マーケティングホライズン2023年3号

はじめに 「中年」 基本のき

中年とは何歳なのか
日頃、何気なく使っている「中年」という単語、実は正確な定義がない。厚生労働省の「健康日本21」には45歳から65歳が「中年期」と示されているが、しっくりくるだろうか※1。ちなみに同資料では25歳から44歳を「壮年期」としている。ふむ、壮年ですか。日頃、世代や年代について検討する機会は多いものの、壮年についてはあまり目にすることも使うこともなかっただけに、壮年期・中年期の設定には少々違和感を覚えた。

NHK放送文化研究所が2015年に実施したアンケートの回答平均によると、「『中年』は、40.0歳から、55.6歳まで」となったそうだ※2。デジタル大辞泉(小学館)には、「青年と老年との間の年頃。現代では、ふつう40歳代から50歳代にかけてをいう」※3とある。

同辞書の「中(ちゅう)」の項を見ると、「中」そのものが「二つの物の間」を意味するとの記載があった。まさに、前後の年代があってこそ存在する年代、それが「中年」なのだ。壮年と高年の間、あるいは青年と老年の間。もともと中年そのものが独立して存在する年代ではなかったわけだ。なんとなくこのような語源からも、この年代の立場、たとえば子育てと親のことで思うように動けなかったり、上司と部下とに挟まれて悩んだり、という様子を映し出している。

さて、中年の該当年齢については諸説あるものの、この号では中年を40~50代として進めていきたい。上記のように絶対的な定義が存在しないという理由もあるが、10歳刻みの方が各種データによる比較がしやすい、という都合にもよる。

 

この先の未来において、今がもっとも中年が多い時代
まずは今の日本における40~50代の人たちが育ってきた時代背景を見よう。いうまでもなく、価値観形成期に右肩上がりの経済と東西冷戦構造の終焉を迎えるという世界的大転換期を迎えた世代でもある(図1)。また、日本においてはいわゆる就職氷河期世代とされる人たちを含む。「失われた10年」と言われていたものが、あっという間に「失われた30年」になったが、社会人生活がそのままそこにあてはまる年齢の人たちでもある。

図1 40~50代が育ってきた時代背景

 

当該年齢の人口ボリュームを見てみよう。2022年7月時点、国のデータによると40~50代の男性は1,760万人、同女性は1,731万人であり(図2)、男女計で全人口の27.9%となる※4(図3)。団塊ジュニア世代が含まれるため、人口ピラミッドに突出が認められる。余談だが、しばしば指摘されているように10~20年前に有効な少子化対策が講じられていたら、現在の年少人口も少しは変化していたのにと、今後もこの図を見るたびに誰もが思うことだろう。こんなチャンスはなかったのだから。

図2 年代別男女別人口(2022年)
図3 年代別人口構成比推移

同時に、この先の未来においても中年層比率は今がもっとも高いのだとわかる。ちなみに10年刻みで振り返ると、過去もっとも中年層が多かったのは1992年の29.1%で、団塊世代が40代前半(団塊ジュニアは10~20代)の頃である(図3)。

 

失われた30年に上昇した未婚率
少子社会に影響を与えている婚姻状況を見てみよう。2020年の年齢別未婚率によると、男性40代前半32.2%、50代後半21.6%、同様に女性は21.3%、12.2%である(図4)。40代前半と50代後半の未婚率を比較すると男女ともに10ポイント近く差がある。すなわち年齢の上昇とともに既婚者が増えているわけだが、これはなかなかに明るい事実との印象をもったのだが、いかがだろうか。

図4 年齢別未婚率(2020年国勢調査)                                          図5 40代・50代の未婚率変遷(2020年国勢調査)

 

さて、同調査で10年ごとに40~50代の未婚率の変遷を見ると、1990年には40代前半男性の未婚率が10%をやや超えている以外は、男女ともに5%前後に過ぎなかった。まさにこの30年間は人々の暮らしや意識の変革期であったといえる(図5)※5。

図6 年代別 世帯の家族累計割合(2020年国勢調査_人ベース)


次に世帯構造に目を向けよう。2020年時点において40代の54.9%、50代の38.3%が「夫婦と未婚の子のみの世帯」、いわゆる核家族である(図6)。ただし、ここでいう核家族には40~50代が「未婚の子」であり、その両親と一緒に住んでいる大人だけの核家族世帯も含まれていることにも留意したい。ちなみに、単独世帯は40代12.9%、50代15.4%と他年代比較で最も低い。

