自由な時間と空間を仕組みとして活かす

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年10・11月号合併号『時間FACTFULNESS』に記載された内容です。)

人生100年時代といわれるようになり、わたしたちの人生の持ち時間は増えたようにも感じますが、実際のところ、増えているのは人生の後半戦です。学生時代が延びるわけではなく、働く期間がどんどん後ろに延びています。そうなると仕事内容を変えざるをえない場合も多くなりますが、現在の日本ではまだまだ仕事のあり方が画一的でなかなか楽しそうな絵が描きにくい、そう感じます。そうした中で、松田さんが提唱されているライフスタイルやワークスタイルは人生デザインを大きく変えるヒントになると思いました。

 


リタイア後の10万時間問題


 

松田 その件について、いくつかキーワードをあげます。まず「10万時間」。これはリタイアしてからの自由時間です。リタイア後の自由時間は食事や睡眠を除くと一日14時間一年365日で、リタイアしてからの活動期間を20年とすると約10万時間になるのです。この10万時間は9時〜5時で働いてきた人の労働時間に匹敵します。リタイアしてからの10万時間、もしかしたらリタイア後20年ではなくて30年、40年になるかもしれないというときに、10万時間をポジティブに使うか、ネガティブに使うかでその価値は大きく変わるわけです。
 次のキーワードが「28%」。これは日本の高齢化率です。ご存知の通り日本は世界1位の高齢化率で、アメリカは15%、中国が10%、アフリカ、中東は3%から1%ということで、いかに日本の65歳以上比率が高いかがわかります(図表1)。

図表1:日本は世界で一番の高齢化率

 そして、「2%」。これは25歳以上の大学入学者数の割合ですが、世界でも類を見ないほど日本は低い。日本では原則、大学は18歳から22歳のための場所になっています。
 4つめが「6分」。一日の中で有業者が学習や自己啓発に充てる時間です。小中高大と学んで来た人が社会人になると一日6分というのはとても嘆かわしいと思いませんか。
 そして、「きょうよう」「きょういく」。これはリタイアした人が教えてくれました。リタイア後には大事な「きょうよう」と「きょういく」があると。一般的な教養、教育ではなく、「今日、用がある」の「きょうよう」、「今日、行くところがある」の「きょういく」。特に男性はリタイア後、用事も行くところもなくなりがちで、図書館では毎日、手持ち無沙汰なおじさんで朝からいっぱいです。
 最後に「時間銀行」。これはヨーロッパで始まったものですが、時間を交換単位とした会員同士のサービスです。例えば、料理を手伝って欲しいひとり暮らしの高齢者を1時間助けた、その1時間を今度はその高齢者が絵画を教えてくれる1時間に充てる、というようにお金じゃなくて時間で助け合いをする、というものが広がりつつあります。
 人生100年時代における時間を考えていくときに、こうしたキーワードを頭に置きながら、高齢社会はピンチじゃなくチャンスだという逆転の発想をしていくとともに、今回のコロナをきっかけに進んだ「自由な時間・空間」、つまり空間も視野に入れて人生100年時代の働き方・暮らし方を考えていこう、というものです。

 


キャンパスライフを満喫するシニアが続々


 

松田 先ほど「2%」という数字を出しました(図表2)が、25歳以上の大学入学者率をOECD平均で見ると17%です。日本の大学は18~22歳の場になっていますが、10万時間あるわけですから、もう1回大学へ行くという選択肢がもっと浸透してもいいと思います。

図表2:25歳以上の大学(学士課程)入学者割合

 実は、もう一度学びたいという人は結構います。立教大学に立教セカンドステージ大学という50歳以上が入れるシニア大学がありますが、毎年100名が入学してきます。授業料は30万円と安くはありませんが、高齢者の「きょうよう」と「きょういく」と学び直しの象徴的存在と言えます。全員がゼミに入り、ディスカッション重視の授業で進められます。わたしも秋講座で「プラチナ社会におけるアクティブシニア論」を担当しています。
 平均年齢は63歳ぐらいですが、公民館とかカルチャースクールではなく、立教のキャンパスの中、若い学生たちもいる中に通うことで、みんなどんどん若返っていきます。終わった後はみんな池袋で飲んだり、サークルもゴルフやフラダンスをしたりいろいろあって、もう1回キャンパスライフを満喫できるようになっています。
 おもしろいなと思うのは、こういう場所に来ることで、当初しかめっ面だった中高年の男性たちも表情が明るくなり、イキイキしていくんです。今までのコミュニティとは異なる人たちと触れ合える場所として、新たな自分を見つける場と言えます。

