YouTubeを活用した新たな学び

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2022年7月号『時間と距離を越える学びの未来』に記載された内容です。)

近年、教育現場では生徒の新たな学びの形として、動画を活用したコンテンツに注目が集まっています。映像授業そのものはすでに10年以上前から広まっており、映像を主力にした予備校も存在するなど決して縁遠いものではありませんでした。

しかし、昨今では無料で活用できる動画メディアとしてYouTubeが注目され、いわゆるエンターテイメント的な動画にとどまらず教育・学習に活用できる動画が多数存在するようになりました。今回はYouTubeを活用した学びの現状について紹介します。

 


教育系YouTubeチャンネルの種類


 

教育にまつわるYouTubeチャンネルは非常に多数存在しています。私自身の例で恐縮ですが、2021年に私が監修した『大学受験 教育系YouTuberデータブック』においては大学受験に資するチャンネル、かつ一定規模以上に絞ってYouTubeチャンネルを取り扱っていますが、それでも100を優に超える数のチャンネルが存在します。視野を広げて小学生から大学受験生までをターゲットとして捉えた場合、200以上のチャンネルが存在することが想定されます。

規模感としては超トップ層が登録者100万人超えであるもののそのレベルに達するチャンネルはごく少数であり、登録者数10万人規模であれば教育関係のチャンネルとしては十分大手に類するといえます。一方、登録者1万人に満たないチャンネルも数多く存在するものの、「登録者が少ない=質が低い」という図式は必ずしも成立しない点が教育系チャンネルの一つの特徴でしょう。

しかし、これらのチャンネルが全て授業や講義を扱うものかというとそうではなく、YouTubeで多いのは「受験情報を扱うチャンネル」であるという点に注意が必要です。実際、私自身も2017年に動画配信を開始し、5年弱YouTube投稿を続けていますが、扱っているのは大学受験の志望校選択や大学比較、参考書の紹介や比較、勉強法の提示といった内容が大半です。

そのためYouTubeを学習に活用する場合はいわゆる映像授業のような「学習教材」としての方向と「情報収集媒体」としての方向がそれぞれ存在するわけです。また、映像授業や講義を動画にするには一定以上のスキルが必要ですから、どちらかといえば気軽に動画化されるのは「情報収集媒体」としての動画が多く、授業動画はそれなりに貴重であるといえます。

 


学習におけるYouTube活用



「学習教材」並びに「情報収集媒体」として、実際のYouTube活用について目を向けていきます。まず「情報収集媒体」としてYouTubeを利用する場合は、気になる情報をYouTube上で検索するか、関連動画から閲覧するケースが多いです。

チャンネル登録を通じて特定のチャンネルを継続的に視聴することで、常に情報が入ってくるようにすることも可能です。種類としては子育て論から大学受験の知識、はたまた大学の専門領域を紹介するチャンネルまでありますので、満たせないニーズはもはや少ないといっても過言ではありません。

最近では高校生以上であっても生徒のみならず保護者が情報収集しているケースも多く、保護者向けの動画も多数存在します。もちろん、中学受験や高校受験がテーマの場合は、自然と保護者向けの動画が多いのはいうまでもありません。

さらに、昨今では指導者(教員や塾講師など)を対象にしたチャンネルも登場しており、教育における「情報収集媒体」としてのYouTubeの果たす役割は一層大きくなっているといえるでしょう。

一方、「学習教材」としてのYouTubeもここ数年で成熟度が増していることは確かです。中学生や高校生向けのいわゆる授業動画を扱うチャンネルは年々増えており、当初はカバーしていた科目は限定的でしたが、最近ではかなり広範囲の科目、レベル感で動画が配信されています。まだ限定的ではあるものの、小学生や大学生向けの専門的な授業も展開されつつあります。

 


「学習教材」としての注意点



しかし、「学習教材」としてのYouTubeにはいくつかの注意点が存在します。第一に、「学習領域を網羅する動画が少ない」ということが挙げられます。先ほどカバーする科目が増えてきたと述べましたが、それでもなかなか取り扱いが少ない科目が多いことも事実です。

YouTubeでは視聴回数やチャンネル登録といった指標が生命線のため履修者が少ない科目、視聴者の関心が低い分野の動画はなかなか充実しないのが現状です。その上、YouTubeで配信するためには著作権を遵守する必要があるため、現代文の文章が使用できないなど動画化できる幅に限界があることも事実です。

同様に、同じ科目の動画でも視聴者の関心度の高いテーマは頻繁に動画化されますが、そうでない分野の動画は少ない傾向があります。例えば、東大数学の過去問を扱う動画は多数存在します。やはり「東大」というキーワードは注目度が高いのでしょう。

一方、いわゆる高校数学の単元を、「数と式」「二次関数」・・・などと網羅しながら講義している動画は数が少ない傾向があるのです。

注意点の二つ目が、「信頼性」です。YouTubeでは個人が自由に発信することができるためコンテンツが発達してきたことは事実ですが、その分間違った情報が含まれている可能性も否定できません。もちろん、あくまで私自身の見る限りにおいてですが、とんでもない間違いを犯しているような動画はそこまで多くはないと考えています。

特に予備校講師などプロフェッショナルな方が配信している動画は一定以上安心して閲覧できる印象です。しかし、間違った内容を含んでいる動画が存在することも事実であり、数十万回再生されている動画の内容に明らかな誤り(教え方の巧拙ではなく、教科書的に間違っている内容)を発見したときは私自身動揺したことも事実です。

以上から、個人的見解としては現時点で全てをYouTubeに委ねるような学習環境の構築は難しい、またはリスクがあるというのが持論です。実際、私自身塾経営者として高校生のYouTube利活用を見ていても、まだまだYouTubeは「遊びのツール」の印象が強く、「YouTubeで勉強しようと思っていたけど別の動画を見て遊んでしまいました」といった話は枚挙にいとまがありません。

ただ、その分生活に密着した道具であるわけですから、「1日1問数学の問題を解いて解説動画を見る」「週に1~2本閲覧して志望校の情報を集める」「学校を休んで授業を受けられなかった範囲を復習する」といった、手軽な学習習慣づくりとしてのツールとしては大いに活躍するはずです。

YouTuberとしても「所得格差に関係なく、学び続ける環境を提供したい」という思いを持って活動されている方も多くいらっしゃいますし、発信活動がしにくい学校教員を補う形でYouTubeが活躍している側面もあるはずです。

その意味ではユーザー(生徒・ご家庭)視点から見たとき、YouTubeが既存の教育環境を破壊する、リプレイスするというよりも、教育環境を補う要素として新たに加わったと捉えるのが最も現実的かつ効果的であるといえるでしょう。

 

小林 尚(こばやし しょう)
株式会社キャストダイス 代表取締役
個別指導塾CASTDICE 塾長 YouTuber
1989年生まれ。埼玉県出身。高校受験で私立開成高校に入学し、弁論部キャプテンとして活動。現役で東京大学文科Ⅰ類に入学。卒業後、経営コンサルティング会社の戦略部門を経て、株式会社キャストダイスを設立。得意領域は教育×コンサルティング。大学在学中には、大手予備校に勤務し、東大医学部合格者を多数輩出する他、各種経営指標で全国1位を度々獲得。コンサルタント時代には新規事業開発、人材・組織変革に取り組み、3回のプロジェクト表彰を受賞。近年はYouTubeチャンネル“CASTDICE TV”で受験・キャリアに関する動画を配信中。大学や教育機関での講演・セミナーも実施している。

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