ミレニアル世代が壊す業界地図とPUGCの台頭

2018年、現スリランカ首相(ラニル・ウィクラマシンハ)の実弟ニラーチ・ウィクラマシンハ(スリランカ初の民放局の元CEO)が僕のスタジオに遊びに来てくれた。2027年頃を予定しているスリランカの放送のデジタル化が遅すぎることを危惧し、日本の情報配信のやり方を教えに来て欲しいと言ってきた。

そこで僕が運営しているクロマキー配信スタジオと同じような設備をコロンボに作り、クリケット選手をKOL(Key Opinion Leader)としてデビューさせる策を練ったり、毎日放送している国営ロト番組のwebへの移行について議論を進めている。


たまたま同時期にミャンマーの国営テレビMNTVのCEOとも議論する機会があった。ヤンゴン都市部のインターネットの高速化が進むとともにコンテンツの消費場所も移りゆく。放送局は多額を投じたコンテンツ制作ができるのだから配信場所をネットにも作れば良いという議論で大いに盛り上がった。


しかし、日本のコンテンツ産業はどうだろう。消費者が何を視聴するか選ぶときにはメディアではなくコンテンツ自体で選定される場合が多いにも関わらず、放送局と広告代理店が保ってきた古い枠組みは新陳代謝が叫ばれても遅々として変化しない。放送局が変われないのであれば、コンテンツの作り手である制作会社からイノベーションが起きるべきである。僕は世界的なPUGC(Professional User Generated Contents)チャンネルが台頭し業界地図を塗り替える将来がくると確信している。その時、日本企業は舞台に立てているだろうか。


ミレニアル世代が中心となるメディア変革の第一のポイントは、好きなコンテンツは好きな時に、好きな場所で好きなデバイスで消費することが常識になるということだ。この消費者の意識転換により、日本でも最大の広告費の消費先である「テレビコマーシャル」は今後衰退し、テレビのビジネスモデル自体が変化を余儀無くされる。


放送の歴史をたどると、高度経済成長時に安定経営のため長期雇用が必要だった当時の日本は、「いつかはマイホーム」という夢を国民に与えてきた。それは三十年にわたる途方もない借金を作らせることで、長らく家族ごと会社に従属する終身雇用のライフスタイルと暮らしのスタンダードの定着に大きく貢献した。マスメディアが、流行を作り、ライフスタイルと購買動機を決定し、牽引してきたメディアの黎明期だ。


しかし、インターネットのインフラ整備、スマホの普及、コンテンツの充実によって、可処分時間、可処分所得の使用方法は一変した。自由な消費者は縛りを嫌う。特に平均年齢の低いアジア諸地域のミレニアル世代はその傾向が顕著である。好きな時に好きな人と好きな場所で、は必要条件だ。


NetflixやAmazon Primeは日本でもなじみが深いが、実は他にアジア独自のサービスも多く存在する。
例えばiflixというマレーシアにヘッドクオーターを置くOTT(Over the top)サービスは良い一例だろう。2015年4月のシード調達からたった3ヶ月でアジア地域10万人の有料登録者を獲得した。中国ではまだスマホを所持しているのが5.5億人だというから市場はまだまだ広がっていく。東南アジア各国の首都以外のエリアもこれからネットが発達するだろう。第二・第三のiflixのようなサービスが、タイ、韓国、香港でも始まっており、虎視眈々と国を超えたサービス作りがトライされている。


ミレニアル世代が引き起こす第二のポイントは、加速度的に起こる企業広告の不信任とUGC(UGC=User Generated Contents)の台頭だ。動画を開いた時に強制的に表示される企業広告は一般視聴者にとって全く関係ないもので、少なくとも喜んで見たいものではない。他方、企業宣伝ではない口コミメディアにはそれなりの信頼を置く傾向がある。ユーザーが自身の経験を投稿し、リアルな声を集積するメディアは需要が高い。


レストラン情報であれば「食べログ」や「retty」、化粧品であれば「アットコスメ」などジャンル毎のキュレーションや「価格.com」のような何でも価格を比較するサイトは多くのアクティブユーザーを抱えるメディアとなっている。中国ではさらに発展した何でも口コミサイト「大衆点評」があり、巨額の利益をもたらすユニコーン企業として同国最大の評価を得て、月間アクティブユーザー数2.89億人となった(2018年)。このサイトは中国語コミュニティの中で絶大な支持を得ている。

 

このような口コミ投稿は写真と文章で構成された情報が主体なのでITスキルがなくても投稿が可能だが、クリエイティブな写真・動画コンテンツとなるとそうはいかない。YouTube、Instagram、TikTokなどの投稿には(場合によって視聴にも)一定のITリテラシーとクリエイティブスキルが必要となるため、40代以上のITアレルギー世代ともなれば再教育すら難しいといわれる。


