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マーケティングホライズン2023年2号

映画館はコミュニケーションの場になった。~逆風だからこそ飛翔したい、ミニシアター「Stranger」の挑戦~

映画を観に行くことは、いつだって特別な体験である。でも、それを提供する映画館は時代に合わせてアップデートしているだろうか?パンデミックはその勢いが収まっても、確実に人々の生活スタイルを変化させた。配信サービスの充実もあり、鑑賞スタイルは多様化している。老舗ミニシアター閉館の報せも聞こえてくるなど映画館業界への逆風は強まるばかりだ。

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マーケティングホライズン2023年2号

価値を再発見する ~アートを通じて  見つめなおす、熱海の魅力~

昭和を代表する観光地だった熱海は、首都圏から近く、昭和レトロブームの後押しもあり、今や人気観光スポットになっている。一方で、居住者が少ない典型的な観光地のため、パンデミックによる影響も非常に大きかった。まさに渦中の2021年、PROJECT ATAMI(プロジェクトアタミ)はスタートしたが、来場者によりSNSなどで拡散され、初開催ながら延べ来場者数5万人を動員した。2022年は2年目にして延べ18万人が来場した。同プロジェクトは創業約60年のACAO SPA & RESORTと東方文化支援財団が中心となっているが、プロジェクト誕生の経緯や地元の方の反応などについて冠氏にお話を伺った。

 

───PROJECT ATAMIでは、熱海の魅力を再発見するための新たな切り口として、アートを中心に据えています。なぜアートなのでしょうか。


冠 アーティストの方々は、普段、私たちが見ている世界の一歩先、もしくは真逆の根源的な部分に立ち返って表現するのが得意だと感じています。普段、私たちが何気なく触れていて見落としいる部分や他のものに紛れて埋もれてしまっている魅力など、私たちの日常の視点だけでは捉えきれない部分に光を当てて掬い上げてくださるのではないかと考えました。静岡、もっと言えば、日本出身ではない人たちが見る熱海の魅力は、長年住んでいる人では気がつかない部分も多々あります。このようなアートプロジェクトは、正直な話、9割大変ですが、残り1割の部分、いらしていただいた方々の反応や全体から放出されるエネルギーみたいな部分にものすごい力があります。

今回、地元の高校生に授業の一環で見てもらう機会がありましたが、一人ひとりがそれぞれ、ここがよかったとか、こんなもの見たことないとか全く違う感想を伝えてくれて、それがとても印象的でした。

少しずつ変わってきていると思いますが、日本はみんな同じがいいという感覚が強いと思うので、アートを見ていくことであれもこれもあり、それぞれ違ってそれぞれの魅力があるという感覚も伝えていきたいです。


───ホテルを舞台に選んだ理由は?


冠 このプロジェクトが始動する際の2021年頭に、まずホテルニューアカオを見せていただきました。率直にいって衝撃的でした。私の世代にとってバブルの時代は、映像や写真などから想像することしかできなくて体感としては知りません。でも、その時代の雰囲気や空気感の残り香が、ホテルニューアカオにはまだまだ残っていました。2021年当時は、ホテルとしても宿泊営業をしていたので、ここに実際に滞在し、アーティストの視点でこのホテル、そして、もっと広く熱海全体を見渡したときに何が生まれるのだろうか、そう考えたときにとてもワクワクしました。


───発足当時は、パンデミック禍でホテル業界はまだまだ先が見えない状況だったと思いますが、そのあたりは何か影響はありましたか。


冠 プロジェクトの成り立ち自体が、東方文化支援財団の中野善壽とACAO SPA & RESORTの赤尾宣長の出会いからはじまったのですが、出会い自体にもパンデミックは大きく影響していると思います。あくまで想像になってしまいますが、通常通りに運営ができていたら、こうした新しい挑戦を積極的に取り組んでいたかはわかりません。イレギュラーなこと、普通に捉えたらマイナスなことが起こったことで、それを次のポジティブなエネルギーに変えるためにはどうしたらいいのか、各々が必死に模索した中で、熱海のポテンシャルを信じる二人の想いからスタートしました。

熱海は観光業がベースになる街なので、宿泊できる施設はたくさんあります。

そのため、アーティストに滞在してもらい、日々の暮らしの中で見えてくるものを表現してもらうアーティスト・イン・レジデンスを実施することが現実的に取り組みやすかったと思います。現在も年間50組のアーティストを支援しています。アーティストがただ作品を展示するのではなく、熱海に滞在して作品をつくることで、熱海全体の魅力を再発見していく取り組みとして今後も続けていきます。

 

ホテルニューアカオ15階にあるダンスホール。昨年は、SNSでこのホールの投稿などが拡散され、話題を呼んだ。
©ATAMI ART GRANT 2022 Photo by Naoki Takehisa
「ATAMI ACAO CLUB 2027 MAP」
2027年の熱海は、世界中からアートコレクターやパトロンが集う街になっているのか、今後の展開が楽しみである


───アートの持つ力と熱海が持つポテンシャルとは、どんな部分なのでしょうか。


冠 私は中野が寺田倉庫時代に天王洲アイルでアートの取り組みを始めた頃から一緒に参加させてもらってきましたが、当時の天王洲アイルは無人のエリアだったところに、定期的に人が集まるようなアートのエリアになる、そういった仕掛けをしてきました。

アートは縦割りになっているものを横串で串ざすというか繋ぐ強さ、面白さがあります。また、実は住んでいても日常生活では知らない部分、注目しない部分、古い歴史などに光を当てるという役割も大きいです。世界規模で見たら、フィリピン海プレートの上に日本で唯一あるのが伊豆半島だということなど、住んでいる人たちもいつもとは違う視点から熱海を知ったという感想をもらえると私たちもとても嬉しいですし、そういう再発見ができるのもアートの魅力です。 

