偏愛のすすめ

買い方が変化した
ここ10年ほどのEコマースサイトの変化は著しいことはわざわざ言及する必要もないほど、めざましく変わり、インターネットを開けば、24時間365日、世界中から簡単に買い物ができる時代になった。

さらに、都内であれば朝頼めば午後には荷物が届くということもあまり珍しくなく、少し狂気すら感じるスピード感である。お客様はWEBを通して世界中の商品の中から、価格、デザイン、品質などを見比べ、自分の希望にあった商品を賢く購入している。一方で、販売手段ではなく、販売手法が大きく変化しているか、進化しているかというと、10年前と大きな違いはないように感じる。

 

もちろん、Amazonなどで見かけるレコメンド機能やこれからますます増えていくだろうAIを組み込んだサービスなど、一部パーソナルになってきていると感じる部分はあるが、買い方ほどの大きな変化はまだでてきていないという印象がある。リアル店舗以外の購入方法が定着し、決まっている必需品など感情に触れる必要のないものは、amazonなどでクリックすることでストレスフリーに、気軽に購入できるようになった。


より、パーソナルな幸せ感を
そこでリアルショップで買い物をする時に求められるのは、個人的な心地よさ、幸せ感を感じさせてくれるかどうか、が今後の鍵となっていくように感じている。今回は、青山のマンションの一室にサロンのような予約制のショップ「HEIGHTS(ハイツ)」を展開する山藤陽子氏のこだわりと想いをご紹介しながら、今後求められる幸せ感について考えたい。山藤氏は自らのショップを“偏愛ショップ”と語る。

 

そんな彼女が、美容の世界へ飛び込んだのは40歳を超えてから。オーガニックの1本の精油との出会いが、彼女の人生を大きく変えたのである。平日は大手商社で派遣社員として働き、休日は英国発の自然派化粧品ブランドでアルバイトスタッフとして働き始め、その後、同ブランドが日本での展開を拡大するにあたり、正社員にならないかと誘われたそうだ。好きなものに触れていきたいという強い思いから、転職し今に至る。そこでの仕事を通して学んだのは、伝えないと=伝わらないと、売れないということだそうである。逆を言えば、きちんと伝えれば売れるということ。


自分が心地よいと感じるものだけにこだわる
通常、化粧品ブランドでは商品のライン使いを勧めるし、化粧品のセレクトショップでもラインナップ全てを展開していることがほとんどである。しかし、HEIGHTSでは商品の全ラインナップを取り扱っているブランドは少ない。その理由は、山藤氏自身が展開する全ての商品を自身で使用し、自信を持ってすすめられるものしか扱っていないから。ブランドのコンセプトや考え方は好きでも、全商品やラインナップが自分に合うとは限らない。彼女の好み、趣向で、藤さんが気持ちいいと思う感覚を一番大事にし、彼女にしかお勧めできないセレクトをすることで、好みの方向性、お客様に刺さる精度をあげている。さらに幅を狭め、「私、偏ってますけど、よかったらどうぞ」とセレクトを振り切ってからお客様が増えたそうである。


気持ちいいことフェチ
山藤氏は自身を気持ちいいことフェチのライフスタイルコーディネーターと語る。化粧品に限らず、香り、タオルや衣服など肌に触れるもの、食品、音楽など彼女が気持ちいいと感じるフィルターを通すことで、全てが繋がりやすくなり、お客様の共感を得ているのを感じる。化粧品や食品は肌に触れる、体内に入るなどの観点から、どうしても輸入に関してハードルが高くなり、彼女のショップで展開しているものは既に日本国内のいずれかのショップで展開しているものに限られる。だから、どこかのショップで一度は目に入っている可能性は少なくないが、それでもお客様にとっては新鮮にうつっているように感じる瞬間があるという。

 

それは、彼女のフィルターを通しているから。ラインナップで取り扱っているショップはあっても、その中から自分の感覚と合う商品が全ラインとは限らないし、詳しくない人間にとってはどれを選んでいいのかわからない。そんな時に、彼女の気持ちいいと感じる感覚に、共感、共鳴するお客様は他の製品にも響くものがあるのだろう。

 

様々な趣味趣向を持つ人がいる中で、彼女のフィルターに自分がぴったりくるとは限らない。でも、それでいいのだと彼女は語る。それぞれの偏愛フィルターを通したお店が世の中に増えていけば、リアルショップでしか味わえない買い物をする楽しさを感じるお客様は増えるのではないだろうか。


リアルショップだからできること
HEIGHTSにあって、オンラインにないもの。それは全ての商品を試すことが可能だということ。ボディ用のアイテムも展開しているので、お風呂に入っていただいて試していただけることも可能となっているというのは一番驚いた点である。でも、確かに家で化粧を落とすのと外で落とす感覚の違いや、風呂上がりの肌に馴染むかどうかはもちろんだが、その時に感じる質感や心地よさ、リラックスした感じの時に心地よく、幸せ感を感じるものと、外にいる緊張感や張り詰めた空気感の中で心地よいと感じるものは違うこともあると感じる。


買い物も体験、エクスペリエンス
買い物も体験、エクスペリエンスだと山藤氏は考える。何かと忙しい毎日の中で、限られた大切なな時間だからこそ、できるだけ失敗したくないし、がっかりしたくない。販売員=媒介する人、によって、買い物する喜びは100にもゼロにも、マイナスにもなりうる。人と場所選びがとても大事になってくる。特徴をだし、偏って、はっきりしている方が、お客様もみつけやすい。マスには受けないかもしれないが、そんな自分の幸せを追い求める時代になってきていると感じる。ジャンルにもよるが、マルチである必要はあまりなく、どんどん偏った方がいい時代に突入していて、彼女のような偏愛至上主義が求められる時代だと感じる。

 

偏ることは時に怖いが、山藤氏のように、本当に大好きなものだけ、幸せを感じるものだけを集める潔さが求められるのではないだろうか。

HEIGHTS : http://www.heights-heights.com/

 

 

吉田  けえな  (よしだ  けえな)
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター。大学在学中からアタッシュ・ド・プレスでのアシスタントを経て、PRエージェントで海外ブランドPRを担当。その後、コンサルティング会社でマーケティングを担当し、現在は、百貨店のコーディネーター業務なども行う。年間、数百を超えるショップへ足を運び、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事にしたマーケティングを中心に活動。

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