「アセアンのミレニアル世代」の見方

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年2月号『ボーダレスミレニアル東南アジア流』に記載された内容です。)


博報堂生活総研アセアン(通称HILLアセアン)はアセアン各国の生活者の新しい意識や行動を研究するシンクタンクです。博報堂生活総合研究所のアセアン版として2014年に設立。毎年ひとつのテーマについて掘り下げた研究を行い、アセアン各国で発表イベントを行っています。これまでアセアンの家族、新中間層、ジェンダーなどについて、また今回のテーマであるミレニアル世代についても研究発表を行っています。

「見つめる視点」が大事
私たちは、次の三つのことをミレニアル世代を見つめる視点として心掛けました。

◎視点1「上から目線にはしない」
過去の研究では、ミレニアル世代は理解しがたいエイリアンといったような論調が見受けられました。しかし「今どきの若い世代は理解できない」という言説は4000年前の古代エジプトの壁画にも書かれていた、という笑い話があるように、どの時代でもあるのです。ミレニアル世代研究の一つ目の視点は、バイアスなく、できるだけフェアにフラットに若い世代をみるということです。


◎視点2「世代を一つにくくらない」
ミレニアル世代の最も一般的な定義は、1980年から1990年代に生まれた世代ということです。現在の年齢でいえば大体20歳から39歳までがカバーされる世代です。
この幅広さ(適当さ)がある意味世の中に広まることを助けたともいえますが、マーケティングターゲットとして使うには、ちょっと広い。そこで「ミレニアル世代の中にある世代ギャップ」つまり80年代と90年代生まれの世代意識の違いにフォーカスをあてることを二つ目の視点として設定しました。


過去20年間の経済成長がごく緩やかな日本と違い、経済成長や社会インフラの拡充スピードの速いアセアン各国では、80年代生まれと90年代生まれを分けてとらえる必要があります。中国では80后、90后というように80年代と90年代生まれを別々に指す言葉がすでに存在しています。アセアンでも「ミレニアル世代を分けて考える」というのは自然な視点だと考えます。


◎視点3「世代意識の要因を原体験に求める」
世代固有の価値観は、彼らが育ってきた時代環境により形成される部分もあります。その世代の人たちが、どんな出来事に強く影響を受けて育ってきたのか、彼らの「原体験」を理解することにより、ある世代に共通する特徴を理解することができると考えました。彼らがどんな人たちかを語る研究は多いですが、なぜ、そうなったのかまで明らかにしている研究は多くありません。

さてこうした視点を踏まえた上で、アセアンのミレニアル世代(80年代生まれ・90年代生まれ)はどんな人なのでしょうか?

80年代生まれは「リスクヘッジ」
90年代生まれは「オネスト」
図1は、「1998アジア通貨危機に最も影響を受けた」とした人の割合です。
70年代生まれの人の多くが、最も影響があった出来事に「アジア通貨危機」をあげています。当時現地で働いていた人の感覚では「アジア通貨危機」とは身の回りで会社がばたばたと倒産し、3人に1人くらいの割合で解雇・失業となったような、本当に大変な出来事だったようです。


既に多くの人が働く年齢になっていた70年代生まれは、この出来事がトラウマになり「安全、安心、安定」が生活信条に。ミレニアル世代でも、80年代生まれは親が影響を受けるなどで「ややトラウマ」が残っており「リスクヘッジ」志向に。一方、90年代生まれは「アジア通貨危機」当時まだ10歳未満で当時の記憶はほとんどありません。むしろ物心ついた後は、経済と社会の発展に歩みを重ねており「未来は常に明るい」「自分に正直にやりたいことをやる」という価値観になります。


では90年代生まれが最も影響を受けたのはどんな出来事でしょうか?
図2は最も影響を受けた出来事にフェースブック、スマートフォンの登場をあげた人の割合です。やはりデジタル革命、ソーシャルメディア、スマートフォンの登場が強い影響を与えています。これは単にデジタルネイティブでデジタルに詳しいということ以上に、デジタルにする意識の違いを生みます。80年代生まれは、ある程度大人になってからこのテクノロジーに接したこともありデジタルは「自分をキラキラ魅せるステージ」または「現実をサポートするツール」としてみなす傾向にあります。一方90年代生まれは、デジタルは元から存在している世界の一部であり「デジタル=リアル」として「ごく自然に、自分に正直に振る舞う場所」とみなしています。


アセアンのミレニアル世代を語る切り口、視点はいくつでもあると思います。その中で、独自のスタンス、視点を持って分析する姿勢が大事なのではないでしょうか?

 

帆刈  吾郎  (ほかり  ごろう)
博報堂生活総合研究所アセアン所長
1995年博報堂入社。
マーケティング・プラナーとして得意先企業のマーケティング業務を担当。2005年から2006年にかけて英国ロンドンのダイレクトマーケティングエージェンシー、ブランドコンサルティング会社に出向した後、同年、博報堂に復職。2013年博報堂アジアパシフィックのエグゼクティブ・リージョナル・ストラテジック・プランニング・ディレクターとしてタイ・バンコクに赴任。2014年博報堂生活総合研究所アセアンを設立、2017年タイ現地法人化。2018年、19年APACエフィー審査員。

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