日本に紹介した嘉村賢州氏が指摘するように、安易な考えや拙速なやり方では、ティール化はうまくいかないどころか、かえって混乱や問題をひき起こすことになるでしょう。
こう言うと、やはりティール組織は日本企業には無理か、と思われるかもしれませんが、嘉村氏の言うようにできないことではありません。


企業文化について、成功例をマネしないこと、と述べましたが、ティール組織でも似たことが言えます。日本の方は、マジメ過ぎて、事例や教科書通りにやろうと考えがちですが、もっと現実的に考えましょう。「ティール組織を無理に目指すのではなく、健全なオレンジ組織やグリーン組織を作っていくのも一つの方法かもしれません。」と嘉村氏が言うように、しっかり学んだ上で、我が社ならどうするかと主語を立てて柔軟に作戦を練ることです。



新たな経営のあり方を探る
新たな組織論の実践には、企業文化はもちろんですが、業績評価や社内コミュニケーションなど組織をつくる様々な仕組みやプロセスを転換することも必要です。知恵を重ねて、じっくりと取り組まねばなりません。


なお、歴史ある日本の大企業マネジャーから、「これからの社会と人は、ティール的になっていくだろう、すると企業の組織もティール化していかざるを得ないのではなかろうか」という声も聞かれました。多様化し、一人ひとりが選択し、また人として扱われることを望み、自由に人とつながる、そんな社会になって、これまでの組織でいてはズレてしまうでしょう。


すると経営の発想も問われるでしょう。下図の経営モデルを見た新興上場企業の社長は、「目的が中心にあるのはすごい腹落ちする。こういう形にしないとみなハッピーにならない」と同意し、さらに「売上高1兆円とか唱える上の世代の経営者もいるが、誰が幸せになるのか?」と違和感をつぶやきます(なお、ザッポスはハピネスを目的にしている)。売上や株主利益のためだけでは共感は得られないとの声もあります。
新たな組織論は時代の変化から生まれたものであり、新たな経営へと進化するための、いわば未来への道しるべの一つにできるかもしれません。

 

本荘  修二   (ほんじょう  しゅうじ)
本荘事務所 代表
多摩大学大学院経営情報学研究科(MBA)客員教授
新事業を中心に、イノベーションやマーケティング、IT 関連などの経営コンサルティングを手掛ける。日米の大企業、ベンチャー企業、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。
500 Startups、始動 Next Innovator、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、 コミュニティづくりに取り組む。

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