マーケティングホライズン2023年3号

50代がつなげる「お気に入り二毛作」

ライフスタイルショップやアパレルショップからあからさまな年齢設定が消えて久しい。最近では性別すらも消え、自分が着たいものや自分に似合うことが最優先。ビジネスシーンのカジュアル化により、その傾向も加速している。
そうした中、フロアごとに対象年代を比較的明確に設定している(ように見える)のが百貨店だ。40~50代女性の話にしばしば登場するのが「あのブランドを着たら自分でオバサン認定したことになる」「購入フロアを上げずに済む体型を維持したい」などとフロア構成を踏み絵的にとらえている声だ。
果たして、実際の店頭では年代をどうとらえ、また昨今の40~50代をどう見ているのか。松屋銀座のフロアご担当者にお話をうかがった。

松屋全体として、現在、一番多いお客さまの年代は50代です。少し前までは60代のお客さまも多かったのですが、団塊世代が消費の第一線からややピークアウトしている中で、50代をトップに40代、30代と続いています。一方、コロナ禍以降、しばらく百貨店から離れていた20代、30代のお客さまによって、特にラグジュアリーブランドが非常に伸びています。

一方で、コロナによるリモートワークの増加により、働いている方々の都心への出勤は減少しました。コロナ禍以前は金曜日夕方にはお仕事帰りのお客さまで18時から混み合う状況でしたが、それもかなり減少しました。

松屋銀座の3、4階にはビジネスに対応できるブランドが多かったのですが、出勤や外出機会の減少によりかなり変わりました。リモートワークが増えればスーツや関連商品は減ります。また、結婚式やハレのイベントも減少し、好調なラグジュアリーといえどもシューズ系では苦戦したブランドもありました。

そうした中での50代の方々ですが、この方たちはなんといっても百貨店にとってはど真ん中の年代です。百貨店で物を見て、ご自身で試着をした上で安心して購入したいという方々で、非常に多くのお客さまがいらしてます。さらに、若い頃お好きだったブランドのファンであり続けていらっしゃるようにも見受けられます。

おもしろいなと思いますのは、50代のお好きなブランドが、このところ若い世代にも非常に刺さり始め、トラッド系のブランドなどで二毛作的な売上げも見受けられます。

そうした中、特に40~50代を狙って仕掛けたことや意識していることはあるのだろうか。

コロナ禍の強い影響により、家の中で過ごされる時間が増えたことで、身の周りへの興味が高まったことが百貨店全体でも如実にうかがえます。コロナ禍以前より力を入れていたことの一つに豊かな暮らしへの提案がありますが、こちらへの反応が大変強くなっています。たとえば、リビングの催事「銀座・手仕事直売所」がその一つです。陶器をはじめ、ご家庭内で使うさまざまな道具を作る作家の方々を日本各地から招き、その作家さんとお客さまが直接触れ合い、お話をしながら買えるという催事ですが、40~50代の方々に大変ご好評をいただいております。本当に自分の気に入ったものを、その作家さんの思いやストーリーとともにお求めになる、そこに価値を見出していらっしゃいます。この催事が1週間で1億規模の売上げに育ってきました。

また、管理職に就く女性のお客さまや、お仕事上スーツの着用が必要なお客さまが以前より増えてきています。そうした中、非常にご好評いただき、予約がいっぱいなのがファッションコンサルティングサービスという有料のサービスです。例えばスーツに対してインナーやアクセサリー、靴やバッグなど、ブランドを超えてご提案するサービスですが、十分時間が取れないお忙しい年代の方にはぴったりなようです。

また、ジェンダーレスかつエイジレスを志向する方々に支持されているのが、体の線を拾わないプリーツのお洋服です。30代、40代、50代、さらにその上のお客さまにも支持されています。ビジネスシーンでも快適な着心地とおしゃれを上手に楽しまれています。

親子二代、三代で楽しまれる方も松屋には非常に多く、通い続けられる場所、暮らし全体を提案できる場所、それも百貨店ならではと思いますが、そういう意味でも中心を担う50代の方々の存在は非常に大きいと感じています。

(Interviewer ツノダ フミコ 本誌編集委員長)

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