(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年10・11月号合併号『時間FACTFULNESS』に記載された内容です。)

5年ごとに実施されるNHKの「国民生活時間調査」に注目している人は多いだろう。筆者もそのひとりだ。いつも次の発表が待ち遠しい。何しろ地球上のすべての人が等しく手にできる「一日24時間」の実態がつぶさにわかるのだから、こんなに妄想を刺激してくれるデータはない。しかも、今回の調査が実施されたのは2020年10月、まさにコロナ禍による新しい暮らし方や働き方が定着してきた頃に行われたものだ(※注釈参照)。5年前と比較することによりコロナ以前との違いも鮮明になる。本稿ではこの調査結果を見ながらNHK放送文化研究所の渡辺洋子氏へのインタビューを進めていきたい。

 

はじめに、今回の調査がどのような時期に行われたか、本調査の結果を読む際に大きな意味を持つと思われるのでその点について明らかにしておきたい。

渡辺 今回の調査は2020年10月に行われました。昨年を振り返ってみますと、2020年の4月から5月にかけて、1回目の緊急事態宣言が出され、出社は抑制され、百貨店や大規模商業施設も一部営業を休止したり、劇場や映画館も休業、学校も休校になるなど世の中の動きが止まりかけていた状態でした。
 その後、5月に緊急事態宣言が解除され、7月にはGo To トラベル事業も始まりました。さらに10月には東京でもGo To トラベルやGo To Eatが始まり、経済を戻そうと世の中が少しずつ動き始めようとしている、そのような状況でした。しかし、一方で感染者数は予断を許さない状況にあり、人々の気持ちや実態はまだまだ感染拡大前のようには戻っていない、そんなはざまの時期での調査でした。こうした世の中の状況を踏まえて今回の結果を見ていきたいと思います。

今回、2020年の調査の2大トピックスとしては、「仕事時間の大幅な減少」、そして睡眠や食事といった「必需行動の増加」、つまり人としての当たり前時間の増加があげられる。個々の詳細については順を追って示していくが、まずはこの2つの変化の概要について見てみよう。

 


1995年以来、仕事時間が初めて減少


 

今回の調査における大きな変化の一つが男女ともに有職者の仕事時間が1995年以来最短となり、男性有職者においては初めて8時間を切ったことである(図表1)。

図表1:仕事時間の時系列変化 (平日)

※全員平均時間:その行動をしなかった人も含めた平均時間

渡辺 仕事時間は1995年から2000年にかけて増えました。平成不況のもと、リストラにより一人当たり労働時間が増加、長時間働く人が増えました。その後、2000年代はこの長時間労働の状況が続いていたのですが、今回大きく減少しました。これはこの20年間を見てもきわめて特異的な変化だといえます。
 実は、仕事に関してこれだけの動きが出たことにかなり驚きました。生活時間調査は数字が大きく動くことが少ない調査です。そのような中でこれだけの仕事に関する変化は大きなインパクトでした。仕事時間の減少だけでなく、(後述の)在宅で仕事をする人の割合も増え、ゆるやかに変化していた働き方が、コロナ禍の影響で一気に変わり、数字に表れました。

 


「人としての当たり前」時間が増加



仕事時間が近年にないほど大幅に減少した分は、どこへいったのか。平日を2015年と比較したものが図表2になる。一日の差はわずか数分の違いでも、2020年の年間平日日数246日を乗じてみると仕事を含む拘束行動時間は45時間以上も減っている(株式会社ウエーブプラネットの計算による)。一方増えた時間は必需行動で8時間余、自由行動で約16時間半、その他時間でほぼ一日分が各々増加している。仕事をしていた時間が睡眠や食事といった身体維持のための時間と人間性を育むための時間にそれぞれ充てられたと言える。

図表2:全員平均時間量 (平日)