─ 単位制になっているのですか。

松田 学士は取れませんが、単位は取る必要があり、修了論文も書かなければなりません。1年目が本科で2年目が専科です。

─ 単なるカルチャースクールとは仕組みもレベルも違うわけですね。

松田 違いますね。ゼミ形式で教えるだけでなく、フィールドワークとして実際に証券取引所に行ったり老人ホームや火葬場に行ったり、ということも行います。
 以前、私自身も実際に生徒として倫理の授業に出たのですが、倫理って高校でも大学でも劇的につまらなくて、大教室で寝ていた記憶しかありませんが、50歳を超えて授業を受けると、なかなか染み入るものがありました。一番人気は聖書のクラスらしいのですが、やはりある程度年を重ねると、一般教養、とりわけ文学、歴史、宗教というのは向き合い方が変わります。
 また、75歳以上の人を5年間調査研究したものがありますが、住まい方によって死亡率や機能低下率が異なります。その中で、独居男性の死亡率と機能低下率が著しく高いのがわかります(図表3)。それは孤独が原因です。しかし、独居女性を見ると、死亡率はゼロ、機能低下率もきわめて低いのです。もう1回大学で学ぶというのは一例ではありますが、今日用があること、今日行くところがあるということは、特に男性の孤独の解消にとっては非常に大事です。

図表3:5年間の死亡・機能低下割合

 


時間と空間を自在に活かす「逆参勤交代」



松田 次にもう少し年代を拡げて考えていきます。自由な時間・空間という視点で考えると、「逆参勤交代」があります。何かというと、現在、仕事において時間や空間の自由が随分と利くようになりましたが、都市の生活者が地方で期間限定型リモートワークをしようというのが「逆参勤交代」という提案です。江戸の参勤交代の逆転の発想ですね。
 これはリタイア世代だけではなく、現役世代も対象にしています。例えば、わたしは現在、親の介護もあるので北海道や沖縄に移住・就職することは不可能ですが、パソコンとスマホがあれば、数日から数週間の滞在は可能です。限られた期間なら時間と場所は自由に選べる、そういう働き方・暮らし方がこれからはもっとやりやすくなります。
 江戸の参勤交代はそれなりに大変でしたが、制度の後押しで江戸に人が増え、藩邸が整備されました。加賀藩邸には3,000人ぐらいいたらしいです。これが逆になれば、地方に住まいやサテライトオフィスの需要が起こり、新幹線や飛行機の需要も高まり、ホテルや旅館の稼働率も上がる。こうした自由な働き方、暮らし方を制度によって後押ししましょう、というのが逆参勤交代という考え方です(図表4)。

図表4:「逆参勤交代」とは


─ この逆参勤交代は現役でもリタイア層でもというお話ですが、一番ふさわしい年代はあるのでしょうか。

松田 極端に言えば全年代にそれぞれにふさわしいあり方があります。類型化すると5つになるのですが、ローカル・イノベーション型は新規事業、リフレッシュ型は健康経営、武者修行型は坂本龍馬が江戸に来たような若手や中堅向け人材育成だし、育児・介護型はワークライフバランス。セカンドキャリア型はシニア人材活性化というように一様ではありません。特に育児・介護型については、育児離職が年間100万人、介護離職は10万人いるのですが、離職せずにふるさとでリモートワークできるという選択肢があればかなり離職せずにすみます。子育て世代も転校せずに都市と地方を行き来できるデュアルスクール制度を使えば転校せずに家族単位で動けます。
 また、セカンドキャリア型は、バブル世代、団塊ジュニアの活性化という課題に適しています。この二つを合わせて1,500万人、団塊の世代の2倍いるのですが、この人たちのありようというのはとても大事で、彼らが東京でモチベーションを低く過ごすより地域で貢献できる仕事でイキイキと暮らす選択肢もあるのです。

─ 従来のシニアのイメージと全然違う、新しい意識やライフスタイル、スキルを持った人たちのセカンドキャリアのありようが変わると、インパクトも大きいでしょうね。

松田 眉間にシワを寄せて負のオーラを出しまくるおじさんが、地域でがらっと変わる瞬間があるんです、良い化学反応が生まれて。地域にとっても一緒で、よそ者が入ってくることによって福沢諭吉が半学半教と言っているように、半分学んで半分教えるような対等な関係性も生まれます。

