【横型同質性からの決別】他流試合とオープンイノベーション

2014年度の訪日観光客は1,300万人程まで伸長し、個人消費の1%に匹敵する2兆円程度が訪日観光客の日本での買い物、食事等の支出金額であると言われている。

海外旅行、目的はいかなるものであっても、海外旅行においては、異質の文化に触れ、自らの文化との相違の中で、何かを感じ取るものである。今回の来日観光客増は近隣諸国の経済発展、円安、国の様々な施策等によるものであろうが、大変喜ばしいことである。


一方、日本から海外に旅行で訪れる人々の推移に関しては、様々な要因から漸減傾向である。2014年に関しては1,700万人を割る所まで減少するかもしれない。この事も円安、また飽和市場においては海外に買い物に行く必要もない、また行き尽くした等々の理由があるためであろう。決して、我々日本人が内向きになったのではないことを祈る次第である。


さて、最近の傾向として、従来の高度成長時代の「ジャパニーズビジネスマン」に代表される24時間体制の働き方から、一定の時間内に仕事を済ませ、他の時間においては様々な事に時間を費やす働き方に変わってきているように思う。決して悪いことではない。問題は、その時間をどのように使うかという事である。休養、自己研鑚、趣味、家族との時間と様々な過ごし方があるであろう。


かつてのお正月と言えば、様々な店舗も店休日となり、特に単身者の一人住まいの方々は不便を感じられたご経験がおありだと思う。しかしながら、今は大半の流通業は元旦はともかくとして、三が日は大きな書き入れ時である。また、全国津々浦々、24時間営業のコンビニエンスストアが点在し、一向に不便を感じることはなくなっている。


人口に比較し、これ程のコンビニエンスストアが存在する国が他にあるだろうか。またグローバル化の流れは停滞することなく、容赦無く我々を取り囲んで行く。そしてWeb環境の進展は、情報の質的・時間的・階層毎の格差を少なくしてくれている。


一言で言えばタイムレス、ボーダレス、ヒエラルキーレスといった所であろう。便利さの追求が、横型同質的なコミュニケーションや競争環境をもたらしているのかもしれない。横型同質的な価値観や利便性は大変心地良いものであるが、一面では、異なった価値観や異端、異能というものを排斥するという動きにならないであろうか。


今年の様々な企業トップの年頭のご挨拶等を拝見すると、イノベーションという言葉が数多くあったように思う。イノベーションを達成するためには、心地良さや、「ゆるい」感覚や、横型同質性からの決別が必要であるのは言うまでもない。心地よさと傷のなめ合いからは、新たな価値が生まれる事は無いことを肝に銘じなければならない。


最近聞いたのは次のような会話であった。若い、これからが期待されるようなビジネスパーソンの会話である。
「上司は馬鹿なほうが良いけど、最終的にジャッジできないし、責任を取れないから問題だね。一方厳しい上司だと、指導ばかりされるから、自分の個性が埋没させられるから嫌だね」という会話であった。


この会話をどのように判断するかは、背景が分からない中、なんともしがたいのであるが、ある意味では、典型的大企業病、夜郎自大とも言えるかもしれない。横型の概念は一歩間違えば、個性という心地良い言葉に強く影響を受け、「好き勝手に自分のやりたいことしかやらない。自らの意に沿わない事柄からは、様々な理由をつけて避けて通る」ことにならないであろうか。


前述のように「レス」という言葉が重要なキーワードとなっている現在、「レス」という言葉はある意味では障壁が無くなってきているということであり、本来ならば「他流試合」のための障壁が無くなってきているということであろう。環境は「他流試合」を行いやすい状況を作り出していると言っても良い。


オープンイノベーションとは、元来様々な強みを他流試合から、自らの強みとし、複数の強みを複合的に組み合わせる事により、新たな機会を見出し、新たな独自性を持った強みにより、イノベーションを具現化、そして世に問う事であろう。イノベーション実現のためには他流試合は必須のものである。一般的には、他流試合によって得られることは大まかには次の3点であると考えられる。


①相手との比較の中で、自らの現在の実力値を知る。
②実力値を知った上で、相手の良い所を努力し吸収する。
③その上で、自らの力を付けると同時に様々な他の相手方の強みとの組み合わせにより、新たな機会と独自性を持ったコアコンピタンスを作り出す。


しばしば言われることであるが、多忙な人程、数分のごく短い時間で相手の力量を値踏みするという(人物鑑定)。多忙な中においては、貴重な時間を無駄にすることはできない。少なくとも自らが得る何かがなければ、時間を割くことはできない。


今考えなければならないのは、他流試合を行う場合には相手が他流試合のために時間を割いてくれるか、少なくとも相手先から一定の実力を認められ、その相手から他流試合をしても良いと思われるか、ということである。


横型という概念は、同一レベルという事となる危険性がある。同一レベルから得る部分も確かにあるが、多くの場合、高いレベルとの他流試合から得られる部分のほうが多いであろう。そのためには何が必要か?ポイントは2つの点ではなかろうか。


①他流試合に挑ませてもらうには、相手にもメリットをもたらす実力を身につけること。
②相手先との共感(胸を貸す)を得られるコミュニケーション力を身につけること。


他流試合に臨み、そして他の人材(企業)から他流試合を望まれる事、先ずは自分の自力をしっかりと付ける事、そして常にオープンマインドであること。


様々な価値観が求められる現在、コクーニングしている時間は無い。まずはしっかりと足元を良く見て、そして固めて、倫理的なセオリーを付ける事が必要であろう。今更といった感が無きにしもあらずではあるが、「仁義礼智」「我慢努力」といったことをしっかりと考える時である。




中島  聡   (なかしま  さとし)
株式会社明治 マーケティング推進本部 マーケティング推進部長
高千穂大学 客員教授
明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 講師

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