日本メディアの限界とコンテンツの可能性

2016年7月、Googleの位置情報とARを組み合わせた画期的なゲーム「Pokemon GO」が世界的大ヒットとなり、携帯ゲームの課金モデルの新たな可能性を示しました。

昨年ではドラえもんが中国で興行収入が105億円を越え、これは日本の歴代興行収入の8位に入る結果となりました。リオ五輪では安倍総理大臣が「マリオ」の姿で会場を沸かせ、「日本のキャラクターの力を借り、日本のソフトパワーを示したかった。反応がどうか不安だったが大歓声で迎えてくれた」と述べました。(日本経済新聞) (ソフトパワーとは「文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力のことである。」)(ソフト・パワー提唱者 ジョセフ・S・ナイ著書「ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力より 発行:日本経済新聞社)


ソフトパワーには様々な形態がありますが、それらはメディアを通じてコンテンツとして発信されるため、「メディア」と「コンテンツ」の特性を探ることで日本のソフトパワーについて考えてみたいと思います。


政府主体のソフトパワーの海外展開
例年、総務省では「放送コンテンツ海外展開助成事業」を予算化していますが、特にキー局には「コンテンツを通じた商社や旅行業者と連携したマーケティング・プロモーション」を、地方局には「地域創生につながる情報発信」を委託してきました。2016年より経済産業省もまたコンテンツの制作費が予算計上できる事業をスタートさせ、インバウンド及び貿易による地域経済活性、被災地復興、オリンピックに向けたイメージ向上にコンテンツの活用を試みています。しかしながら、これら事業は、助成金がなくなった後の継続が難しく、ほとんど自走化できていないことが課題となっています。
(2016年度採択事業者http://www.soumu.go.jp/main_content/000430254.pdf)


テレビメディアの衰退
米国大手リサーチ会社eMarketerによれば、2017年、米国におけるインターネット広告予算がテレビ広告予算を抜くという予測をしています。この流れはアジア全体にも広がっており、日本でもLINE株式会社元代表取締役の森川氏がC Channelを立ち上げ、既に国内外で2億ビューにまで成長しました。(2016年8月)


「オンデマンドのコンテンツ視聴」「ネットインフラの整備」「視聴デバイスの多様化」に伴い、オーディエンスのコンテンツ消費スタイルは目まぐるしくシフトしています。そのため、広告市場にもいつ急激な変化が起きてもおかしくない状況にさらされていますが、体質的に大手メディアや既得権のある広告代理店は既存のビジネスモデルを脅かす可能性のある事業への取り組みが遅く、緩やかに衰退する道を選んでいます。一方、アジアでは新メディア、デバイス、プラットフォームの回転が早く、市場が様々なテストを行いながら各共同体(マレーシアなど、国によって、内部でもわかれるので共同体と書きます)に合ったコンテンツ、メディアモデルを模索しています。日本はこのままでは遅れをとるばかりではなく、大きな痛みを伴う選択を迫られることが予見されます。「通信と放送の融合」という言葉が生まれて久しいですが、依然として放送コンテンツは自由にネットで見ることができず多くは海賊版として消費されています。


TVerが大きなドライバーになりうるか
2015年10月、日本ではTVerがスタートしました。 
日本のテレビコンテンツを1つのアプリで視聴できるというアプリですが、このコンセプトにより日本のメディアは大きな岐路に立ちます。(コンセプトはともかく、残念ながらアプリ自体は視聴のためには別の放送局アプリにリダイレクトされるなど課題は多い現状もあります。)


キー局が全て参加している本アプリでは、ユーザーはキー局コンテンツを放送直後に視聴することができます。つまり、日本国内であればアプリを通じてオンラインでコンテンツにアクセスできる事になりますが、各都道府県にある地方系列局は独自の編成を行っているため、必ずしもキー局コンテンツと同じタイミングで番組を放送していません。ところが系列局が独自編成しているコンテンツがオンラインで視聴可能になってしまうと、この放送枠の広告価値が下がります。地方局はこれまでキー局からコンテンツを仕入れる代わりに全国規模のスポンサー広告を放送することで収益を確保していました。また、ローカルのニュースやご当地番組の制作は地元の制作会社が行うため、自社での制作能力が高くありません。つまり、コンテンツホルダーではなく地方メディアとしての存在意義を問われたとき、果たして地方系列各局は各県に必要なのでしょうか。エリアをカバーする大きな地方局が1局あれば、ローカル情報や即時性の求められるニュース以外はネットで視聴すれば良いかもしれません。好きな時間に好きなだけ観られるのですから。


