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マーケティングとの関わり

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2022年1月号『わたし的マーケティング論』に記載された内容です。)

衆議院選挙が行われた。結果はご存じの通りだが、久しぶりに「政策新人類」という言葉を見つけた。そこから連想し、我々世代は「新人類世代」と呼ばれていたことを想い出した、懐かしい。

1986年12月から51か月続いたバブル景気直前の1985年3月に大学を卒業。友人たちの多くが銀行や損保、生保などの金融機関に就職したが、自分としてはより身近な存在と感じていた新聞社を就職先に選んだ。入社後は広告局に配属された。大学時代は経済学部で計量経済学をかじっていたこともあり、統計や景気予測にはとても興味があった。社会人になってからも可能であれば関わってみたいと思っていたが、業務の中心は新聞広告の営業であった。

若手営業マンとして充実した時を過ごし、一人前に成長するようになると、広告主へのアプローチには営業テクニックや精神力もかなりの程度で重要な要素を占めるが、地道に新聞の媒体価値を調べ、媒体に即した企画案を提案することの必要性を強く感じるようになった。メディアマーケティングの学習を深め、実際のセールス活動に応用することで、データプレゼンテーションや営業トークに自信をつけ、自然に売り上げが増えるという自身で描いた成長モデルは全くを持って理に叶っていたようで、毎日が勉強の日々だった。

希望してマーケティング調査部という営業推進部門へデスクとなり異動、仕事は「日経企業イメージ調査」など各種調査や「日経広告手帖」の編集、「日経広告賞」の事務局業務など多岐にわたった。中でも「日経広告手帖」の編集責任者として、毎月1日に発行する通常号と日経産業新聞や日経流通新聞、日経金融新聞の特集号を年2冊ずつ、在籍した6年間にのべ108冊の編集業務に携わることができた。

12月号は「日経広告賞」の特集号、1月号は「宣伝部長アンケート」とテーマが決まっていたが、それ以外はわずかな部下と一緒に他のマーケティング関連誌より一歩先を目指し、テーマも内容も検討を重ね制作した。毎号、データ分析、連載記事、コラムなどにも目配りし、他の業務も掛け持ちしながら、奮闘努力してそれなりのものを読者にお届けできたと自負している。編集するにあたり、数多くの広告やマーケティングに関係する団体や有識者、学者、広告主、官公庁などに接し、様々なアドバイスを受け、その研究内容に触れ、執筆やアイデアや示唆を頂く機会を得たことは素晴らしい経験となり今も自分の財産となっている。

さて、長々と自分の社会人生活の話をしてきたが、我々を取り巻く環境の変化は恐ろしい。ITの深化やグローバル社会の進展は身の回りに迫り、その多大な影響を受け続けた『時間の進化』は留まるところを知らない。

地球規模の課題である気候変動をカーボンニュートラルの達成で解決できるか、あるいはAIの進歩により高度化された技術や知能がこれからの社会をどのような方向へ導くのかなど、人類として直面する多様な問題に立ち向かうためにマーケティングはいかにあるべきなのだろう。

メディアマーケティングを取り上げるなら、インターネットのさらなる発展やメディア間の連携強化が一段と進むことは当たり前のように予想されるが、企業のコミュニケーション活動や消費者の購買行動をより大局的に捉え、トライアンドエラーを続けながらも『時間の進化』に合わせたメディア活用法の展開を常に念頭に置いて動くべきだと考える。

もちろん、情報やデータのトランスペアレンシー(透明性)の向上、媒体価値やその役割・ポジショニングを広く広告主や広告会社などへ公開し続けることはメディアとしての責務でもある。メディアは事実を伝えることが大切である。ただ、真実を探ることも重要だ。それにはお金も時間も人材も必要かもしれないが、改めてこれからのメディア価値を高めるためにも事実をより深く探求することが有効な手段であることは間違いない。

もう一つ注目するマーケティングのテーマに、仕事の対象として扱ってきたコーポレートブランドがある。これからも研究し続けるつもりだが、企業の武器である無形資産として大変重要な概念だと思う。仕事の上で「日経企業イメージ調査」に長らく関与することができたのだが、それぞれの企業の持つイメージは取り巻く様々なステークホルダー(株主、従業員、消費者等)に対して持たれていて、企業のブランド価値に直結する。毎年8~9月に実査されているこの調査は時系列でその変化を見ることができるという意味がある。企業イメージの変化を時流で見出すことができるのだ。

例えば、2020年度イメージの変化にはコロナ禍の影響が色濃く出ている。前年度の調査に比べると全体平均のスコアが上昇している。これは在宅時間の増加によりメディアへの接触が増えたことや活動の停滞を余儀なくされた企業が少なくなかったにもかかわらず、多くの人が不安を募らせる状況下で、企業動向やその存在は注目されていたことを物語っている。

このように、世の中のトレンドと企業を取り巻く環境はコーポレートブランドに大きな影響を与え続ける。企業のマーケティング活動において、コーポレートブランド価値の維持・向上は他のマーケティング手法の何よりも注目すべきポイントであると考える。

文明開化の頃、現在の「会社」は「社会」と呼ばれていたようだ(坂本龍馬の亀山社中というのもあるあるが)。つまり、「会社」=「社会」と考えれば、売れる仕組みをつくるというマーケティングの考え方そのものが社会に起因し社会の中に存在する。これからの企業とマーケティングの関係を考える上での道標になるのではないか。

 

渡部 数俊(わたべ かずとし)
株式会社創造開発研究所 所長/日本経済新聞社 社友
1985年日本経済新聞社入社。広告局マーケティング調査部長、クロスメディア営業局局次長、株式会社日本経済社執行役員経営企画室長などを経て、2019年日経広告研究所専務理事。日経広告手帖編集担当として計108冊の編集に携わる(1999年3月号~2005年2月号)。

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