「良い賞」に育つための条件<前編>

世の中には多種多様な賞がありますが、受賞者本人だけでなく関係者にとっても世間にとっても貰って良い賞と、何の目的でやっているの?という賞、場合によっては、お金にまみれている賞もあるかもしれません。

今日は、一般消費財、エンタメ、ファッションなどそれぞれの分野に通じた編集委員の方々に集まっていただき「賞」の功罪について覆面で忌憚のないご意見をいただくことにしました。


「良い賞」とは

片平 私だけ覆面なしで司会を兼ねて参加させていただきます。まず、私が考える良い賞の大事な条件の一つについて。これからいろいろと出てくるかと思いますが、意外と見落とされやすいのは後に続く者に夢を提供するという点です。例えば、オリンピックは幼少期のスポーツ少年少女に大きな金メダルの夢を提供しています。これがある賞は大変良い賞だと思います。

小山薫堂さんは「REDという新しい料理人の登竜門を取りたいという人が少しずつ生まれているというのと、レッドの応募者に料理の鉄人を観て料理人を目指したという人がいて、「料理の鉄人」をやって良かったと思うようになったと。」仰っていました。

この商売につきたい、この能力を身につけたい等、不特定多数の人に何にも代え難いモチベーションを与えられるかどうかは重要だと思います。


A 良い賞の条件のひとつとして、それまで頑張ってきたこと、そこに費やされてきた時間・努力・汗などの成果に対して、みんなが素直に手を叩いて喜べるということがあると思います。ノーベル賞もそんな側面がありますよね。

逆にそこの対極にある、スポンサーになることでもらえたり、順番制が透けて見えるような賞は、評価基準も曖昧ですし、心からの祝福とはちょっと異なると思います。励みになる夢のシンボルとして絶対的な価値がある賞は文句なしに良い賞ではないでしょうか。


B まず受賞して励みになるには、評価する審査員のレベルが担保されていることが重要だと思います。その道のプロフェッショナルが審査し、その人に認められることが嬉しいと思えるような賞。

賛否両論あると思いますが、日本においてのファッション関連の賞は取ってもそのあとが続きません。ファッションはトレンドがあるので難しいところもありますが、取った人が後々評価されるような賞になることを望みます。若手で注目株にスポットがあたる賞なら芽を伸ばせるようなサポート体制があると良いと思います。

例えば、グローバルで活躍するファッションデザイナーを発掘する「LVMHプライズ」は、1年に1度、才能溢れる若手デザイナーを募集し、受賞者には助成金として300,000ユーロ(約4,235万円)を授与するほか、12ヶ月間にわたりブランド運営の専門知識やノウハウなど、LVMHの専門チームから指導を受ける機会が与えられます。この事例などは、世界と未来に繋がっていく良い賞ではないかと思います。


片平 サポートする賞ですか。素晴らしいシステムですね。賞を取った後に関わる例では、重要無形文化財(いわゆる「人間国宝」)があります。これに認定されたということは、その後後輩をしっかりと育てなさいという重い義務を負うことを意味します。

実際に人間国宝の方にお会いすると必ず皆さん「後世に伝える重要な責務を負っている」とおっしゃいます。賞はあげてそれで終わりでなはく、後継者を育てるということも大事なことですね。


C 私は良い賞は大きく3つあると思います。1つは貰う人にとって良い賞。2つはあげる人にとって良い賞。もう一つの尺度は社会にとって良い賞ということです。三方良しの精神で社会に貢献できるものであるということです。

貰う人にとって良い賞は、貰う人が得をする賞。名声、名誉、金銭、賞品、場合によっては商売が上手くいく等。あげる方は、あげることによってあげる側のブランドのメッセージが社会に伝わるとか、あげ方も含めてあげる側にとってのメリットがあるのが良い賞という捉え方もあります。

社会に対してでは、ノーベル賞のなかでも、ユニークな賞としてノーベル賞平和賞がありますね。多くの賞は、その人の成果・実績に対して贈賞しますが、ノーベル平和賞は平和を実現したということではないのです。

今年もそうですが、平和にするということに何か顕著なアクションや問題提起を起こした人にあげている。こんなノーベル平和賞に代表される賞というのは、社会にとって素晴らしいものではないかと思うんです。社会が未来に進む賞。このように社会に良い影響を与える賞がもっとあってもいいのではないでしょうか。


片平 なるほど。


A ノーベル賞の各賞それぞれも突き詰めていくと社会、暮らし、人々の健康や幸せ、世界の平和に寄与する成果であると言えますが、そこに、あえて平和賞が設けられている意味は非常に大きいと、今改めて思いました。


D 視点は変わりますが、賞って良い賞も悪い賞もあっていいのでないかと個人的には思います。なぜならば、悪い賞のアンチテーゼとして良い賞があるわけです。昔は別に良い賞も悪い賞もなくて皆受け入れていた。世の中に賞が溢れてしまっているので、これは良い賞・悪い賞とでてきた感があります。