必需行動…個体の維持向上に必要不可欠な行動(睡眠、食事、身のまわりの用事、療養・静養) 
拘束行動…家庭や社会を維持向上させるための義務性・拘束性の高い行動(仕事関連、学業、家事、通勤・通学、社会参加)
自由行動…人間性を維持向上させるために行う自由裁量性の高い行動(マスメディア接触、レジャー、人との会話・交際、休息)
その他・不明…上記以外
※右表は株式会社ウエーブプラネット作成

 


増加傾向にあった長時間労働者が激減した


 

さて、ひとくちに「仕事時間が減少した」といっても、全就業者の仕事時間がおしなべて減少しているわけではない。

渡辺 平日の有職者における仕事時間量の分布を見ると明確です。2000年以降、長時間労働を担っていた1日に10時間を超えて働く人(「10時間超え」)の大幅な減少、そして平日に働いていない人たち(「0時間」)の増加が今回の変化に繋がっています。「0時間」の人たちは、働く曜日が月〜金とは決まっていないなど調査のあった平日に仕事をしていなかった人です。
 1995年以来ずっと10%強で推移していましたが、今回は16%に増えました。コロナ禍による休業や、実際にお店をたたむまではいかなくても稼働日を減らしたりなど、コロナの影響を受けているのではないかと考えられます(図表3)。

図表3:仕事の時間量分布の時系列変化 (有職者 平日)

 

 


働き盛り男性30・40代の働き方改革



長時間労働は社会でも問題視され2018年には働き方改革関連法も成立し、翌年施行。そうしたコロナ前からの社会環境変化にコロナ禍が重なり、これまでの長時間労働者の暮らしも変わらざるを得なかったようだ(図表4)。

図表4:年層別 仕事の時間量分布 (男性有職者 平日)


渡辺 長時間労働は、30・40代という働き盛りともいえる年代の男性で大きく減っています。コロナによる影響もあると思いますが、働き方改革の影響も大きいと考えます。制度だけでなく、ワークライフバランスや効率的な働き方を重視するような人が増え、人々の意識も若い人を中心に変わってきていると感じています。そうした中、コロナ禍で出勤日を減らしたり、通勤時間を変えたり、そもそも仕事自体が減るなど、図らずも変化の流れをコロナが後押ししたと考えられます。

 


在宅勤務は大都市圏の20・30代が中心


 

長時間労働者の減少以上に、注目したいのは今回のコロナ禍の影響による仕事風景の変化といえば在宅勤務の増加・浸透ではないか。実際に引越をした人や引越を検討した人、あるいは引越未満としてホームオフィス仕様にするためのリフォームや模様替えなどに関心が集まり、実際にそれらの関係市場が活気を帯びるなど現在進行形で浸透している。しかし、全国レベルで俯瞰すると在宅勤務当事者としての動きはかなり限定的(しかし影響は大きい)であることがわかる(図表5)。

図表5:都市規模別 仕事(自宅内)の1日の行為者率(勤め人 平日)


渡辺 これは今回初めて見られた動きです。東京・大阪という大都市圏において、自宅で仕事をしている、つまり調査日に実際に自宅で仕事をしていた人の割合ですが、東京圏・大阪圏で1割を超えました。調査時期の2020年の10月時点でリモートワークが導入されやすかった企業というとやはりIT系だったり、制度が整っている大企業だったりと、傾向として大都市圏型の企業が変化の中心だった結果と考えます。2021年の今はもう少し様相が変わり、地域も年代も広がっているかもしれません。

 


男性の家事時間の増加傾向の強まり


 

睡眠時間を除くと一日の中でも仕事時間の比率は高く、その変化は生活そのものの変化を示唆している。仕事時間の変化が家庭時間に対してどのような影響をもたらしたかを次に見ていきたい。平日における男性の家事時間が今回初めて1時間を超えた。やはり仕事時間の減少を色濃く受けていることがうかがえる(図表6)。

図表6:男女別 家事時間の時系列変化

1995年に調査方式をアフターコードからプリコードに変更した。長期的な変化の方向をみるために両方式の結果を併記したが、数値そのものを直接比較することはできない。


渡辺 これまでも男性の家事時間は徐々に増え続けていましたが、今回は平日も、そして特に土日に大きく増加しています。女性の家事時間は、70・80年代には減り続けていましたが、近年はあまり変化がありませんでした。しかし、今回は増加。男性の家事時間が増え女性との差が縮まるかと思いましたが、そのようにはなりませんでした。

