みちくさ的「教えない授業」が生徒の学力を伸ばす

写真は高校3年生の11月のある授業。センター入試まで70日を切ったころの様子です。そこには入試への不安や焦りは感じられません。お互いに助け合いながら学ぶ残り少ない時間を愛しんでいるようにも見えます。

両国高校のような進学校で、この時期にこのような雰囲気の授業をしている学校はなかなかないと思います。


この日の授業はコミュニケーション英語Ⅲ。教科書には大学入試レベルの英語で書かれた様々なテーマの文章が載っています。今回取り上げたのは「ダーウィン」「進化論」がテーマの文章です。読解するだけでも難しい内容ですが、僕は生徒たちに先生になってもらい授業をしてもらうことにしました。内容に関連するテーマから、生徒は学びたいものを選び、調べ学習を行っていきます。わかったことを1枚の紙にまとめ、他の生徒に「英語で」教えるという流れです。テーマは4つ設定しました。①Darwin②Wallace③Natural Selection(自然選択)④Current Studies on Nature(自然に関しての最新の研究)です。「与えられた学び」ではなく、自分で選ぶことで「自分でする学び」に変わり、生徒は能動的になります。この活動の中で、生徒たちはインターネットや生物の資料集などを使いながら主体的な学びをしていました。自然と大学入試レベルを超えた英文に触れる機会が多くなり、英語力も上がっていきます。調べたことを一枚の紙にまとめ、小グループを作り、順番に先生役となり英語で授業をしていきます。写真はその授業の様子です。


大学入試対策と考えると、演習形式で問題に取り組み、先生が解説をするという授業が効率的と考えるかもしれませんが、生徒に言わせれば、「問題を解いて、解説を読むのは家でもできる」のです。テーマを選び、探求的な学びをすることで、自分の理解が深まります。さらに、「教える」ことで学びが広がっていき、他からのフィードバックで自分の理解も深まります。生徒一人ひとりテーマや掘り下げ方が違うので、先生が一人で授業をするより、はるかに多様な題材や英語に触れることができるのです。一見、効率的でなく遠回りに見える「教えない授業」で生徒の英語力は伸びていくのです。


「教えない授業」が学力を伸ばすわけ
ただ、気をつけないと「教えない授業」は単なる放任になりかねません。そこで、「教えない授業」で僕が気をつけているポイントを紹介します。
一つ目は、「課題」や「問い」から始めることです。今回のようにテーマを与えて自由に調べさせる時もありますし、「より良い世界にしていくにはあなたは何を変えたいですか」といった「問い」から始めることもあります。この「課題」や「問い」を解決することが授業の目標になるのです。明確な頂上があると授業の目的がはっきりして、能動的な学びが生まれやすくなります。


二つ目は、学び方や題材を生徒が「選ぶ」ことです。今回のように「課題」を4つのテーマから選んだり、「課題」に対して一人で取り組むか、ペアまたはグループで取り組むかといった活動の形態を選んだり、さらに解決方法も自分たちで決めていきます。自分たちで選んだことには責任が伴い、先生から解決方法のレールが丁寧に敷かれる授業よりも主体的になります。
最後に、これが一番大切なのですが、学びが「自分だけのため」にならない仕掛けをすることです。生徒による授業は、「自分だけのため」の勉強から、「周りに貢献する」勉強に大きく変化します。友達が理解しやすいように教材を準備し、説明できるようにします。お互いに授業を聞きあい、助け合うことで感謝が生まれます。この「誰かに感謝される」ことが自己肯定感につながり、教室が居心地のいい場所になっていくのです。


「学び」を「仕事」に置き換えれば、この流れは、社会にも通じます。今の学びが社会にもつながることを感じれば生徒はより真剣に授業に取り組むようになります。結果的に、受け身で講義形式の授業を受けている時より、何倍も頭を働かせ、何倍も多様な題材にふれることができるので、必然的に学力が伸びると考えられます。この学年からは中3で英検準1級、高3で英検1級に合格する生徒が出てきました。また、極端に英語が嫌いになったり、授業についていけなかったりする生徒もいません。授業見学をされる方からいつも言われる「誰が英語の得意な子で、誰が苦手な子なのかわからない」という言葉は、僕にとって最大の賛辞です。


日本の教育システムの限界
しかし、これまでの日本の教育界ではこういった授業がなかなか生まれませんでした。大量生産を目指す工業社会では、効率的に画一的な知識を伝達する講義形式の授業はそれなりに意味がありました。しかし、より情報化が進み、国際化に伴う社会の多様化が急速に進む現代社会では、画一的な知識はあまり意味を持ちません。このままでの教育では、これからの社会を生き抜く子どもたちを育てることはできないと、文科省は腰をあげました。それが、アクティブ・ラーニングという手法で、次期学習指導要領の目玉になるキーワードです。
アクティブ・ラーニングとはこれまでの講義型の一斉授業とは異なり、ペアワークやグループワークなどを通して、対話的な深い学びを促し、生徒が主体的に学ぶ授業の総称です。「教えない授業」もアクティブ・ラーニングの考えに当てはまります。大学入試も変え、本気で学校の授業を変えようと動いています。


しかし、理念だけ説いても、今の学校教育のシステムを変えなければ「教えない授業」やアクティブ・ラーニングは広がらないでしょう。なぜなら、多くの先生はまだ、講義形式の一斉授業に慣れ親しんでいるからです。講義形式で教える画一的な知識は中間期末考査で効率的に測ることができます。ですから、「教えない授業」やアクティブ・ラーニングを浸透させるには、中間期末考査を廃止するのが一番の近道だと考えています。テストのための学びからの脱却が、生徒の学びを本質的な学びに、つまり学校の学びを社会にスムーズにつなげることになるのです。


僕の夢
とはいえ、中間期末考査を廃止することに賛成の先生は少ないでしょう。今あるものを壊して、無くしていくには大きな抵抗があります。特に中間期末考査のようなどこの学校にもあるようなものを壊すことは困難です。 
だったらゼロから作ったほうがいい。これまでの学校のシステムをゼロから見直す学校を作る。これが僕の夢です。入学式、中間期末考査、みんなで同じ場所に行く遠足や修学旅行、校則、制服、給食、時間割、宿題・・・これまでの当たり前を見直していく学校です。この学校は12万人とも言われている不登校生徒(中学校、2015年度)や毎年自殺に追い込まれてしまう生徒たちを救う選択肢の一つになるはずです。一見遠回りでも、失敗を認め合いながら新しい力を生み出す。そんな学校を作りたいと思っています。


山本  崇雄  (やまもと  たかお)
東京都公立中学校・高等学校主幹教諭
自ら作曲・脚本を手掛ける英語ミュージカル作りを長年行う。生徒の自立につながるアクティブ・ラーニングの英語授業を広げるため全国で講演や執筆活動も行っている。新刊「なぜ『教えない授業』が学力を伸ばすのか」(日経BP)

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