ネットを駆使して時間を拡張するZ世代

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年10・11月合併号『時間FACTFULNESS』に記載された内容です。)

〇コントロール可能なコンテンツ、アンコントローラブルなコンテンツをすみ分けて使うZ世代のエンタメ消費
〇Z世代の可処分時間消費は“リアタイ”が基本。エンタメには「飾らないリアリティ」が必要に

 

フランスの哲学者ポール・ジャネが発案した「ジャネーの法則」によると、「時間の経過の早さ」は、「年齢に比例して加速する」といわれます。これはいわゆる「体感時間」のことで、同じ一年間(実際の経過時間)でも、幼少期は長く感じて歳を重ねるごとに早く感じることを表します。

今回は、1990年後半から2000年代に生まれた「Z世代」と呼ばれるデジタルネイティブな若年層の「時間」の過ごし方や、エンタメコンテンツへの意識についてデータを元に読み解きます。

新型コロナ以前より若者の「〇〇離れ」の中でも特に話題となったのは「若者のTV離れ」です。これに関しては「インターネットがあるから」「内容が世代にあっていない」など様々な理由があげられましたが、そもそも「一家に一台」がベースのデバイスであることから放映される情報や内容も全世代に向けたものです。

また、「テレビっ子世代」との環境で大きく異なるのはアーカイブ配信やオンデマンド配信があることだと考えます。その時に見られなかった番組もインターネットを通じて自分の好きな時間に視聴することや、話題になってから見てみるということが可能なのもテレビ離れ、いわゆる「世帯視聴率」の低下につながったと考えられます。

アーカイブ配信やオンデマンド配信は近年まで「視聴数」が重視されてこなかったものの、サブスクリプション動画配信サービスの普及によって、視聴数をベースに注目度が高まり話題にあがることで「後で見る」という方法はより身近になりました。

2020年9月に実施した10~20代男女1,264名対象の「SNS利用に関する調査(https://lab.testee.co/sns_2020)」の結果の中で、各SNS利用者を対象に「SNSで話題になっていたことがきっかけでTVや映画などを見たことはありますか?」とたずねた際にも、SNSをきっかけに「(TVや映画を見たことが)ある」と回答した人は10代男性で68.0%、10代女性で74.3%、20代男性で56.3%、20代女性で61.2%と、全体では64.9%となり、若年層の約6~7割がSNSをきっかけにTVや映画などを視聴した経験があることがわかりました(図表1)。

これは事前に録画をしていなかった場合や、リアルタイムで見逃してしまった場合にも「SNSで話題にあがっているから見てみよう」となる若者のテレビ・映画コンテンツへの意識が伺える結果でもあります。

もう1つ、Z世代の大きな特徴である「情報収集」については、TesTee Labによる「2021年、YouTube/YouTuberに関する調査(https://lab.testee.co/youtube_2021)」で、10代20代男女の利用率が9割を超える「YouTube」にヒントが隠されています。

9割以上の利用率、さらに利用者のうち「ほぼ毎日視聴する」と回答した人が10代男性で77.4%、10代女性で73.0%、20代男性で63.9%、20代女性で57.3%となった若年層コアユーザーを抱える「YouTube」の視聴ジャンル調査の結果において、男性の第1位は「ゲーム実況」、女性の第1位は「アーティストのMV・PV」と性年代でそれぞれ好きな動画ジャンルに大きく違いが出る結果となりました(図表2)。

若年層の利用率が高いYouTubeにおいて、それぞれの年代で視聴ジャンルに差が出ているこの結果から「自分の興味がある情報・コンテンツ」を取得しているといえます。

また、いずれの性年代にもランクインしている「やってみた」という動画ジャンルは、実験や検証などを行う動画ジャンルとして若年層人気が高く、現在のテレビでは薄れてきたリアリティさを求めて視聴されているコンテンツです。

SNSを日々活用しているZ世代はより飾られていない「リアリティさ」を求めていて、全世代に向けて大きな影響力を持つとされるTVの企画段階から吟味されて収録したコンテンツは、完成度が高いゆえに生々しさという点で物足りなさを感じるのかもしれません。

その証拠に、ここ数年で動画配信系のSNSでは「ライブ配信機能」が充実し、単体で様々なジャンルの「ライブ配信」のみに特化したアプリが参入しています。

ライブ配信には「リアクション(良いねボタンやスタンプなど)」や「コメント」、そして特徴的な機能に報酬をリアルタイムで反映する「投げ銭」というシステムがあります。これは自分のおこしたアクションに対して、配信者のリアクションが見られることで同じ時間軸で過ごしている感覚を強く感じることが可能です。