 


男性有職者の仕事と家事の時間バランス


 

男性有職者のうち、10時間を超えて働く長時間労働者の比率が大幅に下がったことは先述の通りであるが、減少した分の仕事時間がどこへ行ったのか、今回の調査結果から推測したい。まずは仕事と家事との関係を見よう(図表7)。

図表7:仕事時間別 家事の行為者率(男性有職者 平日)


渡辺 男性では仕事時間が長いほど家事時間が短い、という現象はこれまでも調査で確かめられています。当たり前の話ですが1日に10時間を超えて仕事をする人は、そもそも家事時間を取りにくく、平日、家事をする人の割合(行為者率)自体も3割を切ります。今後、男性の長時間労働者が減少し、仕事時間が短くなれば、家事時間は延びる可能性が高いと思います。家事をしようという意欲があっても物理的に時間がとれなかった人もいたと思います。今回、コロナ禍で仕事時間が減少したり、在宅で仕事をしたりという具体的な変化により、実際に家事へ時間を振り分けられるようになったと見ています。

 


男女とも家事時間が増加したのは40代と70歳以上


 

男性の家事行為については働き盛りの年代に限らず、幅広い年代で増加している(図表8)。

図表8:男女年層別 家事の行為者率

斜体:サンプル数が100人未満で、誤差が大きいため参考値


渡辺 このグラフは年層別に家事をする人の割合を平日と日曜で示したものです。男性は多くの年代で家事をする人が増えました。女性についてはそもそも家事をしている人が多いので、変化はあまりありません。ちなみに、女性の20代は4割強、30代も1割程度は家事をしていない人がいます。これは未婚・非婚の女性の増加や親との同居が増えた影響だと考えています。
 今回、平日で家事時間が統計的に増えていたのは、男女とも40代と70歳以上でした。男性40代は仕事時間が減った分が家事に充てられたと考えます。70歳以上については、団塊の世代が前期高齢者になり、意識も若く、身体的にも元気な高齢層が増えた影響もあるのかもしれません(図表9)。

図表9:男女年層別 家事時間 (平日)

 


男性30代、家事よりもまず睡眠


 

さて、仕事に充てられていた時間の行方が、制度・意識・コロナにより家事時間に移行したであろうことは前述の通りだが、その内訳を見ると、ことはそんなに単純な話ではないこともわかる。仕事時間と家事時間にはそれなりの関係があるものの、男女を問わず「仕事時間が減ったからその分家事をしよう」とそのままスイッチするわけではない。仕事や家事といった「やらなければならない」という圧が強めのことは、できるだけ抑えたいと思うのが人情だ。

渡辺 男性40代は仕事時間が30分減って、ほぼ同じぐらい家事時間が増えています。一方で、男性30代は、仕事時間が1時間減りましたが、それはそのまま家事時間の増加に繋がりませんでした。では、男性30代の1時間の仕事時間の減少分は何に使われたのか。睡眠時間、そして身のまわりの用事の時間が増えていました。そして、動画を見ることにも多くの時間をあてています。インターネット動画は2020年に加えた項目ですが、平日でも1時間近く動画を視聴していることから、おそらく仕事時間の減少分はここへも流れていると思います(図表10)。

図表10:男性30代・40代 増減のあった主な行動 (平日)

 


未就学児の世話は就学児の約5倍


 

次に女性の家事時間を見てみよう。家事や子育ての時間は女性の就業状況だけでなく、子どもの年齢によっても大きく異なる。当然のことながら子どもが幼いほど手がかかるわけだが、その実態を見ていきたい(図表11・12)。

図表11:男女年層別 子どもの世話の時間 (平日)

図表12:ライフステージ別 家事時間(女性30・40代 平日)

