インバウンド消費のカギを握るもの

訪日中国人の大幅増
近年、訪日中国人の数が大幅に増加しています。

日本政府観光局(JNTO)発表のデータによると(表1)、中国大陸からの訪日外客数は2014年についに200万人を突破しました(2,409,200人)。2008年に100万人を突破して以降これまで年間150万人を超えることは無かったことを考えると、2014年はまさに大幅増といえる伸びがみられた1年になりました。


たくさん買う訪日中国人
訪日中国人数の急増もそうですが、更に注目すべきはその旺盛な購買意欲です。他国からの訪日客と比較してみると、中国人のショッピングにかける予算の大きさがわかります。


表2をみると、中国大陸の人々の購入単価は、他のエリアの倍、カテゴリーによっては一桁違っているものもあります。「カメラ・ビデオカメラ・時計」、「電気製品」等は以前から人気の高いお土産でしたが、近年特に目立つようになったのは「化粧品・香水」、「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」といった生活用品です。


お買い物天国日本:家電から生活用品へ
訪日中国人に人気のお土産が家電から生活用品へシフトしているのには様々な理由があります。かつて大人気だった日本の電化製品ですが現在は中国でも簡単に購入することができるようになりました。


商品によっては世界に先駆けて中国市場で発売されるモノもあり、電化製品はもはや日本でしか買えないものではなくなっています。逆に、日本で売られている化粧品、医薬品、健康グッズ、トイレタリーといったカテゴリーの商品は中国では殆ど売られていません。


一部の人気商品はECサイトで売られていますが、非常に高額で、売り切れていることが多いのです。売り切れの心配がなく、高い品質で評判の日本の化粧品、医薬品、健康グッズ、トイレタリーを格安で購入することができる日本は、中国人にとってはまさに天国のような場所なのです。


実際、「日本で買うべき神薬12選」等のタイトルで、中国のネット上では日本で大人気の医薬品、化粧品、健康グッズを紹介しているサイトが多数あり、中国の人々はこうしたサイトで情報を収集して日本で実際に買い物をしています。これらの商品は中国のECサイトでも購入することは可能ですが、価格が高いうえに、偽物の心配等もあり、安心な日本での購入が好まれるようです。


実際、日本に来て何を買っているか
例えば、中国最大の長期連休の一つである国慶節(10月1日から7日ごろまで)に実際に、日本へ旅行した中国の人々が日本で何を購入したかを、中国のソーシャルメディア新浪微博(シナウェイボー)に書き込まれた内容をもとに調査してみると、以下のようになります。


第一位は「医薬品」で以下「化粧品」、「紙おむつ」、「目薬」と続いています。中国人旅行者が日本へ旅行して購入するモノの中で今最も人気があるのはこの医薬品であることが、ソーシャルメディア上のデータからもわかります。


特に人気が高いのは、風邪薬、胃薬、便秘薬等で、その他独立してランクインしている目薬、冷却ジェルシート(熱さまシート、冷えピタ等、書き込みが目立ったため、医薬品から独立させた)、それ以外にも整髪料、染髪料、シャンプー等、いわゆるドラッグストアで購入することができる商品が人気になっています。


化粧品、紙おむつ、粉ミルク等も皆ドラッグストアで購入できるので、ランクインしているものはほとんどがドラッグストア調達モノと言えます。また、最近訪日中国人の間で大人気の製品として「炊飯器」、「魔法瓶」、「文房具」があげられます。


炊飯器や魔法瓶は中国では品質の良いものが少なく、また品質が良いものがあっても非常に高額のため、日本で売られている品質もよく値段も手頃な炊飯器や魔法瓶は中国人旅行者のお土産の定番になっています。同じ理由で品質がよく、バラエティーに富み、値段も安い日本の文房具は若い中国人旅行者を中心に高い人気を誇っています。


中国インバウンドで重要な、“どこ”で購入するかという問題と取り組み事例
こうしてみると、訪日中国人に人気のある製品にはある特徴があると言えます。それは、いずれもドラッグストア、家電量販店、雑貨店(100円ショップや、東急ハンズ、LOFTのような生活雑貨ショップ)で購入できるという点です。


