年々高まる庄内への偏愛ぶりを自己分析してみる

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年3月号『恋に落ちる、沼にはまる 沼消費とは何か』に記載された内容です。)


寝ても覚めても恋しい「ショウナイ」

いきなり個人的な話で恐縮だが、この数年で5回も訪れるぐらい気に入っている場所がある。山形県の日本海側に位置する鶴岡市だ。正確には鶴岡を筆頭に、酒田、遊佐町までを含む日本海側の荘内と呼ばれる地域。最初に訪れたのは鶴岡と酒田で、たまたま仕事で。その時に、そういえば母方の祖父のルーツが酒田にあると聞いたことを思い出し、直感的に何かご縁がある場所なのかもと感じた。


杉並区阿佐ヶ谷に住んでいた祖父は私が7歳の時に他界し、酒田に関する話は直接聞いたことはなく、母も東京生まれなので、私にとってのおじいちゃんの家は阿佐ヶ谷で、子どもの頃、酒田を訪れたことは一度もなかった。


鶴岡と酒田を訪れた話を母にすると、母も疎開先として過ごして以来、酒田に行ったことがなかったらしく、久しぶりに荘内地方に行ってみたいということになり、鶴岡の湯野浜温泉に宿を取り、観光ガイドに載っているような名所を酒田と鶴岡で訪ね歩いた。


食事も地酒もとても美味しく、ちょうど庄内の伝統野菜の種を守る人々のドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』を観た直後だったこともあり、映画に登場していた鶴岡にある奥田政行シェフのレストラン「アルケッチャーノ」で伝統野菜を使ったイタリアンを堪能した。夏休みの時期と重なったため、クラゲで有名になっていた加茂水族館は、行くだけで何キロにわたっての大渋滞になっていて、断念した。


水族館を除いては、行く場所で人が多すぎて大混雑で入れないというまでのところはほとんどなく、歩き回るにはほどよく快適な人の密度、海岸線や出羽三山の山々の美しい自然の風景、満足度の高い温泉と食など、あらゆる点において、私にとってまた行きたいと思える場所になっていた。


それから事あるごとに、周囲や出会う人たちに旅先として庄内を勧めるようになると、同じく庄内に魅力を感じていた友人がいることもわかった。友人は毎年夏に出羽三山で山伏修行をしているという、かなりディープな関わり方だった。


まもなく鶴岡に世界的に有名な建築家坂茂氏が設計したホテル(スイデンテラス)がオープンするという情報も持っており、迷うことなくまた次の旅先に決まった。坂茂設計のホテルというだけで建築好きな知り合いは食いついてくる。スイデンテラスの魅力を語り始めると長くなるので割愛するが、ここで友人のつながりで出会った人たちがまたとても魅力的だった。


山伏になった夫とともに家族で東京から移住した女性は地域の女性の手仕事で小さなナリワイをネットワークしたり、ファッション業界の第一線でスタイリストとして活躍していたという別の移住者の女性は、個人客を中心にその人に似合う服の提案し、オーダーメイドでオリジナルデザインの服を制作したりと、各々が自分の得意分野をいかしながら、いきいきとそこに暮らしている。


そして、またその人たちから地元ならではの情報を聞き、またそれを体験してみたくなる・・・行けば行くほど、未知のことがたくさんあることに気づき、また次の旅の課題ができる。こんなふうに、この数年で私の庄内への愛は高まるばかり。


先日、オフシーズンならではの恩恵で、加茂水族館でクラゲ鑑賞をゆっくりと楽しむことができ、クラゲドームも期間限定の色でライトアップというオマケ付きだった。そして、ついにこの夏には、人生初の山伏修行にも参加する決意だ。


偏愛消費が行き着く先は、ヒト消費 !?
「好き過ぎる」という言葉とほぼ同義で「偏愛」という言葉も最近よく使われているが、ファッション誌などでは10年ぐらい前には既に多く使われていた。「エディターの偏愛バッグ」「美容ジャーナリストの偏愛コスメ」といったフレーズで、「誰が何と言おうが私はコレが好き!」という意味合いで使われていた。私の庄内への愛もまさに「偏愛」という言葉がぴったりだ。


私の庄内への偏愛ぶりを自己分析しながら紐解いてみると、最初は温泉や食といった一般的な観光の要素に魅力を感じた。ちょっといいと思ったモノやコトをわりと周囲にすぐ話しまくるタイプなので、周囲に発信していくうちに共感・共鳴する人がつながった。


旅先に限らず、自分が好きなものやハマっていることを発信すればするほど、シンクロは容易に起こりやすいと思っている。SNSはそれを加速させるツールでもあるように思う。共感・共鳴する人=仲間ができると、楽しみも倍になっていく。


ここまではいわゆるファン消費的な意味合いと近いものがあるが、私の庄内愛に関して言えば、だれかカリスマ的な有名人がそこにいるわけではなく、縁あって知り合ったそこでいきいきと暮らす人たちにまた会いたい、得意なことをいかし、そこで誇らしく暮らしているその人たちの空気感を共有したい、それが私のエネルギーチャージにもなっているように思う。


会いに行きたいリアルな人たちがいる、またそこから新たな出会いや発見が生まれ、広がっていく。そういった部分がいわゆるファン消費や聖地巡礼的な観光とは一線を画している。


最初に魅力を感じていた要素はコト(温泉・食など「モノ」にも限りなく近い領域かもしれない)だったが、回数を重ねるうちに魅力の対象はヒトになってきている。モノ消費からコト消費の時代と言われて久しいが、コト消費も細分化し、トキ消費という言葉も使われるようになっているが、最もディープな偏愛消費は今後、ヒト消費になっていくような気がしている。




会田  裕美  (あいだ  ひろみ)
有限会社アディアック  代表取締役/マーケティングプロデューサー
㈱パルコにてマーケティング情報誌『アクロス』で編集者として、トレンド分析や社会学・世代論などの分野の取材・執筆を行ない、同社の音楽情報誌の編集や音楽制作も担当。
その後、会員制女性サイトで、マーケティングマネージャー、編集長などを歴任し、2004年、(有)アディアックを設立。定量調査・定性調査の実施・分析から、プランニング、ブランディング、トレンド予測、各種コンテンツの制作・編集やプロモーション、PRまで幅広くコンサルティングを手がける。共著『ラウンドエッジ-71の高感度指標で見える、バランスのいいエッジィな人々』(宣伝会議)

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。
トップに戻る