─ とはいえ、相当ポジティブマインドを持った方々でないと難しそうです。

松田 いきなり行動はケガの元です。ほどよい助走期間は必要だと思います。企業内でいえば若手研修、管理職研修、部長研修などの機会に、地域・地方に自分が関わることについて触れる機会を設けるとか、実際に数日体験するとか。あるいは先ほど言った子どもの地方留学などの機会もいいですね。
 以前、参加者を募ってトライアルをやりましたが、自ら学びたいという意志で参加された人と、上司から指示されてしぶしぶ来たという人がいたんですね。興味深かったのが、上司の指示でしぶしぶ来た人や、友達から誘われて何も考えずに参加した人に限って、その土地が好きになってイキイキと最終日に地域活性化のためのプレゼンをしていました。受動的な参加者の方々こそ、むしろポテンシャルが高いともいえます。

 


「逆参勤交代」制度化による1,000億円の効果


 

─ だからこそ、先ほどおっしゃっていた制度による後押しが重要な役割を担うのですね。

松田 そのとおりです。江戸の参勤交代も、嫌だな、面倒だなと思いつつ、実際に来た後は江戸でいろんなことを味わい、新しい文化を持ち帰り地元で広めました。かったるいなと思いながら白紙状態で来てしまった人に限って夢中になるわけです。ほどよい強制力が日本人を育てていると思います。

─ 単なる人の移動ではなく、戻ってからの波及効果への期待こそが参勤交代的なんですね。

松田 はい。大企業で働いている人は首都圏と近畿圏だけで1,000万人、その1割の100万人がもし1カ月逆参勤交代をすれば、消費ベースだけで1,000億円の消費が生まれます(図表5)。

図表5:「逆参勤交代」の効果

 現在も関係人口とかワーケーションとか言われていますが、いかんせんスモール・ボリュームです。ワーケーションにしろ、兼業・副業にしろ、メディアに登場するのは大体Tシャツにジャケットのいけてるお兄さんやお姉さんばかりで、丸の内や霞が関にいるような人はほとんど出てきません。
 先ほど言った大企業1,000万人、あるいは大手町、丸の内、有楽町の就労人口28万人といったマス・ボリュームを動かすことが大事です。ワーケーションできる人がうらやましいなと思っている人はたくさんいるので、そのことに注目すべきです。
 そのためにも個人の意識と行動に委ねるのではなく、企業を通じた制度でやる。企業にも多面的なメリットがありますし、そもそも働き方改革、人材育成、自由な働き方ができないと良い人材も採用できない時代になっています。
 健康経営も大きなテーマです。現在、大企業の健保組合の7割が赤字ですから。
 あとはSDGsですね。8番「働きがいも経済成長も」と11番「住み続けられるまちづくりを」が関連します。胸に派手なバッジをつけるだけのSDGsはもう卒業したほうがいい。今、各社の社長が一番気にしているのは、SDGs投資やESG投資の対象とならず、自社の株価、企業価値が下がることです。逆参勤交代でSDGsを実践することは、株価の上昇にもなり、働き方改革の面でもプラスになる。企業にとっては多面的なメリットです。
 地方におけるローカル・イノベーションによるビジネス強化も課題です。高知の尾崎前知事に、高知の一番の悩みを尋ねたら、廃業とのことでした。黒字で店舗もしっかりしてお客さんもいるが、後継者不足で廃業するところが後を絶たない。定期的に首都圏から人を派遣すれば事業継続できる機会はまだまだあります。
 結果、個人も地域も企業も、これは三方一両得なんです(図表6)。首相の施政方針演説に逆参勤交代が出るまでわたしは言い続けます(笑)。

図表6:“明るい”逆参勤交代は三方一両得

 


偏差値では計れないデュアルスクールの価値



松田 先ほどデュアルスクールのことを言いましたが、子どもを連れていくケースも結構あります。これは徳島がやっているデュアルスクールの制度の例ですが、教育委員会が許可すれば、首都圏と徳島を行ったり来たりできる。親の逆参勤交代に子どもや家族がついていくことが可能になります。子どもも心身ともにだんだんたくましくなります。
 わたしの知り合いの人で、親の出張についてきた首都圏の子どもが、地域が好きになり、高校受験のときに偏差値重視の首都圏はおかしいと考え、島根の高校を選びました。東京でも合格はもらっていたけれど、島根を選択した。グローバルは大学で学べるけれども、ローカルは今しか学べないと言っていました。

