韓国のヒーリングアート 豊かな社会の実現、「創造」から「共感」へ

韓国のヒーリングアート  豊かな社会の実現、「創造」から「共感」へ 写真提供:大田広域市西区文化体育課

2017年5月9日、韓国大統領選が実施された。即日開票され、「共に民主党」の文在寅氏が得票率41.1%を獲得して当選、第19代韓国大統領に就任した。

前大統領の弾劾から新しい大統領の選挙までの半年間で、韓国国民の国・行政の在り方や、豊かな社会生活に対する希望はますます強まっていった。これからは、今の落ち込んだ風潮を跳ね返す、元気な韓国社会を創造したい人々の意識が高くなってくるだろう。


このような状況のなか、韓国のさまざまな分野で登場したのが、「ヒーリングアート(Healing Art)」である。これは、美を創造しようとする意欲的な人々の芸術活動(Art)をきっかけに、『共感』を通じて、体と心を治癒・回復(Healing)していくことを目的としている。人の感性や創造力と、それに対する共感を組み合わせて未来の社会を作っていくというこの取り組みは、韓国各地でいろいろな形で取り組まれてきている。


ヒーリングアートの取り組みで、韓国国内で注目されているのは大田(テジョン)広域市である。韓国のシリコンバレーと言われるこの都市は、韓国の中部地方に位置する5番目の大都市であり、官民の研究所が集中している都市である。大田広域市内にある5区のうちの一つ、西区では昨年に引き続き「ヒーリングアートフェスティバル」を開催している。“文化と芸術を通じて都市と人を癒す”をテーマにしたイベントだが、他の地域のイベントとは違い、区が所有する文化・アートに関するインフラを活用し、人々を惹きつける多様な仕掛けにより、共感の場を創り出していることを特徴としている。


3日間開催される「大田西区ヒーリングアートフェスティバル※1」では多様なプログラムが用意されている。体験型のプログラムでは、木、砂、石などの自然の素材に触れ、その感触から産まれる創造力を共同作業によって形にしていく。例えば、会場で見つけたものをありのまま表現する「写生大会」や、感情を言葉で表現し、共有する「作文コンテスト」などを通じて参加者の五感(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚)を刺激する作業を行っていく。


また、地域の芸術家や企業、公共機関が協力して作成した、西区の未来社会像を表現したオブジェなども話題になっている。


イベント中に行われたヒーリングアートマーケットでは、韓国全国で活動している様々な分野のアーティストたちによる作品を展示し、住民とコミュニケーションをとりながら楽しめるようなアプローチが充実しており、昨年は世界祭協会(IFEA World)総会「ピナクルアワード(Pinnacle Awards)」も受賞した。


ところで、大田西区ヒーリングアートフェスティバルを実現するにあたり、最初の企画段階で相当な苦労があったと担当者はいう。「アートという概念を如何に活用し、社会におけるアートの役割とは何か」を具体的に探ることが重要だったのにも関わらず、「これだ」と実感できるものを見つけることができなかった。そこで住民や専門家など多くの方々からの意見を取り入れ、まとめたのが『共感の可視化』だった。


昨年の第1回目は約22万5千人が参加、経済効果は71億ウォンに上った。今年は約35万人が参加したと発表されている。今後は、韓国を代表するイベントと言われるまで成長させ、豊かな社会の実現例として、ヒーリングアートフェスティバルをブランド化することを目指しているようである。


大田広域市以外にもヒーリングアートに取り組んでいる例はある。韓国南西部の代表都市、光州(クァンジュ)広域市で毎年行われている「光州ビエンナーレ※2」は、アジアで最も歴史ある現代美術の国際展として知られている。「2016光州ビエンナーレ」では“社会との媒介性”というテーマを取り上げ、地域との接点を広げるために様々なプロジェクトを展開した。成功プログラムとして注目を浴びたのは、「私も!アーティスト:ヒーリングアート」である。体が不自由な方や、貧困などの社会的弱者、移民家庭や、学校に通えない未成年者などを対象にヒーリングアートを展開し、現代アートを通じて心を動かす仕掛けが施された。


独り暮らしの老人に毎週花やお菓子を差し入れてスナップショットを撮影した作品や、願い事を詰め込んだ紙飛行機、記憶の片隅に残っている思い出の壁画作成を通じて追体験できる空間、現代人の疲れを音楽で癒しながら一緒に楽しめるイベントなど、アートとヒーリングが上手く組み合わされて表現されている。光州ビエンナーレは、このプログラムを通じて社会におけるアートの役割について、新たな価値を見出したと評価されている。アートを、行為や、動き、方向といった『実践の創造』であると捉えている。


一方、光州広域市では2012年にアートで社会を治癒するというテーマでヒーリングアートを教育に導入した実例がある。校内暴力の解決を目的とし、「ヒーリングアートスクール」を開設した。この活動はヒーリングアートの概念を超えて、教育共同体という一つの目標に向かって教育特別モデルとして展開された。その後、韓国ではヒーリングアート、アートヒーリングなどのネイミングが付けられた社会活動が増え、人々の参加を引き寄せる機会が増えた。


上記で取り上げた韓国のヒーリングアートは、単にアートを使った地域経済活性化の施策ではない。明るい社会や人々の生活を豊かに創造するために、アートによる感動を媒介に、人の心を動かし、ある場所で共感を得る。その共感がまた新たな創造力を産み出して、未来の社会に向かって人々が活躍する社会を創っていく取り組みである。そこでは、自治体はただの仕掛け屋であり、住民一人一人が自ら興すイノベーティブな行為こそが重要な役割を担うと考えられる。


今後、韓国の社会では、ヒーリングアートの手法や概念がさまざまな分野で活用されていくようである。ヒーリングアートグッズを開発した大学生のスタートアップが韓国の労働部長官賞を受賞したり、ヒーリングアート旅行、ヒーリングアート学校などのプログラムを良く見かけるようになっている。研究の現場でもヒーリングアートの追求など、ヒーリングアートそのものをコンテンツ化し、学術、産業ともに成長の可能性を探っているように見受けられる。

掲載写真提供:大田広域市西区文化体育課

※1「2017大田西区ヒーリングアートフェスティバル」
 は、5月26日~28日3日間、大田市西区のポラメ公 園とセンモリ公園で開催。http://www.seogu.go.kr/
※2 www.gwangjubiennale.org

黄  仙惠  (ふぁん  そんへ)
SR&Produce株式会社 CEO/Producer
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科メディアデザイン研究所 研究員

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