「シェアな生活」で人生の可能性を伸ばすコツ

シェアリングエコノミー元年といわれている2016年だが、最近のマスコミには、AirbnbやUberを中心とした「黒船」が日本の「穏やかな」ホテル業界とタクシー業界のビジネス環境をやっつけに来たのではないかと懸念する一連の記事が目立って来た。しかし、シェアリングエコノミーは果たしてそれだけなのだろうか?

この思い込みを解消するのに、もうすでに日本国内に存在しているサービスを利用している架空の人物「トモアリ(共有)さん」の一週間を想定してみた。


トモアリさんはフリーのデザイナーであることにしよう。彼は35歳で、妻、共子さんと、3歳の男児有太郎くんと一緒に東京練馬区の1LDKのマンションで暮らしている。犬の黒丸もいる。トモアリさんは、CrowdWorksを通じて仕事の依頼を受けている。そのサイトに、デザインを必要としている企業が詳細を載せて注文を受けてくれるデザイナーにアピールし、一般公募している。クライアントがオンラインですべての要望や条件などを書き込んでいるので、無駄な打ち合わせなく黙々と本番作業に集中できる。クライアントとデザイナーがCrowdWorksのプラットフォームを通じて結ばれるので、仲介手数料をあっさりといただく代理店を関与させなくても済む。Crowdworksにはデザイナーだけではなく、カメラマン、ビデオ編集者、ライター、翻訳者などのクリエイター、税理士や弁護士などの士業をしているプロもたくさん登録している。ヤマハやTBSといった大手クライアントも利用しているようだ。

共子さんはOLで、育児休業をとってから出版社での仕事に復帰した。仕事柄残業も多くて、トモアリさんが自宅で仕事していないときには、AsMamaを通じて、有太郎くんを近所の知り合いのお母さんに世話してもらっている。AsMamaは子育てシェアを専門にしているサイトで、同じ園や学校に通うお母さんやお父さん、もしくは顔見知りの友達とつながって、子供の送迎や託児を頼り合うサービスだ。僅かな謝礼で(一時間当たり500円など)、前もって予約するか、突然用事が出来たときにも利用できる。万が一のことを考えて、AsMamaを通じて依頼をした場合、事故の時に保険が適用されるという安心な仕組みになっている。また、周りに登録しているママ達の知り合いがいなければ、託児研修を受けた「ママサポーター」という世話役の人々が各地域にいて、いざとなったときに依頼もできる。見知らぬ人にサイトから案内が行かないように工夫されているので、共子さんは安心して有太郎くんの送り迎えを頼んで、自分のキャリアにもバリバリ集中できるスーパーママになった。


子供が生まれた時、トモアリさん夫妻は軽自動車を購入した。満員電車でベビーカーを押すのはとても耐えられないという共子さんの強い要望だった。しかし、有太郎君が近所の幼稚園に通う様になってから、使用頻度は激減。


せいぜい、山梨に住んでいる彼女の両親を訪ねるときぐらいだろうか。車はマンションの駐車場に寝ていることが多くなった。当初思ったより、車をあまり使わないと気づいたトモアリさんは所有車のランニングコストにおびえて、手放そうと提案したが、妻の共子さんは大反対。そこで、妥協案として、トモアリ夫妻はその車をAnycaのサイトに登録した。これは、個人が愛車を登録ユーザーに短期貸し出しする仕組みで、Anycaを通じてオーナーが自車を使う予定のない日をカレンダーに記載し、日にちが合えば安く借りられる様にユーザーとマッチングするサービスだ。つまり「車のAirbnbと考えれば良いだろう。Carecoやタイムズプラスの様なカーシェアリング企業と違って、Anycaの場合個人同士が交渉しているので、返却時間に多少の融通が利いたり、なかには喫煙OK、ペットOKというオーナーもいる。トモアリさんもその一人。普段から愛犬の黒丸を車に乗せているので、AnycaのサイトにもペットOK(ケージ内という条件で)と記載している。Anycaは東京海上日動火災保険のちょい乗り保険と組んでいるので、万が一の時に利用者がかけた一日保険でカバーされるのだ。月に8日間ぐらい車をこうやって貸しているトモアリさんは、一日2500円で換算して毎月2万円弱を稼ぎ、車の所有コストを抑えられるようになった。