赤矢印:統計的に有意に増加 青矢印:統計的に有意に減少


渡辺 子どもの世話にかける時間自体は、実はこれまでも増え続けていましたが、今回は増加幅が非常に大きくなっています。
 未就学児がいる女性30・40代の子どもの世話の時間を見ると、2020年は7時間11分、2015年と比較すると1時間26分も増えているのだ。男性においても21分増加している。それにしても、子どもの年齢により子どもの世話時間がここまで異なるとは。現在絶望的な忙しさに溺れそうなお母さん方は数年後の一筋の光として見ていただきたい数字だ。

 


女性の「家事+仕事=10時間」は上限に近い


 

女性の30代・40代について就業形態別に2015年と比較すると、フルタイム、パートタイム、専業主婦、そのいずれにおいても(そして男性フルタイムにおいても)仕事時間は減り、家事時間は増えている(図表13)。

図表13:就業形態別 家事・仕事時間(男女30・40代 平日)

[ ]内は、家事と仕事の合計


渡辺 女性の仕事時間と家事時間の合計を見ると、今回は奇しくもどの働き方も10時間強になりました。女性30・40代のフルタイムは1995年以来ずっと10時間を超えている中、むしろ今回は仕事時間が減ったことで、これまでの中では短いほうになったといえます。一方、パートタイムと主婦は、仕事と家事を合わせた時間として9時間台が続いていました。それが今回、家事時間が大きく増えた影響で、フルタイム同様10時間を超えました。これまではフルタイムのワーキングマザーの拘束時間がとくに長い、つまり忙しいとみていましたが、今回は就業状況に関わらず、皆、家事に大変忙しい状況がうかがえます。
 仕事も家事も拘束行動という分類ですが、一日10時間を超える拘束時間は上限に近いのではないかと思っています。今回、とくに主婦の家事時間の増加が大きくなりました。ステイホームの影響で、家事や子どもの世話をする時間がこれまで以上に必要になったことにより、仕事時間を減らさざるを得なかった人たち、または仕事を辞めざるを得なかった人たちがこうした数字の裏に存在していたのではないか、とも考えられます(図表14)。

図表14:就業形態別 家事時間 (女性30・40代 平日)

 


男女差が大きい日曜日の自由時間


 

ここからは自由時間を見ていこう。平日でもっとも自由時間が少ないのは、これまで見てきたとおり女性30代で3時間5分。30代以降は年代とともに自由時間も増加していく。男女差はあるものの、それほど大きくはない。しかし、日曜日では年代に加え、性別による違いが非常に大きいことがわかる。同じ年代でも男女差がこれほど大きいとは(図表15・16)。

図表15:男女年層別 時間配分(平日)

図表16:男女年層別 時間配分(日曜)


渡辺 日曜日について、女性30代を見ると睡眠時間に次いで多くの時間をあてているのは子どもの世話です。もちろん、子どもの世話だけに専念しているわけではなく、何か別のことをしながらという時間も含みますが、いずれにせよ、ずっと子どもが横にいる状態で世話をしながら炊事・掃除・洗濯といった家事やテレビを視聴している、そういう状況がうかがえます。特に今回の調査ではコロナ禍ということも大きく、出かけるとか、習い事とか、誰かに預かってもらうとか、そういうことがしにくかったことがあり、いっそう子どもの世話の時間が長くなったと考えています。

 


早寝傾向の30・40代、夜更かし気味の70代


 

必需行動の中で食事とともに不可欠なのが睡眠。近年、睡眠の質が注目を浴び、スリープテック市場も活気を帯びているが過去と比較するとどのような変化が見られるだろうか(図表17)。

図表17:睡眠時間の時系列変化(国民全体)


