マーケティングホライズン2022年9号
事業活動・マーケティングにとって大切なことは、ステークホルダーを知ることにあります。そこで、まずは生活者の環境行動と意識の実態を紹介していこうと思います。
結論から言うと、地球環境を守ること、CO2削減が必要なことがいわば常識化し、その要請が高まっている状況下においても、生活者の環境意識や行動は様々な調査結果にもあるように、あまり変わっていませんでした。
その一方、社会の目標として、カーボンニュートラル社会の実現が掲げられたこともあり、企業への期待がより高まる傾向が見受けられました。また、環境意識が高いとされる若い世代からは、実際に「環境問題を何とかしなければ」という想いも聞くことができています。
生活者と手を携えながら環境活動を進める上での考えるヒントになれば幸いです。
■ Interviewer:中塚 千恵 本誌編集委員
質問項目 Q1.学校等で学んだ環境教育の中で印象に残っていることは何か(10〜20代のみ) Q2.CO2削減をしない場合の未来はどうなると思うか Q3.CO2削減にむけて生活の中で実施していることは何か Q4.CO2削減に取り組んでいる人・取り組んでいない人をどう思うか Q5.CO2削減における企業の役割についてどう思うか Q6.カーボンニュートラルと私の生活について 2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。 「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。 (3)カーボンニュートラル社会の実現のために自分はどうしたいか |
20代
環境について勉強したけど、CO2削減は生活の中の目標になっていない
プロフィール
1.年齢:20代
2.性別:男性
3.職業:大学生
4.家族:父・母・兄の4人(同居)
●カーボンニュートラル社会と私の生活(Q6)
カーボンニュートラルはとても難しいのでピンとこない。特に考えたこともないし、自分のこととは思えない。言葉の意味まで理解できないので、誰の役割かもわからない。自分とは直接関係ないという認識しかない。
CO2削減をしないと地球環境がやばくなるとずっと聞かされてきたので事実だと思うが、何度も同じような環境破壊映像を見せられることも多く、慣れてしまったのか、自分の行動にはつながらない。
●学校で学んだことは身についていない(Q1)
学校の授業で、環境について勉強したが、CO2削減のための行動には必ずしもつながっていない。一方、家庭科で覚えた三大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)をバランスよく食べることは、親から家庭科教育の成果と言われるくらい実践できている。環境行動が身につかないのは、家庭科とは違い、知識をもとに自分で考えることや実践できる場面が少ないからか。田植え体験も環境教育の一環だったと思うが、CO2削減などの環境行動に特につながっていない。
Interview
中平 充 氏
株式会社博報堂
第二ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長
マーケティングプラニングディレクター
2004年総合広告会社に入社し、営業職や統合プラニング職を経て、2013年博報堂入社。トイレタリー、自動車、情報サービス、食品など様々な企業のブランド戦略、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略を担当。広告領域にとどまらず、パーパス開発、商品・事業開発、カスタマージャーニー、UI設計など、生活者と企業・ブランドが関わる幅広い業務にも携わり、企業のマーケティングを支援。昨年度より、「博報堂SDGsプロジェクト」に参画し、脱炭素分科会を設立。生活者の意識や企業の脱炭素アクションを研究・支援中。
───生活者の環境意識や行動の変遷についてお伺いしたいのですが、まずはCO2削減というテーマで教えていただけないでしょうか。
中平 「環境にいいことをしよう」「地球環境を守ろう」という呼びかけや、ごみの分別や節電などの生活上の工夫などは以前からありました。例えば、“リサイクル”という言葉が環境白書に登場したのは昭和55年のようです。その後も、エコ活動や3Rなどのキーワードとともに普及し、2005年から2009年まで日本国政府が主導した「チーム・マイナス6%」で生活者にもクールビズや省エネ家電が一気に広がりました。この活動も実はCO2などの温室効果ガスの削減を訴える活動でした。
多様な環境に関する活動はありましたが、地球温暖化は食い止められておらず、国際社会は数値目標にもっとコミットして推進していこう、という流れになっています。2016年に発効されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という世界的な目標が示されました。日本も2020年には菅総理(当時)の所信表明演説に採用され、翌2021年には日本の削減目標を引き上げるなど、より一層の努力を政府は表明しています。
こうした動きがニュースや新聞などでも報道されていることもあり、「CO2の削減の必要性」や「脱炭素社会」を目指す流れは徐々にですが生活者にも広がりつつあるようです。実際に博報堂が実施した「第二回 生活者の脱炭素意識&アクション調査(2022年3月実施)」を見ると、「脱炭素」の名称認知は90.8%。「カーボンニュートラル」については85.6%と、2021年9月に実施した第一回調査時点の77.7%から8ポイント程度増えています。ただその一方で、低炭素、カーボンオフセット、カーボンリサイクル、ゼロエミッションといったような一歩踏み込んだワードになると、認知度は5割前後、多くて6割程度のスコアにとどまっています(図表1)。
「脱炭素社会の実現を目指すこと」への関心を聞くと、「関心がある」と回答した人は約7割(図表2)、取り組んでいくことについて「必要なことだ」と回答した人は8割以上にものぼっており、漠然とはしているが“すべきことだ”という意識も高いようです(図表3)。