「…そうです」と他人事のように言うのは、まさに私にとっては他人事だからなのですが、どうにもこうにもeスポーツにはいろいろ納得できない点があるので、ここではeスポーツを通してスポーツについて考えていきたいと思います。
ゲーマーの矜持は何処に
そもそもコントローラーを手にしてモニタに向かって行う対戦ゲームを「eスポーツ」と言ってしまうところが腑に落ちません。
従来のリアルスポーツの動きをVRやARを用いて競い合う競技なら納得できるものの、対戦ゲームをスポーツ呼びすることにどうしても無理矢理感を禁じ得ません。
一般社団法人日本eスポーツ連合の定義によれば、“「eスポーツ(e-Sports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称”、とのことですが、そもそもどうしてスポーツ競技として捉えなければならないのか、正々堂々とゲーム競技でいいではありませんか。
「最も強く、最も美しい戦い方をする、ゲームの絶対王者を決めるのだ」と、スポーツなどに日和らずゲーマーとしての誇りを貫いて欲しい、そんな気持ちです。
わざわざスポーツの仲間に入りたがる点が、自ら深いコンプレックスを抱えていることを吐露しているようで、その時点でスポーツっぽくないのです。
要するに何がスポーツなのか
「そんなにゲームばっかりしてないで、少しは外で体を動かしてきたら?」「は?ゲームじゃねーし、スポーツだし」そんな親子の会話が既に日本のあちこちで展開されていることでしょう。
大義名分を手に入れて、してやったり感のある子ども。(どう考えてもスポーツじゃねーし)と、どうにも納得しきれず歯ぎしりする親。モニタを見つめながらコントローラーをせわしなく操作する姿を果たしてスポーツと認めていいのかどうか。どうしてこれがスポーツなのか。ゲーム部があったら、それは体育会系なのか。親の頭の中は混乱の極みです。
確かに対戦ゲームでは反射神経、動体視力、集中力に持続力など、求められる身体能力はスポーツ並みです。さらにチームで戦う以上、日頃のチーム運営と心理面をも含む作戦も大きな影響力を持ちます。
各国で行われている大会では億単位の高額な賞金も手伝って、観客も一体になってタオルを振り回しながら大声援を送り、サッカーワールドカップ同様に、プレイヤーと応援がひとつになって熱く激しいひとときを展開する会場の熱気。そんなさまがスポーツなのでしょうか。しかし、プレイヤーと応援の熱い一体感はスポーツだけのものではありません。
畳の上の格闘技である競技かるたや、書道パフォーマンス、ロボコンなどの競技も、大会に出るまでの日頃の精進も含め、スポーツと言っても認められそうですが、わざわざ自らスポーツを名乗ることはないでしょう(来年あたりjスポーツとか言い出したらどうしよう…)。スポーツに日和らない潔さが清々しく、むしろスポーツ的であると感じます。
スポーツ・フィルターの弱体化
要するに、スポーツを名乗ることによる「得(得する人たち、得する団体)」が、あまりに透けて見えてしまう社会になってしまったのでしょう。透けて見えてしまうがゆえに、かえって胡散臭さを感じる機会が増えたのです。
eスポーツについても同様に、思い切り開き直ってゲーム道をゲーム的に突き進んだ方がカッコいいものを、清く正しく爽やかなイメージがあるスポーツを名乗ることで、どうしても払拭しきれないゲームの後ろめたさを希釈したい、スポーツカテゴリーとして運営してより多くの実利を得たい、という邪さが滲んでしまうのです。
スポーツに対して誰もが抱く清廉潔白なイメージや、アスリートたちの美しい汗や勝負の場に臨むまでのドラマ。それらに対してわたしたちが抱いている幻想資産の悪用のされ方が露骨かつチープになってきているように感じます。
必要以上にスポーツ色が強調されるとき、そこには何か隠したいものがあるのだろうなと穿ってしまう習慣を、SNSや多様な情報を通して人々は身に付けています。
ごまかしのないリアリティが最上の価値がスポーツの大きな魅了の一つです。そうした本物を味わう喜びが今まで以上に訪れる2019年、2020年、小手先のチープな戦術ではなく、真に本質を捉えるマーケティングにこだわって新たな年に臨みたいと思います。
ツノダ フミコ(つのだ ふみこ) 株式会社ウエーブプラネット 代表
生活者調査・研究からのインサイト導出、コンセプト開発を多数支援。調査結果からインサイトまでをシームレスに構造化する協調設計技法Concept pyramidⓇやインサイト・インタビューなど企業内マーケティング人材に対する研修も手掛ける。子どもの頃から球技と器械体操、運動会が苦手だが、10年に一度しか開催されない「宝塚大運動会」は好き。2018年は初めてハーフマラソンに参加、2020年にはフルを走れるようになりたいとカラダ作りをイチから見直し中。