山梨のご両親も電車が苦手で、孫の顔を見たいときには車で上京するが、トモアリ夫妻のマンションには駐車出来ないため困っているのだ。幸い、余っている駐車スペースをAkkipaで貸しているオーナーが近所にいて、訪問が決まったら、滞在期間中だけの駐車スペースを一日540円という格安価格で確保している。Akkipaは、スマートフォンアプリを通じて駐車の空きスペースを提供するオーナーと一時的に借りたい人をマッチングするサービスで、企業が運営しているコインパーキングよりは安くすむ上に、行動予定に合わせて事前に予約することができる。


トモアリさんは 料理が全くできない男だ。共子さんは年に数回九州の支社に出張をせざるを得ない。その際、出張日数分の夫と子供の分の料理を前もって作って冷凍しているが、間に合わない時にAnytimesの料理代行サービスに依頼する。料理に自信のある「サポーター」が予算内に人数と好みに合わせて食事を自宅に作りに来てくれる。依頼すれば掃除もしてくれるので、 共子さんは安心して出張に出かけられる。 フリーターや単発バイトをしたい主婦は、特技と空いている時間帯、希望時給をAnytimesのサイトに記入するだけで、そのサービスを受けたいユーザーとマッチング出来る。手伝いのジャンルによって違うサポーターに依頼できるので、気軽に自分が間に合わない物をその分野の得意な人に助けてもらえる。代行サービスの項目には、イケアの家具組み立て、部屋の修理、排水パイプのクリーニング、ペットシッター、買い物代行、語学レッスン、名刺整理など、たくさんの「面倒くさい仕事」があり、地域毎に代わりにやってくれる人々を探せるようになっている。


来月結婚5周年を向かえるトモアリ夫妻は、久しぶりに友人を呼んで盛大な記念パーティーを企画している。貸し切りレストランという手もあるのだが、共子さんの友人に料理研究家がいるので、彼女にビュフェスタイルの料理を準備してもらおうとしている。40?50人を収容出来るスペースを探していたトモアリさんはSpace Marketでぴったりの場所を見つけた。キッチン、グラス、食器類、そしてピアノとドラムセットが常設され、プロジェクターや音響設備も完備されている。新宿四谷にあるこのイベントスペースは食べ物も飲み物も持ち込みOKで、一時間2500円で借りられる。これなら、学生時代のバンド仲間と楽しい時間を思う存分過ごせるはずだ。


Space Marketは個人や企業利用で、「余っているスペース」に改めて需要を見いだしているサービスで、撮影ロケやパフォーマンス会場を探すにも便利だ。
シェアリングエコノミーを徹底的に活用しようとしているトモアリさん夫妻は、こうやって賢く自分のニーズに合わせていろいろなサービスに登録している。


かつては近所付き合いで自然にお願いできたことを、今ではスマホのマッチングサービスに頼るようになった。 企業は、こういうニッチ市場のニーズを無視したり、または高額な料金設定にし、結局富裕層にしか使えないサービスにしてしまう。その点シェアリングエコノミーは、基本的に個人個人の需要と供給を仲介業者なしに瞬時にマッチさせる仕組みであり、これで助かるユーザーは日々増えているのだ。

AsMama : http://asmama.jp
Anyca : https://anyca.net
Choi Nori : http://www.choinori-jidousya.jp
Anytimes : https://anytimes.co.jp
Space Market : https://spacemarket.com
Crowdworks : http://crowdworks.jp
Akkipa : https://www.akippa.com

 
エチエンヌ・バラール
フランス人ジャーナリスト。1964年生まれ。パリ第3大学東洋語学院卒。「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」誌の特派員として1986年に来日。以来日本発のレポートを送りつづけている。
本誌編集委員

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