宿泊施設を含む一部不動産の売却については、プロジェクトの発足当初から考えていたわけではないと思いますが、2021年、このプロジェクトが始動し、初年度から延べ5万人の方々にご来場いただいたり、SNSでたくさんの画像が拡散され話題になったことで、プロモーションビデオやミュージックビデオ、雑誌やドラマの撮影などをしたいというお話をたくさんいただくようになりました。空間に付加価値がついたことで双方にとっていい形での今回の売却に繋がった部分はあるかと思います。PROJECT ATAMIのメンバー自体もACAO SPA & RESORTのスタッフで地元に住む人と東京在住者が半々くらいなので、それぞれ違う視点や強みもあります。

熱海は居住人口が非常に少ない中、観光客で成り立ってきた歴史があり、一時期の低迷も経験して再復活して活況になった現状があります。その中で、まだまだポテンシャルがあると感じています。

今回、ACAO SPA & RESORTが宿泊事業から一度撤退するという発表がされ、PROJECT ATAMIそのものがなくなるのではと懸念される方もいるかと思いますが、65万㎡という広大な土地を活用し、その中にアーティスト・イン・レジデンスができるヴィレッジを作るなど、引き続き積極的に取り組んでいく予定です。また、2023年以降はこれまで以上に熱海市内にも積極的に出ていき、街全体で盛り上がるような取り組みを考えています。

熱海には、いい意味での猥雑さ、光と闇みたいな部分があるのが面白さです。例えば、赤線街の風貌が残っている建物や秘宝館が残っているなど、いわゆるきれいな観光地の部分だけではない部分に人間らしさ、人間臭さを感じますし、熱海のポテンシャルだと思います。それは、アーティストの方々も面白いと感じてくれる部分ですね。

これはホテルニューアカオの建物自体にもいえることだと思います。連絡通路から入っていくと、いきなり15階でダンスホールが現れ、大きなシャンデリアたちが目に入ります。メインダイニングでは、劇場のような空間があったり、建物を巡っていくと不思議さ、混沌要素があるつくりで興味深いです。それが多くのお客様が1年目から多く来場していただいたことにも繋がっていると思います。


───今後のビジョンを教えてください。


冠 2021年はまずホテル内や熱海の街でアートを展示してみることを目標にスタートし、2年目である2022年は、熱海市内各所での展示やアーティストと共同開発するお土産なども展開し、これを購入していただくことでアーティストを支援することに繋がる試みをスタートしました。3年目の今年は地域のホテルや旅館などともさらに連携していくことを考えています。中野が常に言うのは、1社だけではなく、街全体が面白くなっていかないと人は何度も来てくれないし、住みたいとは思ってもらえないので、地域と繋がって街全体で活性化していく構想です。

ACAO SPA & RESORTの土地を活用して、アーティストが住める場所をリノベーションして開発したり、現在あるヘリポートを活用して羽田や成田空港などから直通で来られたり、そういう環境を整えてパトロンの方が来ることが増えて、作品を見たり買ったりする環境を作れればと思っています。

1年目は何が始まるのかと思われていた地域の方々も来場者が延べ5万人を超え、自分達のお店などにお客さまが増えたことで、今年は期待してくださって、何か協力できることはないか、一緒にやれることはないかとお声がけいただいたり、交流を持つ機会は増えています。

2年目の会場の一つに熱海魚市場という場所があるのですが、そこはとても地域に根ざした場所です。そういった地元の人は知っているけれど、観光客の方は知らない面白い場所との取り組みを増やすことができたのも2年目だからです。2021年、壁画に取り組んだこともあり、会期終了後も継続して見られる展示があり、それを見てくださった方から、こういう取り組みをしているのであれば何か一緒にできないかと少しずつ広がっている印象もあります。

地域に根ざしていくためには、続けていくことがとても大事。熱海といえば花火、という印象をお持ちの方も多いと思いますが、長年続けてきているからですよね。毎年続けていくことで花火以外にもアートイベントがあるのだと認知されることを目指しています。また、イベントとして見に来てもらうだけではなく、アーティストを中心に実際に移り住むような場所になって、街全体がクリエイティブな街として認知される未来を描いています。


───本日はありがとうございました。

 

PROJECT ATAMIとは 
熱海の魅力をアートにより再発見し、五感で感じる体験を通して記憶に残るような体験を届ける。滞在制作型プロジェクトである「ATAMI ART RESIDENCE」と、アーティストをサポートする仕組み「ATAMI ART GRANT」を二本の柱として取り組んでいる。
https://projectatami.com
「ATAMI ART RESIDENCE」は、若手アーティストの制作活動支援を目的に、制作活動におけるアトリエの提供・制作費を支援する滞在制作型プロジェクト。
「ATAMI ART GRANT」は、アーティストの制作活動支援を目的とし、2022年は「渦 ? Spiral ATAMI」をテーマに熱海の街に彩りをつくるアーティストを公募し、授与者によって制作される作品が、行政・企業・個人のご協力のもと、熱海市内に展示された。

 

冠 那菜奈(かんむり ななな)

ATAMI ART RESIDENCE プログラムディレクター
武蔵野美術大学芸術文化学科芸術文化プロデュースコース卒業。大学内外でアートマネジメントを勉強しながら様々なアートプロジェクトに関わる。自分自身がメディア(媒介)となって、魅力的な人をつなぎ、情報を伝えていくことを目指す。それぞれのニーズに合わせて企画やコーディネート、マネージメント、広報・PR、司会、ライティングなどを担当。
主な活動・企画として、寺田倉庫アート事業コーディネート、東京芸術祭広報チーフ、PROJECT ATAMIプログラムディレクターなどがある。

 

(Interviewer:吉田 けえな 本誌編集委員)

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