賞自体は人に褒められたい・認められたいとかの承認欲求を満たすという意味でも必要なものかなと思います。文化面でいいますと、本屋大賞は結構好きです。そこでは制作サイドのバイアスが排除されていて、純粋にいい本が薦められている。

制作者(社)のバイアスが排除されているという前提があれば、本屋大賞は本当に良い賞だと思います。消費者サイド、そして社会における共感性みたいなものが生み出されるのが良い賞だと思います。


C 日本賞として出すなら、日本の文化でもある三方良しであげて欲しいですよね。日本を名乗るのなら日本文化のスタンスを伝えることに使って欲しいと思います。


D 日本の価値観で目利きができないところが弱さですね。外から入ってくる物を未だに有難がっている事に繋がる。逆に、日本発で、世界にうって出る賞があれば素晴らしい。


B 誰かの眼を気にすることなく、自分達が清廉潔白に生きていくというのは日本の精神性に割とあり、海外の誰かが評価するみたいなのは日本の精神性にはないのかもしれませんね。


A 上から目線の権威ではなく、皆が共感する草の根的な本屋大賞が出てくる一方で、昔ながらの権威の化けの皮が剥がれたというか、賞の舞台裏や思惑が見えてしまった結果、信用度が低下したり、冷ややかな目線で見るようになったりする傾向も強くなってきました。

一方で信頼されてきているのが個人個人が選んだランキングなどです。無料会員が見られるランキングなどは参考にはされても、もはやまるっきり鵜呑みにはされていません。

しかし、有料会員になるとより細かく、自分にとって意味のある信頼性の高いランキングやお墨付き情報を見ることができます。本来賞が持っていた「なぜこれが優れているのか」という信頼性を、受け手自身が編集し、自分に合った、自分が認めるのに相応しい賞を選ぶようになってきました。

権威としての賞よりも、自分にとっての価値で共感できる賞こそがすごい、というような。それは賞という名前でなくても、ランキングの仕組みであったりとか、誰々さんのお薦めとか、この人が選んだモノが私にとって最高、というようになってきているので、それこそマスにおける賞の意味や存在価値が弱くなってきたなと感じます。


C 貰う人・あげる人のメリットを明確にオープンにして出す賞は皆良い賞なんじゃないでしょうか。そういうことを明確にするのがこれから(SNS社会)の賞の在り方には必要なのではないでしょうか。

賞はマーケティングの切り口でいうと増幅器の役割があります。増幅器であるがゆえにそれがメディアと繋がっていったら、凄く増幅力が高まるアンプ効果を生みます。なので、みんなが納得するとか、正しい制度設計をするとか、結果が検証できるとかそういう姿勢が求められると思います。


D 権威は後から付いてくる。いい賞の要件は動機の公共性と純粋性だと思います。思いが伝わってくるものって、すごくいい賞だと思います。それに対して賞金を与えるとなると、どこかがスポンサーになるので、主観やバイアスが入ってくる。必要なのは「賞金」ではなく「称賛」だと思います。


C 公共性と純粋性でいうなら、レコード大賞に対抗したゴールドディスク大賞というのは、レコード販売枚数が一番の人に賞をあげるという単純で分かりやすい賞でした。レコードがこんなに売れている、こんなに売れているものが世の中にこんなにあるということをいろいろな部門ごとで見せられるんです。

シングル、アルバム以外の普段日の当たらないジャンルも、例えば普通なら100万枚は凄いのですが、1万枚でも評価できるジャンルもある。

しかも業界が世の中に知らしめ売りたいので、知って下さいという正しいプロモーションが行われることは、ゴールドディスク大賞の良いところだったと思います。公共性でもNHKと組んで行ったので、NHKの全国ネットで取り上げられます。大プロモーションの場になりました。


片平 要するに賞の怪しげなところを逆にこれどうだと。


C レコードと名付けられているレコード大賞のアンチテーゼなんでしょうね。


片平 賞金でいえば、ノーベル賞は1億円くらい出ますよね。これは日本的感覚だと思うんですが、踏み絵なんだと思うんです。要するに貴方これ自分で貰っちゃうの?って。寄付をするかどうかってもう一段階試されるのです(笑)。

後編はこちら>>https://www.jma2-jp.org/article/jma/k2/categories/515-mh181007



片平 秀貴  (かたひら  ほたか)
丸の内ブランドフォーラム 代表
元東京大学大学院経済学研究科教授(1989年~2004年)。「丸の内」ブランド再構築のお手伝いがきっかけで2001年丸の内ブランドフォーラム創設。「変人×職商人(しょくあきんど)が社会に笑顔をつくる」の信念のもと、同志とブランド育成の勉強と実践を続けている。趣味は仕事とラグビー。

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