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実録「若者とお酒」に関する座談会

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年6月号『アルコール・ダイバーシティ 』に記載された内容です。)

「若者のアルコール離れ」が言われて久しい。けれども、言うまでもなくお酒好きの若者もたくさんいるし、あるいは飲まないけれどお酒は嫌いではないという人もいる。今回は25歳から30歳の男女4人をオンラインで繋ぎ、お酒に関する座談会を開催した。
出席者(仮名)
二郎(飲む・30歳・広告)、礼子(飲む・25歳・不動産)
麻里(飲まない・27歳・IT)、拓也(飲まない・25歳・IT)    
*お酒を飲む二郎と礼子は名前を青字に、飲まない麻里と拓也は赤字にしている。

 


それぞれのお酒との関わりは?


 

─ 本日はよろしくお願いします。最初に、4人の皆さんがそれぞれお酒を飲むかどうかを教えて下さい。

二郎 僕はお酒が大好きで、普段は350ミリリットルのビールを2缶飲むことが多いです。最近はオリオンビールにはまっています。妻と一緒にワインを楽しむこともありますね。ただ、最近は健康のことを考えて、飲むのは2日に1回に抑えるようにしています。

礼子 私もお酒好きですが、毎日飲みたいわけではなく週に2〜3回です。コロナで在宅勤務になってからは少し減って、週に1〜2回ですね。食事に合わせて飲むのが好きで、例えばイタリアンレストランに行ったら、乾杯のスパークリングワインから始まって、白ワインに、赤ワイン、最後に食後酒まで飲んだりします。そういうときには、ワインボトル1本分くらい飲んでいるかもしれません。

麻里 私は体質的にお酒がとても弱いです。カシスオレンジを2杯も飲んだら「よくやった!」という感じですね。お酒の味自体は好きなんですけれども、量は飲めません。

拓也 僕もお酒は弱いです。週に1回、飲むか飲まないかという程度です。僕も麻里さんと同じで、お酒自体は好きですが量は飲めないタイプです。

─ では飲める二人に質問ですが、お酒の良さや楽しさはどんなところにあると感じますか。

礼子 私はお酒の味ももちろん好きなんですが、その背景に興味があります。そのお酒がどこでどのように作られているのかとか、作り手のストーリーとか、そういうことを知ることに面白さを感じます。

二郎 僕はお酒の魅力は、非日常感を味わえるところかなと思います。仕事のある平日にしろ休日にしろ、放っておくといつもと同じリズムで時間が流れてしまいますが、そこでお酒を飲むことで、雰囲気ががらりと変わります。

─ そのときに、お酒ではなくコーヒーなどの飲み物ではダメですか。

二郎 やっぱりそこはお酒の出番ですね。頑張ったあとのビールとか、おいしい食事と合わせるワインとか、そういう存在によって気分の切り替えができる気がします。

─ 一方であまり飲まない二人も、決してお酒を嫌って避けているわけではなさそうですね。

拓也 ビールの味自体は嫌いではないので、自分用に時折クラフトビールを買うこともあります。1本飲んだら十分満足ですね。

麻里 私は自分の意志でお酒を買うということは、まずないですね。食べることがすごく好きなので、礼子さんが言っていた、食事とお酒を合わせる「マリアージュ」ができないのは残念だなと感じています。味わってみたいのに、その世界を体験できない悲しみはあります。そういう意味では、お酒に何かを期待することはあきらめました。

 


飲まない人を把握しておく「文化」


 

─ 職場やプライベートでの飲みの場もあると思いますが、皆さんの周辺ではどんな感じでしょうか。

二郎 職場の同世代で見ると、飲む人と飲まない人の比率はざっくり7:3くらいでしょうか。これがプライベートだと9:1くらいの印象です。ただ、飲まない人は「飲まないというキャラ」が確立しているので、お会計も傾斜を付けて支払額を調整したりしますね。

礼子 私も同じくらいの印象で、会社の同期が30人くらいいますけれども、7:3で飲む人のほうが多いという感じです。ただ、今思ったんですけれども「飲んでいるように見えて、実はそんなに飲んでいない人」を、私がきちんと認識できていない可能性もありますね。楽しそうに一緒にいてくれるから、飲んでいると思い込んでいるだけで、実はほとんど飲まない人もいるのかもしれません。

拓也 僕自身は飲み会の場では、基本的に飲まないですね。最初からノンアルコールドリンクを頼むことがほとんどです。職場の飲み会では、飲む人のほうが多いですけれど、みなさんが僕は飲まないのを知っているので、変なプレッシャーのようなものは特にありません。

─ 職場や仲間内では「飲まない人」というのは認識されているものでしょうか。

二郎 誰が飲めないかというのは、ぱっと頭に浮かんできますね。そういう人には配慮して、ソフトドリンクのメニューを渡すようにしています。

礼子 世代的に「誰が飲めないかは把握しておく」という文化というか慣習があるような気がします。会社の飲み会で幹事をしても、「あの人は飲まないから」という情報は共有しています。決して全員が飲むわけではなく、グループの中にはそもそも飲まない人がいるというのは、前提になっていますね。

拓也 僕は本当は1杯くらいは飲めるんですが、自分を守るためのブランディングとして「飲めない人」という設定で入りました。「1杯なら飲めます」と言うと、もっと飲まされかねません。逆に飲めないということにしておいて、たまにちょっとだけビールをもらうほうが楽ですね。

