美しい言葉と科学(ONE TEAMのための論語とソロバン)

2020年である。昨年はラグビーワールドカップで大きな盛り上がりを見せ、いよいよ今年は東京オリンピック・パラリンピックである。前回の大会では白黒テレビの前に座り、訳もわからないままに選手の応援をしていた事を朧気ながら覚えている。

当然の事ながら、全世界から多くの方々が来日され、観戦のみではなく、日本の多くの観光地を訪れ、様々な日本の文化、そして食文化、また多くの方々と触れ合い、日本の素晴らしさを自国に持ち帰り広めて頂けることとなるであろう。


一方、2020年以降は様々な世の中の変化が具体的に現象面として顕われてくる時代とも言えよう。
様々な将来の変化を予測する書物、講演が花盛りであるが、2020年から2025年迄の5年間でほぼ顕在化する事例が多いように思われる。


団塊世代の後期高齢者化、AIと人との仕事量の逆転、SNSに代表されるコミュニケーション手段の大きな変化、ウェアラブル端末普及、VR・ARビジネスの普及、健康からウェルネスへの意識変化等々、枚挙の暇はないほどであろう。


結果として私達は自らを含め様々な意識の変革と同時に自分軸の揺らぎを感じる事があるかもしれない。フィルターバブル(好む情報しか配信されず、全体像が見えなくなる現象)、エコーチェンバー(他者の意見に対する同調圧力)等は良きにつけ悪しきにつけ最たるものであろう。そうした中で、幸せの予感よりも不安の感情のほうが強い方もいらっしゃるのではなかろうか。かく言う私も、不安の感情が大変強くなっていると思う。


どうしたら、不安感から幸せに感情を転化できるか。答えは全く見つかっておらず七転八倒しているが、美意識というキーワードの中で自分なりの考えを述べてみたいと思う。


美しい言葉による面授

世の中には、幸せになるための心の持ち方、コミュニケーションの仕方等に関する書籍や講演会が数多くあるようである。多くの場合に共通する事は、他者に対し、自らに訪れた現象面に対し、ありのままに受け止めその時点では不愉快かつ窮地に陥った場合でも感謝の気持ちを持つことであるようである。「ありがとうございます」「感謝いたします」という言葉でなかろうか。

またどんな窮地においても自分自身の不幸を嘆く事ではなく、「自分はツイテいる」「自分は運が良い」といった言葉を発する(口から発する事と心で呟く双方を含む)事によって幸せを手に入れるというものである。


翻って自らを省みると、きたない言葉を使い、不平不満を口にし、自らのツキの無さを嘆くといった有様で、心がどんどん貧しくなり猛省しきりである。


当たり前かもしれないが今一度冷静になり、感謝という言葉の意味を嚙みしめる事の重要性を痛感した次第である。「言霊」という言葉があるが、まさに幸せな気持ちで日々を過ごせるか否かは、心の問題であると同時に発する言葉によるものであろう。人を楽しませ幸せな気持ちにするためには、先ず自らが楽しみ幸せな気持ちとならなければならないと言われている。


言葉には「大和言葉」と漢字に由来する「唐言葉」があると言われているが「おもてなし」に代表される「大和言葉」の美しさと優しさを見直し、自らの言動も変えてゆきたいと考える次第である。(おもてなしという言葉は聖徳太子の十七条憲法の和をもって尊しとなすからきた言葉という説があるそうです。)


自らの猛省の中で述べているが、変化が大きい中で、自らの立位置を保ち流されずに生きてゆくためには重要な事ではなかろうか。抹香臭い話になっているが、そのついでに仏教用語に「面授」という言葉があり『正法眼蔵』『葉隠』にも出ている言葉である。


要はフェイスtoフェイスのコミュニケーションであるが、相手の気持ちや理解度を慮りながら、顔を合わせてコミュニケーションし価値観を共有する事のようである。最も効果的なコミュニケーションといわれているが、慮る事は相手との価値感の共有の場を作る事であろう。


ONE TEAMであるためには

過日、日本トレーニング指導者協会学会大会に参加させて頂く機会を得た。発表の中で、今回のラグビー日本代表チームを支える様々な事例等の発表があった。


ONE TEAMであるためには、そしてあの体と体が激突するラグビーの中で今回の素晴らしい成績を得た背景というものの一端を勉強させていただいた次第である。


一言で言えば、今回の好成績の背景には、高度の自然科学と社会科学の融合があったという事かと自分なりに理解したつもりである。


最先端のIT技術を活用し個別選手の高いパフォーマンスを発揮させるための指導管理、そしてフォーメーション管理、激しい練習と様々なダメージからの回復を図る食事指導やリカバリーツールを活用したリカバリー策の徹底と感嘆の機会に暇はなかった。


「HARD WORK  HARDRECOVERY」という言葉が随所に出てきたが、まさに、自然科学的アプローチの粋を集めたものであった。一方、日本代表チームの選手構成は、様々な言葉や文化を持った選手たちからなっており、ONE TEAMとしてビクトリーロードを歩むためには言葉や文化という大きな壁があったとの事であった。ビクトリーロードという共通の目標のためには、先ずは壁を超える必要がある。


壁を超えるという事は壁がある事をきちんと認識した上で、他者の気持ちを慮りながら一つの価値観を作りあげる事ではなかろうか。


他者を慮るためには、自らが自分軸を持って他者と接する必要、ありていに言えば、心の余裕が必要であろう。鳥取県の境港には「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者である水木しげる氏の記念館があるが、そこで第二次世界大戦中、敵に追われ撤退する時に水木先生があの有名な「ぬりかべ」に遭遇されたというインタビュービデオが上映されている。必死になって撤退する時にどうしても前に進めない壁が現れたとの事である。


しかしながら、しばらく休み進もうとするとサッと通る事ができたとの事である。このお言葉の意味は深いものがあるのではなかろうか。ほんの少し立ち止まり休む事の大切さではなかろうか。


変化が激しい時、自らに自信が無い時、しばしば何かに急き立てられるような気持ちとなり、心の余裕と優しさを忘れがちである。


2020年、感謝の気持ちと言葉、そして、一方では厳然たる事実であるデータを念頭においた判断を下す自分軸を持った人間に少しでも成長したいものである。私が考える美意識とは、優しさと冷静さとそして少しの心の余裕を共に持てる事なのかもしれない。




中島 聡(なかしま さとし)
株式会社明治 執行役員 マーケティング・開発統括本部 マーケティングソリューション部長
生活者・流通業・情報技術革新等を踏まえた統合マーケティング戦略策定業務に従事。他に、公益社団法人日本マーケティング協会常任理事、明治大学大学院グローバルビジネス研究科兼任講師、気仙沼水産食品事業協同組合顧問を務める。

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。

このカテゴリをもっと見る

トップに戻る