 

50代の過去、現在、未来
40~50代のお金事情はどうであろうか。「令和3年国民生活基礎調査」にて世帯主の年代別所得金額階級別構成比を見ると、40代では700~1000万円未満が28.8%、50代では同23.6%ともっとも高い割合にある(図7)※6。

 

世帯主が30、40、50代の各世帯における所得を2001年と2021年とで比較すると、30代では700万円以上の構成比が33.0%と9ポイント上昇している(図8)。つまり今の50代が30代だった頃よりも、今の30代の方が高所得者の比率が高い。パワーカップルという言葉が浸透してきたように、夫婦ともに正社員同士の共働き世帯が増加した影響だろう。一方、40代では2ポイント低下の46.8%、50代では3.9ポイント低下の49.0%となる。こちらは今の70代が50代だった頃よりも、今の50代の方が高所得者の比率が低いことを表している。当事者にとって、こうした比較は意味のないことかもしれない。比べたところで生活は変わらない。しかし、生活者と向き合うわたしたちは「同じ40~50代ではない」ということを肝に銘じておかなければならないだろう。

図7 世帯主年代別_所得金額階級別 世帯構成比(2021年)
図8 世帯主年代別_所得金額階級別 世帯構成比(2001vs2021年)
図9      世帯主年代別 2021年 一世帯当たり平均所得(国民生活基礎調査)
図10  40~50代世帯主の家計支出割合推移(総世帯)

世帯当たり平均所得を見ると、働き盛りの年代でもあり、共働き世帯も多い40~50代の平均所得は確かに他年代よりは高い(図9)※7。

しかし、40~50代の消費支出内訳を見ると、2021年は食料支出がもっとも多く約25%であり、しかもその構成比はこの10年で約2%上がっている(図10)※8。また、40~50代においては教育費も無視できない。誌面の都合で総世帯のデータを掲載しているが、総世帯においても40~50代の教育費は他年代より突出しているうえ、子有り世帯のみで絞り込んだらさらに厳しい様相となるだろう。

 

豊かさを実感できない年代×時代×世代の三効果!?
最後に将来不安と現在の豊かさ実感について見てみよう。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査 令和3年」※9によると、老後の生活について「非常に心配である」とする人の構成比がもっとも高いのが40代(47.3%)、次いで50代(41.8%)である(図11)。当事者になることを意識しはじめ、具体的に数字と向き合う年代ゆえの実感であることが見てとれる。

経済的な豊かさの実感具合について「実感している+ある程度実感している」と「あまり実感していない+全く実感していない」を比較すると、実感率(全体平均41.4%)がもっとも低いのが40代37.0%、次いで50代39.5%であるが(図12)、これは心の豊かさについても同様の傾向で、全体平均58.4%のところ、40代50.7%、50代53.0%である(図13)。
どのような時代においても、職場でも家庭でも何役をもこなす多忙かつ物入りな年代ゆえに、物心ともに豊かさをなかなか実感しづらい年代ではある。50代の前と後ろとでは世代が異なるため、その意識にも違いがあるが、「中年」という年代でとらえると40~50代はまさに間の年代だ。

冒頭で「中年」の「中」は間を意味すると記したが、次なる高年層での暮らしが現在の延長ではないことを祈るばかりだ(が、これまで見てきたデータでは明るい兆しは見えにくい)。
次稿以降は現在の40~50代の暮らしのさまざまな実態を見ていく。そこにひとかけらの光明を見出せることを期待して、今の中年層の実像に迫っていきたい。

《注釈》
※1 厚生労働省「健康日本21」総論
※2 NHK放送文化研究所 
※3 デジタル大辞泉
※4 総務省統計局 人口推計の概要Ⅰ 各月1日現在人口
※5 総務省統計局「令和2年国勢調査」 時系列データ 男女、年齢,配偶関係 第4表
※6 厚生労働省「令和3年国民生活基礎調査」 所得 26表
※7 厚生労働省「令和3年国民生活基礎調査」 所得 42表
※8 総務省統計局「家計調査年報」 家計収支編 第4表
※9 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査 令和3年」

40代は「暮らし」、50代は「仕事」へ ~国民生活時間調査からみる中年層の生活~

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