このように「テレビ」では発信された情報を受け取る「一方向的」な情報取得が可能ですが、インターネットに多く触れている若年層は、自分本位で情報取得可能なメディアに時間を使い、「双方向」でのコミュニケーションに価値を感じていると考えられます。

先述の調査結果において、若年層の6割~7割がSNSでの見かけた投稿がきっかけでコンテンツ視聴を行った経験があるということがわかりましたが、双方向でのコミュニケーションに当たる「発信」についてもSNSを利用している若年層の4割は「(自分のアカウントで)感想・意見のSNS投稿経験がある」と回答しています(図表3)。

SNSの台頭によって感想や意見をパブリックな場で発信することが容易になり、これも一種のコミュニケーションと考えて「自身のアイデンティティを発信している」と言えるのでは無いでしょうか。

では、「テレビ」に割かなくなった時間はどこへいったのか。こちらもSNS利用調査で常に上位に台頭する「YouTube」にヒントがあります。ここで、注目すべきなのは意識ベースの「視聴タイミング」です。「YouTubeで動画を視聴するタイミングを教えてください」という質問に対して、最も多かったのは性年代を問わず「休憩中」、次いで「就寝前」という結果となり、自宅に設置されている「テレビ」の利用シーンと重複がある様子が伺えます(図表4)。

次いで、回答で多かったものをみてみると、男性は10代20代ともに「移動中」、10代女性からは「作業中」、20代女性からは「食事中」という回答があがりました。

いずれも「移動」「作業」「食事」と何か別の行動をしている際に利用しているという回答が上位にあることが見て取れます。

元来、個人が自由に使える時間を指す「可処分時間」という定義は、1日24時間のうち睡眠や食事、仕事(通勤)といった、生活に欠かせない時間を差し引いた残りの時間を指していましたが現代における可処分時間は細分化され「~しながら」と、時間の有効活用に躍起になっているともいえるデータとなっています。

人びとの1日の生活行動(睡眠や仕事、家事、食事、テレビ視聴など)についての時間視点で調査を行うNHKの国民生活時間調査にて発表された2015年と、2020年のデータを比較してみても「1日24時間」という実際の経過時間よりも行動をしているという意識が現れている調査結果が出ています(図表5)。

これは、いずれかの必須行動(睡眠・食事など)と、拘束行動(学業や仕事など)の間に生じる細分化された可処分時間によって拡張されていると考えられます。

細分化された可処分時間とは、例えば「ご飯を食べながら、テレビを耳で聞きつつ、スマホを操作する」など、五感のうち2つ以上を埋めている状況では「必須行動」と「拘束行動」、そして「自由行動」にさかいはなく、限りある時間を細かくしてこれらの行動を繰り返すことで「時間の拡張」を可能にしているのではないでしょうか

これは、デバイスの小型化による「持ち運べる」「片手で操作できる」という点も大きな要因として考えられます。幼い頃からスマートフォン・インターネットが当たり前に存在しているZ世代の若年層は外界の状態を認識するための「五感」、聴覚や視覚を通じて日々吸収される様々な情報においても同時に複数の感覚を刺激することで、充実感や忙しくて満たされるような感覚を持っているのかもしれません。

この「もったいない精神」ともいえる短い時間にいかに情報コンテンツを利用するかの意識が「TikTok」や「Instagramストーリーズ」などの短尺動画の流行につながったのではないでしょうか。

デジタルネイティブに当たるZ世代は、複数の作業を同時並行することで時間をより細分化しており、自分の好きな時間にアーカイブ配信やオンデマンド配信、短尺動画コンテンツを視聴して情報を取得することで「時間のコントロール」を行っているのかもしれません。

また、コンテンツや情報に対して「よりリアリティを求める」という性質からライブ配信のような双方向コミュニケーション可能な時間に価値を感じて「自分にとって価値の高い情報へ時間を使う」という特徴が挙げられるのではないでしょうか。

 

図表 《クリックして拡大》

 

橿村 芽久未(かしむら めぐみ)
チャットボットを活用した広告・ネットリサーチ事業を展開する株式会社テスティーにて、広報兼ライターを担当。自主調査メディア「TesTee Lab」「それ、わたし調査します」の運営に携わり、10~20代男女を対象に多様なジャンルにて調査を実施。若年層マーケティングに助力するため、データを軸として若者の実態を発信している。

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