人を集める建物ネーミング<前編>

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年11月号『人を集める場所』に記載された内容です。)

ネーミングは「人を集める」ためにある

「名は体を表す」という言葉があります。名前はその実体を表す、だからネーミングはとても大切だということです。ネーミングの目的は、ネーム(名称)を人々に認知させ、記憶させ、好意を持たせ、購入(建物なら来場)させ、継続させるためです。ですから建物なら、「人を集める」ネーミングが、最も求められるといえます。


ビジネスのネーミングといえば、まず社名、商品名、サービス名などが主なものです。しかし今回のテーマ、建物ネーミングもとても重要です。ある調査によると、商品がヒットする要素で、断トツ1位は「ネーム」です。以下、「スローガン」「パッケージ」の順でした。建物ではこれに「ロゴ」が絶対に欠かせない要素です。


現在のような、激烈な競争時代に生き残るには、まず建物自体や提供される商品やサービスが、魅力あるものでなければなりません。それに加えて、ネーミングは建物の多様なビジネスの成功のために、大変重要な要素といえます。


わが社、㈱創造開発研究所は東京初のネーミング会社です。「かもめーる」「ゆうパック」「BIG EGG」「TOSTEM」「くるりんポイ(排水口)」など、300近くのネーミングを開発しました。


今回のテーマの建物関連では、旧郵便貯金会館の「メルパルク」、駅前商業施設の「たまプラーザテラス」、お茶の水の商業施設「サンクレール」などを手がけました。昨年は中国地方の商業施設のネーミングとロゴの開発もしました。というわけで建物ネーミングには大変関心があります。ネーミング関連の著書も『最新のネーミング強化書』(PHPビジネス新書)など3冊を出版しました。


建物ネーミングの最近の動向を探る
建物ネーミングの主たるものは、商業施設とマンション・オフィスビルのネーミングでしょう。これらの最近の動向をみてみます。


まずは商業施設ネーミングです。商業施設のネーミングは、従来は「中野サンプラザ」「ルミネ新宿」などと、英語名がほとんどでした。しかし、2006年の「オリナス錦糸町」、2007年の「有楽町イトシア」あたりから、日本語造語が登場してきました。


以後、「赤坂サカス」「エソラ池袋」、そして東京では2012年に「渋谷ヒカリエ」「東京ソラマチ」が、大阪では2014年に「あべのハルカス」と日本語造語ネーミングが誕生します。


商業施設ネーミングはこのように、「地名+日本語造語」が主流になりました。しかし、2017年の「GINZA SIX」の登場で、英語ネーミングが再流行するのでしょうか。気になるところです。


次は、マンション・オフィスビルのネーミングです。1975年頃から、木造アパートに代わって、公営の団地や私営の分譲マンションが続々と誕生します。すると木造アパートで定番の「○○荘」など、「日本語ネーミング」から、1965年の原宿「コープオリンピア」などを先駆けに、「英語ネーミング」が流行し始めます。


大手不動産会社は、分譲マンションを各地で次々と建築し始めると、同一ブランドの販売戦略をとります。これらは、企業の信頼性を共通名で表し、統一感を出す戦略です。


各社の統一ブランド名は、三井不動産は「パークホームズ」、三菱地所は「ザ・パークハウス」、野村不動産は「プラウド」、東急不動産は「ブランズ」、東京建物は「ブリリア」などです。森ビルの共通ブランドは「ヒルズ」です。これは「六本木ヒルズ」「虎ノ門ヒルズ」などの商業施設とオフィスビル、マンションの複合施設で、ヒルズ族という流行語まで生みました。


このように、商業施設は「地名+日本語造語ネーミング」、マンションやオフィスビルは「英語ネーミング」が主流でした。建物ネーミングの発想競争は、今後も多彩な展開を見せながら続くことでしょう。

後編はこちら>>https://www.jma2-jp.org/article/jma/k2/categories/518-mh181103


高橋  誠  (たかはし  まこと)
㈱創造開発研究所  代表(教育学博士)
東京教育大心理卒、筑波大修士、東洋大博士課程修了。
産能短大専任講師を経て創造性の研究と実践の㈱創造開発研究所を創立。現在、日本教育大学院大学名誉教授・日本創造学会理事(元会長)。企業や行政に企業戦略、人事・教育戦略、新商品開発、ネーミング・ブランド戦略、マーケ戦略を指導。
著作は『創造力事典』『問題解決手法の知識』『ひらめきの法則』『最新のネーミング強化書』『会議の進め方』他、総計77冊。

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