日本で売られている商品は総じて品質は良いですが、中国人旅行者は、限られた時間の中で大量に買い物をします。一つのお店で効率よく買い物をすることを非常に重視するので、結果としてこうした店舗で売られている商品の人気が高まることになります。


企業側もこうした訪日中国人の特性に対応する形で様々な施策を実施しています。例えばドラッグストア大手のマツモトキヨシは、中国には店舗を出店していませんが、中国のインターネット上で自社の情報や販促情報、クーポン情報等を発信しています。


当然ながら言語は全て中国語になっています。このように日本への旅行を予定している中国人旅行者に対して日本へ来る前にマツモトキヨシや販売されている商品についての情報を効率よく収集してもらい、結果として日本を訪れた際に限られた時間の中でマツモトキヨシの店舗に来てもらうことを目指しています。


また、中国人旅行者が多い東京の銀座や新宿に近い店舗等で営業時間を24時間としているのも、少しでも買い物の時間を増やしたいという切実な願いを抱えている中国人旅行者のニーズに対応する取り組みと言えるかもしれません。


中国インバウンド消費の今後:「一時の流行」から「狙って売る」へ
盛り上がりをみせる中国インバウンド消費の流行は今後もしばらくは続くと予想されますが、一方では課題もあります。現在の中国インバウンド消費はほぼ自然発生的なもので(ビザ取得条件の緩和や円安等の外部要因もありますが)、企業がある意志を持って実施した施策の効果によって生まれたものではありません。


巨大なポテンシャルを持つ中国インバウンド消費市場は今後競争が激しくなることも予想されるため、これまでのように単にインバウンドの流行に乗るというだけでなく、日本を訪れる中国人旅行者の動向や実態、購買行動、ニーズ等をしっかりと把握したうえで、必要な戦略の構築、施策、対策の実施を行う企業だけが継続的に中国人旅行者をつかまえておける時代がまもなくやってくるのではないかと思います。


実際、中国に進出している日本企業の間でもマーケティング分野におけるビッグデータ分析のニーズは拡大しつつあります。ソーシャルリスニングという分野に限って言えば、中国で新浪微博(シナウェイボー)をはじめとするソーシャルメディアが爆発的に普及した2011年以降、企業が消費者やユーザーの自社や自社製品、自社の活動に対する評判、感想、ニーズ、不満等を把握するためにソーシャルメディア上の膨大な書き込みを収集し、分析することが普通に行われるようになりました。


中国インバウンド消費の分野においてもこうしたソーシャルメディア上のデータ収集と分析を活用したコミュニケーションのデザインは有効であり、従来のような「一時の流行」ではなく、「狙って売る」ことを考えるなら、データ分析は必要不可欠なものになると考えられます。


一方で、中国のソーシャルメディアデータ分析には課題もあります。中国ではソーシャルメディアやウェブサービスの流行や凋落のスピードが非常に速いため、データを分析する側からすると、どのソーシャルメディアを分析対象とするのかを的確に選択するのが非常に難しいのです。


中国では市場で4、5番手程度のサービスであってもユーザー数が数千万人ということもあるため、分析者側は、現在流行しているソーシャルメディアやウェブサービスの特徴や動向等をリアルタイムに把握し、分析するデータソースを見極める必要があります。


中国ソーシャルメディアの活用方法
また、中国のソーシャルメディアは企業や業者が販促活動のツールとして活用することに積極的なため、ネット上に流れるソーシャルメディアのデータの大部分が販促やキャンペーン情報で占められリアルな生活者の声が埋もれてしまうこともよくあります。


こうした情報を取り除きつつ、リアルな生活者の声を見つけ出し、有効な分析を実現することは、中国では非常に大きな労力を要する作業だと言えます。


とはいえ、こうした課題や問題はありつつも、中国のソーシャルメディア分析は中国の生活者を理解する上で非常に有効な手段であり、前提や背景をしっかりと理解して分析を行うならば、インバウンド消費に取り組もうとしている企業にとっては強力な武器になることは間違いないでしょう。




※本記事に掲載する社名または製品名は、各社の商標または登録商標です。



宮田  将士  (みやた  まさし)
株式会社ホットリンク  中国マーケティングビジネス推進リーダー
普千(上海)商務諮訊有限公司  社長

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