渡辺 1970年からの睡眠時間の推移を見ると、平日の睡眠時間は2010年まで減少傾向が続きました。それが2015年に減少が止まり、今回もほぼ変化はありませんでした。睡眠時間が減り続けるというのはあまり他の国ではみられない現象でしたが、現在は止まっている状態です。
 1970年代から睡眠時間が減ってきた背景として、いわゆる農民的生活様式からサラリーマン的な生活が定着し、高度成長期を経て80年代の石油ショックから立ち直り24時間化社会となったことが挙げられます。2005年に初めて睡眠時間の減少が一度止まりましたが、モーレツに働くのではなく、ゆとりある生活へ価値観が移っていく最初の兆しだったといえます。
 今回の調査を年代別に見ると、男性30代、女性40代で睡眠時間が増えていました。逆に、女性60代と男女70歳以上では睡眠時間が減っています。国民全体では変わらなかったように見えても、実は増えた人と減った人がいたわけです(図表18)。

図表18:男女年層別 睡眠時間(平日)

 


睡眠時間とメディアの変化の歴史


 

本特集号の記事からもZ世代の情報やメディア接触状況について述べられているが、情報やメディア環境の変化はその視聴・接触のされ方が生活様式の変化、とりわけ時間の使われ方にも映し出される。

渡辺 夜の自由時間の過ごし方には、メディアなど楽しみを優先するのか、あるいは睡眠といった休息を優先するのかという意識が感じられます。そしてその意識には世代の影響が大きいようです。
 1960年代、テレビの普及をきっかけに学生が夜更かしになり、睡眠時間の減少が始まっています。夜更かしによる睡眠時間の減少は、その後中高年層にも広がります。ところが今度は若い人から夜更かしの傾向が止まっていきました。
 2000年代になるとインターネットの普及とともに、若い人を中心に夜のインターネット利用が増えていきました。2010年には中年層でも夜間にインターネットを楽しむようになります。この頃、当時の20代(2020年の30代)では、夜にテレビを見る時間が減るなど夜更かしにはなりませんでした。一方で当時の40・50代(2020年の50・60代)では、ハードディスクレコーダーも普及も相まって、インターネット利用や録画視聴のために夜更かしになっていました。2020年になると録画視聴は高齢層にも広がり、60代や70歳以上で、テレビや録画視聴によって夜更かしになっています。
 ここには、寝る時間を削っても楽しみを優先する高年層と、睡眠時間を減らしてまで楽しみに時間を使わないそれより若い世代の意識の違いが現れているように思います。30代や40代では2015年も今回も早く寝るような傾向がみられ、健康を重視する意識が広がっていると感じます。
 国民全体でみると、睡眠時間は2010年までは減少、2015年以降は変わらない、ということになりますが、若年層ではもっと早くから睡眠時間の減少は止まり、30代40代ではむしろ睡眠時間が増加している、一方で高齢層は夜更かしの傾向も睡眠時間の減少も続いている、それが2020年の日本人の睡眠時間の実態です。
 テレビの視聴状況について補足します。国民生活時間調査での「テレビ」はリアルタイム視聴に限定しています。今回、家にいる人は増えましたが、以前からの傾向同様、テレビの視聴時間、そしてテレビを見る人自体も今回も減りました。
 特に朝のテレビ視聴が減ったことに注目しています。これまでは主に夜のテレビ視聴が減っていたのですが、朝も減ったのは初めてです。テレビを見るという習慣自体が薄れてしまったようです。このあたりはコロナによる影響もないわけではありませんが、むしろメディア環境の変化による影響が強いといえます。

 


コロナによる生活時間の変化


 

