スポーツ観戦の醍醐味 :「自分事」に寄せる

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年1月号『スポーツ2019 2020』に記載された内容です。)


少年野球を経て、中学(軟式)、高校(硬式)、大学(準硬式)と、ずっと野球部に所属していた。

小学生の頃は(気持ちだけ)プロ野球選手を目指していた。TVで野球中継を見ながら、好きなプロ野球選手や、癖のある選手のフォームを真似したりして、TVの中の野球を「自分事」に一生懸命寄せていた。もっとも、少年野球チームに入ってからは、基本を叩き込まれ、プロ野球選手の真似をすると叱られることになるのだが・・・。


中学、高校になると、TVでの野球観戦は研究の場となった。速い球を投げるための投球フォームや、ピンチの時の守備体系など、「自分事」への寄せ方も少しずつマニアックになって行き、野球というスポーツの奥深さを理解するようになった。


高校時代、同い年のKKコンビが大活躍していた甲子園には到底及ばず、野球の奥深さとともに、自分の実力も客観的に評価できるようになったこともあり、大学に進んでまで野球をするつもりはなかった。


時はバブル真っ只中、大学入学後、流されるままにテニスサークルに入った。今でこそ、錦織圭選手や大坂なおみ選手の活躍もあり、スポーツとしてのテニスもメジャーになったが、当時は、松岡修造選手がウィンブルドンの男子シングルスでベスト8に進出する前の時代で、大学のテニスサークルはスポーツいうよりはファッション的な意味合いが強かった。


スポーツニュース等でテニスが取り上げられることも当時はまだ少なく、YouTubeもない時代、恥ずかしながら、テニスのルールも醍醐味も、実はあまりよく知らなかった。テニスを「自分事」に寄せる術もなく、程なく練習からも遠ざかり、気がついたら準硬式野球部の部室を訪れ、練習の見学を申し出ていた。


バブル真っ只中の大学で、自ら体育会に顔を出し、見学まで申し出る輩はそういるものではない。当然のことながら、単なる見学だけの予定が、練習前の挨拶で「明日から練習に参加することになった」ということで紹介され、結局、大学でも体育会で野球をすることになった。


小学4年から続けた野球で、大学3年頃になると、肩も肘も悲鳴を上げ、野球観戦はもっぱらベテラン選手の投球術を学ぶ場となった。西武ライオンズの東尾修投手の日本シリーズでの配球は、TV観戦やスポーツ新聞を通じ、かなり研究した。


13年間も野球を続けられた理由を今、振り返れば、野球が生活の一部になっていたことや、野球を通じ自分自身を表現できたこと、そして何よりも野球が好きだったことにあらためて気づかされる。自分自身と野球が生活の中で一体化し、まさに「自分事」そのものになっていた訳である。


大学卒業後、社会人になり、プレーする野球から離れてからは、少しずつプロ野球観戦からも離れていった。気がつけば、年下のプロ野球選手が活躍する時代になっていたが、現役時代同様、「俺が大学の時の中学生か」など、無理にでも「自分事」に寄せて考える習性は相変わらずだった。


ただ、平成7年(1995年)に野茂英雄投手がメジャーリーグにデビューした頃から、「自分事」の捉え方が変わってきた気がする。それまで、日本人選手がメジャーリーグで活躍するなどということは全く考えたことがなく、もはや現役選手としての「自分事」に寄せる術はないが、日本人選手の活躍を同じ日本人として「自分事」に寄せることで、野球観戦の楽しさを再発見することに繋がった。


その後、メジャーリーグでは、イチロー選手がレジェンド的な存在となり、大谷翔平選手の活躍は、もはや漫画の主人公のような世界だ。今、少年野球をしている子どもたちは、これらの選手を「自分事」に寄せて考えることが出来るのだろうか?


あまりにも凄すぎて、昭和世代の人間としては、少しばかり心配になる。しかし、子どもたちの無限の可能性や、純粋無垢な想像力のもとでは、おそらくそのような心配は無用だろう。イチロー選手や大谷選手のプレースタイルや野球との真摯な向き合い方を「自分事」に寄せて参考にしたり、真似したりすることで、未来のメジャーリーガーが生まれてくるのだと思う。


歳を重ねるごとに、スポーツはプレーするものから、観戦するものへと変わっていく。スポーツ観戦の醍醐味は、突き詰めて考えれば、結局、ハラハラ・ドキドキすることなのだと思う。ハラハラ・ドキドキの源泉は、自分自身が応援する選手やチームがあることが前提となる。


つまり「自分事」に寄せて観戦できるか否か、ということだ。国籍や出身地域、ジュニアの頃から応援していたなど、自分との共通点や拘りのポイントが深ければ深いほど、応援に熱が入ることになる。


故に、予定調和の中で無理に感動を煽るような演出をスポーツ中継の中に織り込んでも、視聴者の心には響かないのだと思う。人は誰かに頼まれなくても、勝手に「自分事」に寄せてチームや選手を応援するし、そもそもスポーツは予定調和でないことこそが最大の魅力だからだ。今年も1年、ハラハラ・ドキドキを味わいながら、スポーツ観戦を堪能したいと思う。



見山 謙一郎(みやま けんいちろう) 株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役専修大学経営学部特任教授、事業構想大学大学院特任教授。
環境省・中央環境審議会(循環型社会部会)委員や上場企業の新事業創造研修の企画、推進およびアクセラレーターをつとめるなど、産学官民を和えながら、アントレプレナー教育とイノベーションの創出、実装支援に従事。バングラデシュとの縁も深く、現地財界とのネットワークをベースに、これまで多くの日本企業の進出支援を行っている。

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