─ すごい名言です。

松田 SDGsネイティブみたいな子どもが現れています。SDGsに関わる分野では既に子ども世代が主役という気もしています。

 


地域と協働してこそのワーケーション


 

松田 フィールドワークやワークショップをやって、地元の中高生とも交流会を持ちました。熊本の南阿蘇村と奄美の徳之島の例ですが、中高生向けに、例えば建築家がデザインの話をしたり、元CAが話をすると、高校生たちが目をキラキラさせる。地域の子どもたちって、近くに大学もなく、スーツを着ている人といえば町役場か農協の人しかいない。大学で学ぶこととか、さまざまな職業がイメージできません。ですので、そういう大人たちが話をすると、身を乗り出して、建築家になるにはどういう大学に行けばいいんですか、と具体的な興味が湧いてくるんです。
 また、今の地域の子どもたちは自己否定感が高い。うちのまちは魅力がない。こんなまちは駄目だ、という子どもが実は多いんです。しかし、よそ者が行って、よそ者からみた地域の良さを言うことで自己肯定感につながるという、未来人材育成の側面もあります。
 わたしは最近話題のバケーション型のワーケーションには反対なんです。「休むのなら休む」べきです。中途半端なものというのは第2のプレミアムフライデーになりかねない。大事なのはせっかく地域に行くなら、地域交流のCommunication、地域のことを学ぶEducation、地域に貢献するContribution、地域のためのInnovation。これらがワーケーションの本質です。バケーション型とはまったく異なる意味を持ちます。

 


10万時間あるからこそ実現しやすい時間銀行



松田 先ほど話をしました時間銀行やポイント制というのも今後は注目されるのではないでしょうか。例えば50時間働いたら、50時間は自分のサービスに使える。あるいは、5万円の地域通貨になる、さらに自分が将来介護になったときの何かに使えるという仕組みは、官民連携でできる事業です。せっかく10万時間にも及ぶ人生の持ち時間が増えていくのですから、こういう時間の使い方ができる時間銀行やそれをポイント制に代替させていくことは価値があると思います。

 


CCRCという安心を提供する暮らし方


 

─ 逆参勤交代とともに松田さんは日本型CCRCを提唱しています。わたしは以前西海岸で見たゴルフ場併設のCCRCが連なっている印象が強いのですが、日本における現状を教えてください。

松田 CCRC(Continuing Care Retirement Community)というのはリタイア後の自由な住まい方と継続的なケアを補償する暮らしですが、アメリカですと2,000カ所に70万人が住んでいます。これは3つの安心「カラダの安心、オカネの安心、ココロの安心」を提供するものです。
 逆参勤交代が世代を問わず大都市圏と地方を行き来する働き方・暮らし方、すなわち都市と地方の人材循環だとすると、こちらのCCRCは定住して豊かな人生をおくろうというものです。国は「生涯活躍のまち」と称していますが、それは、高齢者だけでなく多世代が交流や仕事を通じて健康的に生涯活躍しようというもので、この制度に対しては北海道から沖縄まで421の自治体が手を挙げています。この数は5年前から倍増しています。
 山梨の都留市は大学連携型CCRCとして既存の団地をリノベーションし、家賃6万5,000円という安心価格にしたところ、すぐにいっぱいになりました。他にも全国で大学連携型CCRCが注目されています。
 元気なうちに安心できる場所に移り、そこで楽しみながら暮らすので入居者同士の交流やコミュニティ活動も盛んです。入居者のうち単身者が7割くらいですが、一人住まいで会話のない生活と異なり、みなさん顔色が良くなったり、活動的になっていくようです。

 


高校、音楽、サッカー…コンセプトは多様


 

松田 海外にはユニークなCCRC事例がたくさんあります。大学との連携は多いのですが、破綻寸前の大学にシニア大学を作り、CCRCをつくったところ、起死回生の逆転満塁ホームランになりました。大学の休み時間には、高齢者たちが宿題の話を楽しそうにしています。
 イタリアには音楽家のヴェルディがつくった老人ホーム「カーサ・ヴェルディ」があります。入居条件は音楽に関係があれば貧富や名声に関係なく、年金の8割で住め、高齢者と音大生が同じテーブルで食事をしたり、一緒に音楽を演奏したりして過ごします。ヴェルディは晩年、自分の最高傑作は椿姫ではなく、このカーサ・ヴェルディだと言ったそうです。
 スイスにはスタジアム連携型があり、サッカースタジアムの中に老人ホームとショッピングセンターをつくり、週末はおじいちゃんとサッカーを見に行こう、というものです。日本ではJリーグのレノファ山口FCが関心を寄せています。
 日本においてもさまざまなコンセプトのCCRCが考えられます。卒業後も絆が強い地元の名門高校との連携や、酒蔵との連携、ワイナリーとの連携など。また、シングルマザー連携も考えられます。彼女達の住居と仕事を確保しつつ、高齢者支援や子育て支援をするものです。
 大事なのは将来自分がそこに住みたい、ワクワクするような住まい方ということです。