それでは、最後に今回の調査結果におけるコロナによる生活への直接的な影響や、あるいは間接的に作用を及ぼしたものなどを含め、全体を振り返ってみよう。

渡辺 全体を振り返ってみますと、まずは仕事に関する変化が大きなことだと考えています。これまで長時間労働が続いていたのが仕事時間の減少に転じ、在宅勤務などの新しい働き方が、地域や年代が限られるとはいえ、数字としてはっきり確認できました。そして、これらが仕事以外の生活時間へさまざまな影響を及ぼしました。
 次にそうした仕事時間の減少が何に振り分けられ、どのような影響が見られたのか。一つとして、働き盛りの男性でも家事時間が増えていました。国民全体では、仕事や家事も含めて拘束行動が減少し、その分自由行動ではなく必需行動が増えていました。コロナ禍で積極的に旅行や行楽地に出かける状況ではなかった影響もあると思います。また、動画やインターネットにも多くの時間を使うようになっていますが、その分テレビ視聴が減ったこともあります。一方、必需行動では、食事や身のまわりの行動が増えていました。さらに現役層では睡眠時間も増えています。
 このように拘束行動の減少分が自由行動ではなく必需行動へ流れたことは、今の人々の生活を象徴することだと考えています。必需行動の増加には高齢化の影響もありますが、それだけではなく、家族との時間や生活を楽しむという価値観も感じられます。こうした変化の兆しは前回もみられましたが、今回、コロナ禍でさらに後押しされたとみています。これまで見てきたさまざまな生活時間の変化には、世代や価値観、社会環境の変化等の影響が色濃く反映されていることも改めて明らかになったと思います。

 


インタビューを終えて



今回の調査時期はまさにタイムリーなものだった。前回2015年、今回、そして次回2025年を比べることにより、このコロナ禍が私たちの暮らしの何をどのように変えたのか、時間という絶対的な軸で見ていくことができるのだ。5年後、今回の調査価値はよりいっそう際立っていくだろう。

さて、本稿では30・40代の結果にウエイトを置いてお話をうかがったが、男女ともに働き盛りであり、子育てにも忙しい彼ら彼女らの実態をどのようにご覧になっただろうか。この調査ではながら行動も含め、行動ごとの時間を積み上げていくこともできるのだが、それによるともっとも一日の時間が長いのは日曜日の女性30代で28時間33分、前回2015年より57分も増えている。コロナ禍にもっとも直撃された属性だといってもいいだろう。

全国及び全年代に近い年代を対象としている本調査の価値の一つは、ムードや勢いに流されることを冷静に制してくれることだ。コロナ禍の影響により一気に拡大、浸透したリモートワーク・在宅勤務も俯瞰するとまた違った景色になる。「みんな」は実態のない幻なのだ。向かい合っている生活者がどのような暮らしをし、これからどこへ向かうのか。未来を描くその第一歩は目の前にいる生活者理解であり、彼ら彼女らへの共感と洞察からはじまる。ぜひそれぞれの視点と関心でデータを紐解いてみて欲しい。

 

図表19:調査期間について

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〈巻末注釈〉
1.NHK国民生活時間調査2020について

1.1概要
・日本人の生活行動とその変化を時間という尺度でとらえることを目的とした調査
・1960年から5年ごとに実施
・調査結果は、番組編成などの資料として局内で活用
・日本人の生活実態を明らかにする基本データとして、広く各方面で活用されている

1.2調査期間(図表19)
2020年10月1日~11月1日
10月1日から Go To Eat 開始。同時に東京発着および 都民の旅行が対象になるGo Toトラベルも開始された。 第2波が落ち着き、人々の行動が活発になり始めた時期の 調査である。このあと、年末~年始にかけて陽性者が急増 している。

1.3対象者、サンプル数
全国10歳以上の7,200人 住民基本台帳から層化無作 為2段抽出(12 人×150 地点×4 回)有効調査相手数(率)4,247 人(59.0%)
注) 1 曜日でも有効な回答のあった人

1.4調査方法
郵送法によるプリコード方式 (24 時間時刻目盛り日記式)
※国民生活時間調査は、2015 年まで配付回収法で実施してきたが、新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑み、 2020 年は郵送法で実施。配付回収法、郵送法ともに「自 記式調査」であり、また生活時間という実態を把握する調 査のため、今回は、過去と比較した分析をしている。


2.文中の図表について

2.1図表8~10、13、14はNHK放送文化研究所世論調 査部渡辺氏の提供により株式会社ウエーブプラネット作成

2.2それ以外は、公開されているNHK国民生活時間調査のデータから株式会社ウエーブプラネット作成
結果概要:https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20210521_1.pdf
国民生活時間調査サイト:https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/
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(インタビュアー : ツノダ フミコ)