しかしミレニアル世代にとっては、スマホと少量の機材と編集アプリなどのツールを使用するハードルは低い。少し学べば撮影から編集、発信までそこそこのクオリティは一人でも作ることができる。そのためKOL、インフルエンサー、YouTuberと呼ばれる新ジャンルの職業が誕生した。彼らは自分自身がクリエイターでありアーティストでもあるが、チャンネル運営者でもあり、広告媒体でもある。コミュニティへの説得力が強いKOLには広告案件が入るし、YouTube自体からのビュー数に応じた収入を見込めることもある。ITスキルが牽引するUGCは全世界のミレニアル世代から同時に生まれてきている。


第三のポイントはUGCからPUGCへの移行だ。ミレニアル世代を中心に引き起こしている現在のようなメディアの業態変化の過渡期の状態は、プロセスの一部であって、次なる業態が現れる直前の一時的な形に過ぎないと僕は考えている。単発的なヒットコンテンツは、一人の天才の発端から生まれることはあっても、長期的かつ継続的なヒットの裏には必ずProfessionalの手が加えられてきたことは不変の事実であろう。つまり、日本のトップクラスのYouTuberでも自分のキャラだけで勝負するのはいずれ難しくなるということだ。


面白いコンテンツには多くのインプットが必要だし、映像編集には時間がかかる。キャラに対するオーディエンスの飽きもいずれ来る。コンテンツ制作やチャンネルは、発想力、脚本づくり、制作、さらに作品がアップされた後のケア、営業なども必要だ。個人制作のチャンネル作りよりもチームとして動くコンテンツ作りの方が結果として良質なコンテンツを作り続けるには向いている。


では誰が作るのか。それはITを駆使した映像・空間演出を得意としたコンテンツ制作会社(映像、ゲーム、アプリ、空間演出etc)など、コンテンツを作るノウハウと力を持つ企業だと考える。彼らがテレビ局や広告代理店の下請け業務から脱却し、自らYouTuberのようにコンテンツを作り日々発信することになったらどうだろう。


クリエイティブな発想、プロの構成脚本、芸能事務所との繋がりなどを駆使したら強いコンテンツを持つチャンネルを作ることは可能である。また代理店との近い距離感から放送に流れる広告費の一部を獲得することもできるだろう。誰もがメディアを持てる時代に伝統メディアの業界地図を塗り替える力があるのは継続して作る力を持つ人たちだ。そして、その中心にいるのがミレニアル世代となっていくだろう。


およそ新潟県のGDPほどしかないスリランカですら未来の情報産業変革を模索し国運営のトップが他国のベンチャー企業の視察をしている。マレーシアのマハティール首相は首脳として世界最高齢だが、スポーツ担当大臣に25歳を起用し、その柔軟性と時代ニーズを取り組む姿勢が話題となった。


インターネットを通じてアジアが共同でコンテンツに投資し、共同で製作し、共同で消費する時代はそう遠い未来ではないように思う。お台場の空間芸術を満員にする外国人観光客もカンヌのパルムドールも日本の高いコンテンツ作りや演出の評価の表れに違いないが、今なお広がり続けるアジア市場に向けて、メディアの枠ごと壊すような挑戦が日本からも現れることを期待している。それはもしかしたらアジアのミレニアル世代とのコラボレーションという形で起きるかもしれない。

 

 

新鞍  俊恭  (にいくら  としや)
株式会社Journal Entertainment Tribute  代表取締役
ショートフィルムコンテストにて初監督作品「AKATSUKI」が受賞後、2012年、株式会社 Journal Entertainment Tribute 代表取締役社長に就任。同社は1.日本国内におけるクロマキースタジオの運営、VR制作、ドローン撮影など次世代の映像表現制作、2.ドラマ・映画の国際共同制作などのコンテンツプロデュース3.映像作品と連動した貿易・物流、4.コンテンツの権利の海外販売などを主たる事業として行う。
2013年 「のだめカンタービレ」「忍者ハットリくん」「ジャングル大帝」などのコンテンツ放送権の販売を行い、タイ最大手放送局CH.3にて日本コンテンツ販売本数年間最大となる。
2014年、ドラマ企画「きもの秘伝」における日本パートのプロデューサーとして任命され、福岡・佐賀・熊本・長崎の4県で撮影。翌年九州全体のタイ人旅行客数が前年比2.2倍、佐賀県は約4倍になり、日本政府観光局より同ドラマが表彰される。
2014‐2015年、「Devil Lover」「Angel Destiny」「Once Upon A Time」など連続して異なる放送局のタイドラマの日本パートプロデューサーとして、北九州市、札幌市などの地方自治体や北海道文化放送などローカル放送局と協業しドラマ撮影・プロデュースを行う。
2015‐2017年、2017年の日タイ国交130周年を記念したドラマ制作プロジェクトの(日本大使館認定)プロデューサーに就任。日本政府観光局採択、仙台市助成事業。
2016年10月、香港にて著作権管理会社、AKATSUKI Internationalを共同設立。「ヒカルの碁」の中国における実写版制作の販売契約を締結。
2018年1月、クールジャパン担当大臣をタイに招聘。
2018年8月、デジタルコンテンツ・メディア会社JET DOGA LANKAをスリランカに創設。
2018年11月、プロデューサーとして製作した映画「Gravity of Love」がタイ全土で公開。
2019年1月、クールジャパン担当大臣をマレーシアに招聘。

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