─ CCRCを検討する個人にとって必要な準備はありますか。

松田 コミュニティの個性、過ごし方の特徴はさまざまです。体育会系はみんなでバーベキューをわいわいやっている感じだし、文科系は一緒に食事はしても、終われば各自の部屋でゆっくり読書するという感じです。人との距離感はそれぞれ違うので、助走期間の中で自分のスタイルを自覚できていること、そしてそれに合う場所を自ら探すことは非常に大事だと思います。

 


自分の体験が「逆参勤交代」発想の原点



─ ところで、松田さんが逆参勤交代や日本型CCRCに思い至った経緯にも興味があります。

松田 CCRCは2010年にアメリカのリタイアメント・コミュニティから発展したCCRCや大学連携型CCRCを知ったことが契機となりました。日本にはない暮らし方やコミュニティのあり方に未来を感じました。
 逆参勤交代は、地方創生の仕事で地方に出張することが多かったのですが、都会で生まれ育った自分には、普段出会わないような、例えば農業や観光で頑張っている人たちや廃業しかかった地域の再生に取り組んでいる人たちと出会い、いかに日頃過ごしている世界がごく一部であるかを実感し、同時に仕事の活性化などの良い化学反応も体験しました。こういう経験は一個人の経験としてではなく、より多くの人が体験することでものすごい効果を生む、そのためには逆参勤交代という制度化が必要だ、そう考えるようになりました。

─ 人生が長くなると、今までなかった時間を手に入れることになります。リモートができ、移動がしやすくなった今、可能性もチャンスも格段に広がっていくと改めて思いました。

松田 はい。弊社の小宮山理事長は、時間と空間において自由を得た中、最後に人が求めるのは自己実現だと言っています。コロナをきっかけに時間や空間を超えた働き方・暮らし方はポジティブに捉えられていきますし、それを後押しする制度設計は不可欠です。なにかとすぐに「頑張ろう日本」だけの精神論で済まそうとする傾向がありますが、そうではなくて逆参勤交代を実施した企業には法人税の減税などで優遇することで大きな変化が生まれます。新しいライフチャレンジに対してマーケターの方々が貢献できるところもたくさんあると思います。

─ 生活様式が変わると、そこに関わるさまざまなモノも、コトも変わっていき、新しい産業と消費が生まれる契機になると思いました。本日はありがとうございました。


 

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〈出典および注記〉
図表1:World bank, Global Note, Cabinet office Japan 2017、内閣府高齢社会白書等

図表2:OECD Education at a Glance(2016)
留学生を除いた入学者に占める25歳又は30代以上の割合。ただし、日本の数値については、①「学校基本統計」及び文部科学省調べによる社会人入学生数(留学生を含む)。②「学校基本統計」による修士課程及び専門職学位課程への社会人入学生数の割合(留学生を含む)。

図表3:平成20年度国際長寿センター「高齢者日常生活継続調査」

図表5:
※2016年総務省経済センサスより、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、兵庫の企業で、国内常用雇用者数1,000人以上の事業所で働く人数の合計。農林漁協勤務者は除く。
※※100万人÷12ヵ月=約8.3万人と移住規模:総務省2013年調査:年124万円消費換算。
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(インタビュアー : ツノダ フミコ)

松田 智生(まつだ ともお)
株式会社三菱総合研究所 主席研究員
1966年東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。専門は超高齢社会の地域活性化、アクティブシニア論。高知大学客員教授を兼任。委員として政府日本版CCRC構想有識者会議委員、内閣官房・地方創生×全世代活躍のまち検討会座長代理、内閣府・高齢社会フォーラム企画委員、浜松市・地方創生アドバイザー、壱岐市政策顧問などを務める当該分野の第一人者。著書に『明るい逆参勤交代が日本を変える』、『日本版CCRCがわかる本』。

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