その父は数学を生業としていた。きっと息子には自分以上に数字に強い人間に成長して欲しかったのであろう。(少し古いがまるで漫画「男どアホウ甲子園」のようだ。)私自身も息子はいるが流石にごく普通の名前をつけたし、母も私の名前を決める際には文句があったようだ。
ただ、残念ながら父の期待に沿うことなく、その思い、つまり父の持つ数字への憧れや美意識とは無関係に成長し、ここまで来てしまったのだが。話は変わる。数字に美しさを見つけることがままあるが、発見したこともさることながらネーミングにおいて常々感心する大変美しい数字の組(ペア)がある。
それはルース=アーロン・ペアといい、2つの連続した自然数のそれぞれの素因数の和が、互いに等しくなる組のことであり、とても少なく、20000以下では26組しか存在しない。(小さい順に列記すると(5,6),(8,9),(15,16),(77,78),(125,126),(714,715),・・・と続く)
米国のプロ野球大リーガーの往年のホームラン王、ベーブ・ルースが、1935年に当時歴代1位となる通算ホームラン記録714本を達成。その後のホームラン王ハンク・アーロンが1974年に通算715本のホームランを放ち、その記録を超えた。それぞれの記録(714,715)がこの性質に当てはまることからこの名前がついたという。この数字を美しいと感じるのは私だけではあるまい。
少々、現実に戻り、美とは遠いかもしれない数字の集計として、このタイミングで紹介できる日経広告研究所の調査に、昨年9月にまとめた日本経済新聞社デジタル事業の「NEEDS 日経財務データ」を基にした2018年度の「有力企業の広告宣伝費 2019年版」がある。
非上場の大手企業を含む3185社(親子上場を除く)の連結決算ベースの広告宣伝費は5兆9193億円となり、17年度に比べて1.1%増と2年連続のプラスであった。これは高水準の18年度の企業業績が下支えした模様。
業種別の広告宣伝費の動向では、最も多かった自動車は1兆841億円で17年度に比べて4.2%減少。2位はサービスで14.7%増の9282億円、3位は小売業で1.6%増の8365億円、4位は食品で2.8%増の6958億円、5位は電気機器で6.5%減の6369億円となり、業種間の差が目立った。次に売上高に占める広告宣伝費の割合をみると、2.6%と17年度に比べて0.1%上昇した。
さらに、時系列で09年度から18年度までの10年間の有力企業の売上高と広告宣伝費の前年度比の増減率の推移をまとめてみた。やはり、景気動向に左右される広告宣伝費は、リーマンショック翌年の09年度、東日本大震災の11年度、英国の欧州連合離脱決定や米国大統領選でのトランプ氏勝利などがあった16年度にマイナスとなっている。(図表1)
09年度から18年度までの有力企業の売上高広告宣伝費比率(連結決算)の推移をみると、右肩上がりで上昇傾向となり、18年度も高い比率となった。(図表2)
単独の広告宣伝費については、18年度は17年度比2.2%増と4年連続のプラスとなり、単独の伸び率が連結の伸び率を上回る結果となった。業種的には単独広告宣伝費でも非製造業の堅調さが目立った。
19年度についてはもちろんこれからの集計となるが、日経広告研究所が19年7月時点で行った広告宣伝費の予測は、前年並みとしている。それでは本年2020年はどうなるのか?ラグビーワールドカップ2019が成功したように、東京オリンピック・パラリンピックが牽引車となり、予想以上の景気の向上をもたらすことを期待したい。
数字に美を見つけることは、美的感覚に優れない私には珍しく興味があることだ。ただ、現実的にはなかなかそのようなチャンスがない。広告営業時代は売上数字をまるくまとめたり、マーケティング調査担当の頃も調査や集計で何とかうまい数字を探したりと、美とは程遠い。それでも数字に戯れ、そこに何らかの美を求めて、日常生活を慎ましく過ごすことが、私の美意識を満足させることにつながっているのかもしれない。
渡部 数俊 (わたべ かずとし) 日経広告研究所 専務理事
1985年日本経済新聞社入社。広告局マーケティング調査部長、クロスメディア営業局局次長、株式会社日本経済社執行役員経営企画室長などを経て、2019年4月より現職。日経広告手帖編集担当として計108冊の編集に携わる(1999年3月号~2005年2月号)。