『交通革命がぶつかる課題』・『未来が逃げていく危機感』

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年8月号『交通革命、その先:変わる生活、生まれるビジネス』に記載された内容です。)

本特集では、自由にご発言いただこうと匿名での取材を行いました。その中からいくつか紹介します。


1.大手自動車メーカーの方

<1>自動運転の前に、すぐあるチャンス

自動運転の前にサービス化で、ライドシェア、シェアードカーなどMaaSが起こり始めています。例えば、オンデマンドのコミュニティバスがあります。マイクロソフトの本社キャンパスでは、建物の入口にある大きなタッチパネルやスマホで行きたいとこをセットすると、バスが来てくれます。

プロダクトも自動運転の前にアシストが進化しています。高齢者の事故の問題が報じられていますが、田舎でクルマがないと生活できない、手放せない。

バスでいいでしょと言われても、好きに移動できる自由が奪われるのは影響が大きい。ですが、アシストがついた車が一般的になると、高齢でもある程度事故が起きないでしょう。すでにフル装備のアシスト車は、かなりの水準にきています。

<2>環境の違いは自動運転のチャレンジ

アジアと欧米では、交通の環境とクルマの使われ方が全く異なります。古くから欧州では、馬車と人が区別されてインフラができています。今でもその時代の言葉が、例えばドイツの駐車場などでは使われています。アジアでは人も自転車もバイクもクルマも混じっています。日本でも混在していますよね。

米国では、オフィスの隣の駐車場から出るとスグに高速に乗って、そして高速を降りて少し走るとレストランに着いてランチをとる。クルマの使い方が日本とはまるで違います。つまり、欧米の環境での自動運転と日本やアジアでの自動運転では、難度が大きく異なります。

日本では交差点が100mおきにあって、そこに何十人もいてルールを守らない人や飛び出しもある。こうした歩行者をよけるのは高度な要求です。クルマ同士でも右折で目くばせでどっちが行くか駆け引きしたり。これはコンピュータには難しい。

ハードルが低いところでの自動運転は比較的早く実現するでしょうが、できないところでは目途が立たない。日本でも、高速や幹線のトラック輸送などは自動運転で運転手不足を解消することも可能でしょう。過疎地で混んでない地域など特定のところでは、コミュニティバスを自動運転化するなど、実証実験が進むでしょう。

しかし、日本の交通システムは、こうした視点や利便性で考えられていません。一様にとらえるのでなく、どう分けるか考えないと先に進めない。全体的には時間がかかると思います。


2.地域振興の専門家

<1>採算が取れない地方の問題

地方は交通サービスでは自治体も事業者ももうからない。公共交通も赤字で、採算がとれないと廃止になる。バスと鉄道会社は、交通以外で儲ける方向。タクシー事業者も赤字の地域では辞めるか出ていく。にっちもさっちもいかないのが現実です。

コンパクトシティとかで集約するとコストは減るが、観光や農業を考えると、それが何にでも当てはまるわけではない。山の中の集落があるから山が保全される。生活のための最低限のモビリティをどうするかが課題です。

近所で醤油を借りたりとか、互いが信頼でつながるよさが日本にはあるので、今でいうシェアなどと組み合わせて、公共のサービスがあるといいなと思います。ライドシェアは、互助会のようなもので理にかなっています。日本語でいい呼び名を考えて、もっとできるようにすればいいと思います。

<2>各業界、各社よ、つながれ

モビリティは、都市部の大量輸送もあれば、老人や子供が外に出て活動する手段でもある。時速4キロの徒歩をはじめ、自転車、バイク、鉄道、飛行機などなど様々な選択肢から、動きたい手段でという、テクノロジーで交通のミックスをうまくできるマルチモーダルな世界を創れるといい。

いまは各業界、各社がバラバラですが、これがつながって組み立てられるといいなと思います。例えばカード一枚で色々な交通サービスをどれでも使えるとか、業界同士がつながって仕組みと仕掛けを工夫すれば、新しい世界がつくれるでしょう。

そして、いまの政策は一律なところがあって、地域特性に合うようなっていないので、それぞれ異なる地域の事情に沿った政策を考えて欲しいです。すると上手いミックスがつくれるようになると思います。


3.日本のピンチ

本特集のために何人もの方々に取材をし、記名では言い難いことも拾おうと努めました。そこで聞かれた日本のピンチとなりえる問題意識について紹介します。

<1>日本の大手メーカーにおける呪縛

日本の大手クルマメーカーは、いまの思想やプロセスから抜け出ることはできないでしょう。これが一番のネックです。安全性を担保するためにやってきたことから抜けられません。相当慎重に安全性を確かめないと前に進まない。

だから、いまクルマの設計には5-10年前のいわゆる枯れた技術が使われます。しかも製品の開発には5年かかる。つまり、先進技術が使われるには12-15年はかかります。

なので、低速のコミュニティビークルだろうが、時速100、200キロで人が死なないプロダクトと同じプロセスで作る。完成度と価値を上げないと信頼にキズがつく、あんなものと言われたくないというプライドがあり、負け戦はできないという企業文化です。全てに同じ思想でしかできない、失敗できない。だから、日本の大手メーカーは先に行けないのです。

<2>新しいことをやらせないから遅れる

日本は法律問題でライドシェアができない。ドイツでは好評の乗り捨て型のシェアードカーも認められておらず、日本ではもとの駐車場に戻さねばならない。日本は法整備が遅く、ダメという規制が多くて、新しいことをやらせない。これは、世界から見て、遅れる原因です。

例えば、はこだて未来大学は、スマホでタクシーを呼べるとか、前からUberと同じことやってました。やればできるのですが、国をよくしようじゃなくて、違う論理で法規制が決まっているのがもったいないです。

<3>政治の問題

日本ではUberなどライドシェアは認められていませんが、これは他国で起こっているタクシー業界との対立といった単純なものではありません。

ある中央官庁の方が、これは代議士と国交省と業界による岩盤規制だ、と言ってました。地方の名士の親族からは国や地方の議員が出てます。名士には、タクシー会社もやっている人は多いですし、そうでなくてもタクシーは選挙の票になる。選挙の票が優先されるから残念なことになる。これは、やっかいな政治の問題です。

国がステークホルダーの排除もやってしまう中国やシンガポールとは真逆で、理屈でやるべしとなっても、日本ではなかなか動かないでしょう。

<4>中国に後れを取る

自動運転やEVなど新しい分野は、実際にやってみると先に分かるから、先に対策を考えることができます。例えば、中国の深圳では、タクシーやバスの全面EV化を進めています。すると、EVの充電中にはタクシーの運転者は仕事できないから文句が出る。そこで市がその時間分の給料を補填するようになった。これは分かりやすい例ですが、課題を先に知ることはとても大切です。

また、深圳では1万6千台のEVバスを地元メーカーBYDから調達しています。そのBYDは、いまやEVバスで世界トップシェアです。価格も走行性能も他社より優れており、ロンドンやニューヨークなどでも採用され、日本にも入っています。先に需要を創って製品を競争力あるものにして、海外市場に展開するから勝てるのです。

自動運転でも中国では、試験区に加え自動運転用の都市計画が進んでおり、交通システムとセットで開発されます。時間のかかる市場ですが、日本企業は悠長に構えていては、中国に先に行かれてしまうでしょう。

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