ゆとりを手に入れる、愛ある活動

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2022年1月号『わたし的マーケティング論』に記載された内容です。)


私とマーケティング


 

2019年秋、『マーケティングホライズン』の編集委員にお声がけをいただいた。プロフィールにある通り、 私はIT企業を退職後、第一子出産と共に一般社団法人を設立した。そして2018年には第二子を出産し、無事(?)待機児童となった。2019年秋というのは、ちょうど自宅での育児&仕事に四苦八苦していたころだったが、家族が増え、働き方が変わったたことで、消費行動が大きく変わったことを実感する面白い時期でもあった。

例えば、スーパーからネットスーパーでの買い物へ。そして普通米から無洗米へと、便利で時短なサービスや商品を意識して選ぶようになっていた。また、消費者に寄り添った丁寧なマーケティングの上でこそ、消費者が自然に手に取るデザインが生み出されるとも感じていた。『マーケティングホライズン』の編集委員に就任した2019年秋は、これまでの人生で最もマーケティングにアンテナが張っていた、そんな時期だった。

 


マーケティングは愛


 

以前、「マーケティングとは何か?」を友人と議論したことがある。その時、真顔で「マーケティングは愛だ」と回答した友人がいた。思いもよらないこの回答に驚く反面、妙に納得する自分もいた。マーケティングを難しく考えず、シンプルに捉えれば良いのだと気付かされた。

「マーケティングは愛」、つまりマーケティングは、特定の誰かだけのものではなく「みんなに関係のあること」であり、「人を幸せにする」行為であると、そう受け取った。

 


人を幸せにする



日常の中から紐解いてみると、小さなことから大きなことまで多種多様な「人を幸せにする」サービスや商品に囲まれていることに気が付く。私は現在3児(1・3・5歳)の子育てをしているのだが、子育て関連商品の中にも、本当に「こんなところまで考えて作られているのか!」と感動する商品が数多く存在する。

例えば、私自身が子育てをする上で毎日使っているものは「おしりふき」だ。おしりふきのメインユーザーは誰か?と聞かれれば「赤ちゃん」だが、間接的で大切なユーザーはパパやママなどの保育者である。

私が購入しているのは、アカチャンホンポのオリジナル商品「水99% Super 厚手タイプ」。この「厚手」というところが重要なポイントで、はじめて使った時に「なんて安心感のあるおしりふきなんだ!(便を拭いた時に、手につきづらい)」と感動した。子どもだけでなく、親側の使いやすさに配慮された商品づくりに愛を感じた。それ以降、「おしりふきは必ずアカチャンホンポで買う(ついでにお菓子も買う)」という決まりとなっている。

子どもたちのオムツを毎日変えるというのは、正直煩わしいものだ。この厚手のおしりふきが、ほんのちょっとだが、その煩わしさを軽減してくれている。その「ほんのちょっと」が毎回、毎日、1週間、1ヶ月、1年間と積み重なって、子育てをする上での私のささやかな心の余裕=幸せにつながっていると感じる。

 


本当に人を幸せにするために



そんな私は、1988年生まれのミレニアル世代*1。ゆとり教育*2を受けた世代でもある。そして、物心ついた頃には世間は「失われた10年」と言い、それが20年、30年と延長され、生まれてこの方親世代の言う「いい時代」というものを実感したことがない。

社会人になった時には、上司から「とうとうゆとりが来たか」と小馬鹿にされた経験がある。社会が勝手にレッテルを貼ってきたというのに、悲しい性である。

 


本来の【ゆとり】の意味は、
時間・金銭・空間・体力・気持ちなどの余裕。



ゆとりとは「みんなに関係のあること」であり「人が幸せな状態」のことで、まさにマーケティングが目指す先ではないかと考える。そして、ゆとりは決して人から馬鹿にされるものではあってはならないし、それを蔑ろにする社会は「失われた時代」をさらに延長していくのではないかと思う。特定の誰か個人のためではなく、社会全体を意識したマーケティングを行うことで、愛を感じられる時代を手に入れることができるのではないだろうか。

 


本来の意味でのゆとりを手に入れる、愛ある活動



先に紹介した、高機能のおしりふきという選択肢があることは大変ありがたい。ミレニアル世代の視点からの価値基準になるかも知れないが、毎日の生活の中でささやかな幸せを実感していることは確かではあるが、長い目で見た時に「本当にこのままの生活で、人は幸せになるのか?」「ゆとりある生活が送れるか?」という問いに対しては、疑いが残る。

それは、私たちにゆとりを感じさせてくれている自然環境という空間が、これまでの経済活動によってじわじわと蝕まれ、未来の世代の分をも食い潰しているという事実を突きつけられているからだ。

2025年には消費活動の中心はミレニアル世代になるといわれている。30〜40代という働き盛りで、子育て世代だ。“わたし的”には、マーケティングの力によって本来の「ゆとり」を手に入れる時代がいよいよ目の前に来ていると感じて(念じて)いる。これまで「ちょっとおかしいんじゃない?」と思っていた違和感や疑問を共有し合い、失われた時代を挽回したいと思うのだ。

わたし的マーケティング論。それは、マーケティングが本来の意味でのゆとりを手に入れる、愛ある活動であってほしいという願いだ。私自身、一人でも多くの方とこの思いを共有し、一歩ずつ歩んでいくことができれば幸いだ。

 

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〈注釈〉
*1ミレニアル世代:
1981年以降に生まれ、2000年代の初頭に成人または社会人となった世代のこと。

*2ゆとり教育:
完全学校週5日制の下で、各学校が「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、子どもたちに学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむ。(参照:文部科学省HP)
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蛭子 彩華(えびす あやか)
一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー
1988年群馬県前橋市生まれ。2012年立教大学社会学部を卒業し、IT企業に勤務。
結婚を機に退職し、夫の南米チリ駐在へ帯同。帰国後の2016年、第一子出産と同時にTEKITO DESIGN Labを設立。現在は3児の母として、様々な社会課題に、デザインとビジネスの循環の仕組みでアプローチしている。育児をする中で絵本の持つ力に気づき、デザイン活動から得た経験を基に絵本制作にも励む。

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