シェアリングエコノミーは成長するか

昨今、日本のメディアでも配車サービスの「UBER」や、民泊サービスの「Airbnb」などの米国シェアリングエコノミー企業が取り上げられるようになってきた。

それら企業の急成長スピードもさることながら、既存事業者との軋轢や規制に対するグレーゾーンの議論になりがちだが、本稿ではシェアリングエコノミーが持つインパクト、それらが普及した要因、最先端の事例をいくつか取り上げたい。


総務省の白書によると、シェアリングエコノミーの定義は、「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。」とされている。事業者が行うレンタルやリースサービスの歴史は長く、多くの読者もレンタカーやDVDレンタルなどを利用してきたかと思う。ここに一般人の供給者が加わったことで、供給量が圧倒的に増えただけでなく、サービスの質も向上したことがシェアリングエコノミーを大きく成長させた理由である。米調査会社によると、従来型レンタルサービスとシェアリングエコノミーの市場規模は、2013年でそれぞれ24兆円、1.5兆円の合計25.5兆円が、2025年にはそれぞれが33.5兆円の合計67兆円と、「所有から利用」への動きが大きく加速し、レンタル市場そのものが2.75倍になる内、シェアリングエコノミーが20倍以上成長すると見られている(図1)。


車の事例:「所有から利用」へのシフトは止まらない
2009年に創業した配車サービスのUBERは、2016年4月時点で1兆円以上の資金をベンチャーキャピタルから調達し、その企業価値は7兆円以上といわれている。この額がいかに凄いかというと、UBERを上回る時価総額を持つ自動車メーカーはトヨタ、ダイムラー、フォルクスワーゲン、BMWの4社しかいないということになる(図2)。そのユーザーは全世界で1100万人、ドライバーは60万人ともいわれている。


筆者も米国出張の時にUBERを利用するが、その便利さに毎回舌を巻いている。日本から持ち込んだスマホで配車を頼んだらものの2分で目の前に車が到着。予想以上に小綺麗な車に乗り込んだ後は、事前に設定されたルートで目的地まで向かい、到着したらチップの計算や小銭を出すこと無くキャッシュレスで決済される。料金はタクシー同等だが、UBER Poolという他ユーザーとの相乗りサービスを利用すれば半分程度に下がることもある。この感動は実際に利用しないと分からない部分も多いが、今の話の中には車だけでなくシェアリングエコノミーが普及するために必要な要素がいくつか隠れている。


シェアリングエコノミーの普及に必要な前提条件
様々なシェアリングエコノミーサービスを見ていると、共通項が多いことに気づく。それらを列記してみよう。


1)スマホの普及
世界的に普及したスマホだが、筆者が10年前にモバイルアプリを開発していたときは、各キャリア専用のアプリを作るばかりか、端末ごとにアプリのカスタマイズ・評価を行い大変な時間とコストがかかっていた。
それが今や、iPhoneとAndroid向けのアプリを作ってそれぞれのストアに登録すれば、あっという間に全世界のユーザーに同じサービスを届けることができる。実際シェアリングエコノミーは都市ごとにコミュニティー開拓を行う必要があるが、アプリ開発を一元化できるのはグローバル規模で普及を進めるための重要な前提条件である。


2)相互評価システム
「知らない人の車に乗りたくない」、「知らない人に家を貸したくない」といった不信感は誰しも持っている。この点を克服したのがユーザーと供給者が互いを評価するシステムである。UBERの例でいうと、目的地で車を降りた直後にアプリがドライバーの評価を求めてくる。評価は5段階だが、現地の人の話だと平均が4.85あたりを下回ると配車リクエスト頻度が下がるという。逆にドライバーも同様に客を評価しており、乱暴な態度の客には車が来なくなる。レビューサイトでは当たり前になった評価システムを応用することで、シェアリングエコノミーのボトルネックである不信感を克服しているのだ。


3)決済や地図など、ツールの普及
シェアリングエコノミーサービスの利用を阻むペインポイントを簡単に克服できるツールが数多く・低コストで利用できるようになっている。キャッシュレス決済も、アプリに数行のコードを埋め込むだけでクレジットカード決済ができるSproutのようなものから、Googleの地図・ナビ機能が、当たり前のようにアプリ内で使われている。これらツールやAPI(アプリケーションインターフェース)の普及がシェアリングエコノミーの影の立役者であることは間違いない。


4)ユーザー・供給者双方の「慣れ」
日本ではまだまだシェアリングエコノミーが一般的でなく、今一歩利用に踏み込めない方が多いと思う。これは米国でも同じで、数年前までは今ほどUBERやAirbnbが当たり前に使われていなかった。これはひとえにユーザーが慣れたといってしまうと身も蓋もないが、一度サービスを利用し、利便性がわかり、不信感が薄らぐと同様のサービスに対する心情的ハードルは相当下がる。これはユーザーも供給者も同じであり、新規サービスが出るたびに「ああ、UBERのXX版ね」と一瞬で理解し、積極的に利用する状態になったことが、今後のシェアリングエコノミーサービスの普及を後押しするであろう。


米国シェアリングエコノミー最新事例
これまでの話を踏まえて米国の最新事例を幾つか紹介しよう。どれも前項にある「型」を踏襲しており、その上に独自性を打ち立てようとしている。


1)毎日の買い物代行「InstaCart」
日常アイテムや食材の買い物は、低単価ながら高頻度で行われる面倒な家事の代表である。ここに目をつけたのが創業5年目のInstaCartだ。結果から言うと、2012年の売上1億円から、2013年が10億円、2014年が100億円と急成長を遂げているベンチャーである。仕組みはUBERと同じだが、ユーザーがアプリで買い物アイテムを選んでオーダーすると、近くのドライバーたちにリクエストが出る。ドライバーはアプリの地図に導かれスーパーに行き、商品を買い、ユーザー宅まで届ける仕組みだ。


ここで興味深いのが彼らのビジネスモデルだ。ユーザーから4?10ドル程度のデリバリーフィーが徴収されるが、場合によってはスーパーから「実売価格データベース接続料」を徴収している。通常リアル価格は分からないので、平均的な市場価格から20%程度上乗せされた価格が表示される。ところがスーパーが実売価格データベースをInstaCartに接続すると、実売価格店舗という形で紹介される。当然ユーザーは実売価格の店舗を選択するので、集客が良くなる仕組みだ(図3)。


2)犬のお散歩代行「Wag!」
愛犬の散歩もなかなか手間がかかる作業だ。独身や共働きだと犬が一匹で家にいることが多くなり、運動不足、トイレ、騒音など悩み事はつきない。このようなシンプルかつリアルな悩みを、近所に住む人間を使って解決したのが2014年に創業した「Wag!」だ。まだまだ未知数な部分が多いベンチャーだが、創業の地ロサンゼルスでトライアルを行った後、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴなど19都市に急展開している今後が楽しみなベンチャーだ(図4)。


現在爆発中のシェアリングエコノミーだが、課題もある。先日の出張時には、「昔ほど儲からなくなった」と多くのUBERドライバーがぼやいていていた。今後の展開が気になるところだが、一度使ったユーザーは病みつきになるほど価値は証明されているので近い将来エコシステム全体が継続的に発展するようになることを期待している。


加藤  雅己  (かとう  まさみ)
NetService Venturesパートナー・日本代表
ソニー株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2007年現職
カルガリー大学商学部、INSEAD MBA   

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