渡辺 洋子(わたなべ ようこ)
NHK放送文化研究所 世論調査部 研究員
番組制作、国際放送局などを経て現職。メディア利用調査、視聴者意向調査などに従事。「国民生活時間調査」は2004年から担当している。共著に『日本人の生活時間・2010』(NHK出版)、『図説 日本のメディア[新版]』(NHK出版)、『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』(日経BP)など。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年9月号『子どもドリブン:未来に挑む企業の芽』に記載された内容です。)

本荘 コロナ禍で更なる少子化が進む中、各国が子育て政策に注力する模様で、時代が変わるキーワードに「子ども」が加わりそうです。遅れている日本でも、ついに男性育休の義務化が決まりました。どう推進してこられたのでしょうか。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年10月号『アートが変える!』に記載された内容です。)

突然、世界中に巻き起こった新型コロナウイルスは、我々の健康を脅かすだけでなく、これまで当たり前のように作り上げてきた社会構造、価値観、人間同士の関係さえ変えようとしている。この混乱した社会状況下の中で、日々モヤモヤした気持ちが続くのはなぜだろうか。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年10月号『アートが変える!』に記載された内容です。)

ビジネスにアート。「アート思考」というのが、最近流行っているらしい。私は今までいわゆる「ビジネス」の世界で働いた経験がないが、「アート」の世界なら渦中で研究し、文章を書き、あるいは創作し、踊ったりもしていたので、今回も何かヒントになるようなことが書けるかもしれない。

全国の20~39歳男女を対象に、新型コロナウイルス流行下における生活の変化と今後の意識について調査を行い、独自の生活価値観クラスター「ポテンシャル・ニーズ・クラスター」(図1、2)により、新型コロナ禍での価値観の違いによる意識や行動の差異を分析しました。

4月7日に緊急事態宣言が出されて以降、我々の生活は大きく変化しました。R&Dでは全国の20~69歳男女を対象に、新型コロナウイルス流行下における生活の変化と、今後の意識について調査しました。第3回となる今回は、一人一人が感じた気持ち・考えの変化や今後への思いをまとめました。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年9月号『DXの虚と実 Do or Die?』に記載された内容です。)

古い業界や老舗企業を含むデジタルトランスフォーメーション(以降DX)に、長きにわたり先駆的に取り組み、いまは江端浩人事務所 代表・エバーパークLLC 代表として企業のDXを支援し、デジタル・アクティビストとしてDXの教育・啓蒙に取り組む江端浩人氏に、お話をうかがいました。

江端氏は、世界で初めてインターネット経由でデジタルカメラの写真データをオンラインプリントできるサービスを展開したDigipri(デジプリ)を1996年に起業、2007年に公開の「コカ・コーラパーク」はユーザー数1300万人に至りオウンドメディアのパイオニアとして注目されました。現在は、株式会社スポーツニッポン新聞社のCDO(チーフデジタルオフィサー)兼特任執行役員やiU情報経営イノベーション専門職大学の教授としてもDXの実践や人材育成に携わっています。

 

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年8月号『DX : 先行する生活者、日本企業は追いつけるのか』に記載された内容です。)

読者の方はいま、どこでこの冊子を読んでいらっしゃるだろうか。会社のデスクで少し空いた時間に情報収集する。ついこの間までは、そんな方が多かったかも知れない。しかし新型コロナの流行で、私たちのワークスタイルは大きく変わった。オフィスに行くこと自体が、当り前のことではなくなってしまった。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年7月号『根力と軸行力』に記載された内容です。)

専修大学での担当科目の一つに「技術経営戦略入門」がある。経営学部の講義であることから、細かい技術を追いかけるのではなく、技術動向を俯瞰的に理解したうえで、新しい技術の社会実装、普及させる為の戦略を考える講義設計となっている。

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年7月号『根力と軸行力』に記載された内容です。)

「記者」って言いたくない!

ある講演会で、小説家・塩野七生氏の言葉「インフラストラクチャーくらい、それを成した民族の資質を表すものはない」を紹介された時、とても感動したことを覚えている。

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