キー局の意義
キー局も安泰ではありません。現在でも緊急速報やLIVEスポーツなどの需要はありますが、コンテンツのオンデマンド消費が主流になり、Netflixなどの海外プラットフォームも日本に進出する中、テレビのメディア企業としての役割は以前に比べ確実に衰えています。しかしプラットフォームとしての限界はあるものの、キー局の製作する番組クオリティはアジアで比べてもとても高く、また経済成長に伴う「コンテンツのトレンド読み」などの知見を持つため、コンテンツ企業として海外展開を含めた製作を行うことが一つの糸口となるはずです。しかしここで著作権・肖像権の壁があります。


著作権・肖像権の壁
著作権の壁としては、「1.全製作関係者の同意を待たなければ海外販売ができないこと 」「2.海外展開の遅れによる海賊版の横行が習慣化していること」、が大きな問題となっています。肖像権の壁としては、「3.著名人が出演する多くのテレビ番組は海外販売などの権利が契約に含まれていないこと」から、有名人を多く使えば使うほど事務所との権利関係が複雑になるという課題があります。
前者は製作委員会方式自体の見直しが、後者は一般社団法人日本音楽事業者協会(音事協)などの業界団体のサポートにより、事務所やレーベルがコンテンツを海外展開プロモーションとして捉えるなどの対策が必要となります。


日本コンテンツの可能性
このようにテレビには海外展開に大きな課題があり、実写部門のコンテンツ(ドラマ・バラエティ)とそれに紐づくファッション・音楽業界はアジアでは韓国に大きな遅れをとっておりますが、アニメ・キャラクターコンテンツでは日本は不動の位置にいます。アニメ・キャラクターコンテンツはファッション・音楽業界への連動事業にはなりづらいものの、「ライセンスビジネス」として大きな可能性を秘めています。


例えば、ディズニーがMarvelやPixer、Lucas Filmを買収し、世界規模の映画配給を行うことで、コンテンツとキャラクターの認知を得て、グッズやキャラクターライセンス、ゲームなどのマーチャンダイズビジネスを通じて莫大な収益を上げています。(スター・ウォーズ7の北米映画興行収入が9.3億ドルに対し、商品売上予測は50億ドル)


日本には「ポケモン」「セーラームーン」「マリオ」「鉄腕アトム」「ワンピース」「ドラえもん」「ジブリシリーズ」・・・数え切れないほどの世界的キャラクターがいるので、積極的に海外投資を受け入れ、世界規模のコンテンツ製作・配給に基づくライセンスビジネスの土壌があります。また日本は類い稀なストーリー大国です。シェイクスピアの誕生は16世紀ですが、日本では「源氏物語」が11世紀には文学の基礎を作り上げており世界的評価を得ています。


日本の田舎に残る民族的な伝説は「寓話」としても面白く、多くは先進国が課題とする「自然との共生」について示唆を与えてくれます。
キャラクター・ストーリー大国である日本は自国の強みを生かしたコンテンツ製作・ライセンシングを行うとともに、業界内部の権利関係を整備することでコンテンツ大国として台頭する希望があるのではないでしょうか。

 

新鞍  トシヤ  (にいくら  としや)
株式会社 Journal Entertainment Tribute (J.E.T.)  代表取締役
米国の短大を卒業後、2012年 株式会社J.E.T.設立、テレビ番組の海外ライセンス販売・ドラマの国際共同製作を行う。
「コンテンツから非コンテンツへ」という事業テーマのもと、「ゴールデンタイムドラマの誘致」と「インバウンド戦略」を組み合わせたコンテンツ事業を展開。
2014年にJ.E.T.が九州に誘致したタイゴールデンタイムドラマ「きもの秘伝」(正式名称:KolKimono)では福岡・佐賀・熊本

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