麻里 私も社内では飲めない人としてキャラが確立していますので、1杯目からノンアルを注文します。

─ 「社内では」とありましたが、それほど関係性の近くない社外の人との食事の席ではどうでしょうか。

麻里 社外の人との場では、人数が多いときほど、今でも当たり前のようにビールを人数分頼まれてしまうことはあります。そこで「私はウーロン茶!」と言い出す勇気はありません。それにお酒を飲めないことで、「こいつは醒めている」と思われる気がしてしまいます。もちろんただの被害妄想で、実際はそんなことは思われていないのかもしれません。ただ、最初から「あ、お酒は飲まないのね」と気をつかわれるのも、ちょっと面倒に感じます。

─ では「飲まない」ことを徐々にアピールしてく感じでしょうか。

麻里 いえ。関係性づくりという意味においては、お酒好きのほうがその後に繋がっていくと思っているんです。なので、拓也さんとは真逆で、「弱いけれども、まったく飲めないわけではありません。だから今後も機会あれば一緒に食事や飲みに誘ってくださいね」というブランディングをしています。

 


飲まない人が感じている疎外感



─ 食事の席において、飲む人は飲まない人を、飲まない人は飲む人をどんな風に見ているのでしょうか。

拓也 飲める人たちは、ビールを飲んだ後は「次はワインにしようか!」のように盛り上がっていきますよね。自分としてはそれには乗り切れないわけで、ちょっと醒めてしまいますし、若干の疎外感を感じたりもします。

二郎 乾杯のときは、飲まない人のこともちゃんと意識していますし、気はつかいますね。ただ、その後に飲まない人がどんな気持ちでいるかまでは深く考えていなかったです。自分が楽しければみんなも楽しいものだと思っていましたが、そうでもないこともありますよね。これからは気をつけてみます。

麻里 でも、私たちも飲みの場が楽しくないわけでは全然ありません。なので、変に気をつかわないで欲しいとは思います。何とかその場のノリに付いていこうとしている自分がいますね。

─ 仲の良い友人と食事をするときに、飲まない人は飲まない人同士で行く事が多いのでしょうか。

麻里 友人と二人とか三人で外食するときに、確かに3杯以上飲むような人は自分の周りにはいないかもしれません。ワインや日本酒を目的にするわけではないので、飲むことを楽しむ店は選ばずに、食べ物がおいしい店にしますね。 

拓也 ひょっとしたら飲まない僕に友人が気をつかっているのかもしれませんが、僕の周りにもガンガン飲む人はいないですね。ごはんをつくって食べるのが好きなので、店ではなく家という選択肢も多いです。

礼子 私の場合、使い分けというか、誘い方や誘われ方も違うような気がします。お酒を飲む人とならば、最初から飲む前提で夜に約束を入れます。でも飲まない人とだったらランチにしたり、あるいは一緒にスイーツを食べに行ったりしますね。飲まない人とちょっと贅沢をするならば、アフタヌーンティーをするなんていうこともあります。

─ ちなみに、飲まない皆さんは飲食店のドリンクメニューに不満はありますか。

麻里 最近「モクテル」(ノンアルコールカクテル)を出すお店も増えてきましたよね。そういう場合は、飲み物を選ぶ楽しみがあってうれしいです。ただ、昔ながらのお店の場合、ノンアルコールはウーロン茶しかないなんていうこともあります。私としては、そのお店の食べ物は好きなのに、飲めないとお店から歓迎されていないのかなという悲しさはあります。

拓也 ウーロン茶以外だと、子供向けのジュースや炭酸飲料しかないことも多いですね。それからノンアルコールカクテルがあっても、妙に「女子ウケ」を狙ったような甘いジュース的なものしかないことがあります。「自分が飲みたいのは、そういうものじゃないんだよなぁ」と思います。

─ 飲む人たちは、お店にどんなノンアルコールがあるかなんて知っていますか。

二郎 いやー、言われてみると意識していないですね。普段行く店であっても、ソフトドリンクに何があるかは知りません。

 


盛り上がるのではく「チル」に惹かれる若者



─ 拓也さんは、普段は飲まないのにたまにビールを買うことがあると言っていました。どんなときにそういう行動を取るでしょうか。

拓也 店でみんなと一緒だとなかなか自分のペースで飲めませんが、自宅ならばそれが可能です。そして普段飲まない分、お酒を少しだけ飲むことで、ちょっとした特別感とかイベント感を自分ひとりで手軽につくることができるんです。「チル」とか「チルアウト」という言葉がありますが、まさにその感じですね。気分的には土曜日の夜というイメージです。

─ そのニュアンスをもう少し説明してもらえますか。

拓也 テンションを「上げる」のではなく、むしろ「下げる」という感覚です。盛り上がるわけではなく、ゆったりする「いい時間」を過ごしたいんです。例えば、家でお香をたいたりして、何もない日常に少し特別な感じを差し込むわけです。こういうのは、割と同世代の共通認識じゃないかと思います。

─ 他のみなさんもこの感覚は持っていますか。

礼子 私は単語として「チル」は普段使いませんが、価値観としては自分を含めて世代として持っていると思います。イベントでワイワイするのではなく、だからと言って、ただぼーっとしたり、ダラダラしたりするのではなく、自分なりに一工夫をして時間を楽しむ感覚です。ハーブティとかアロマとか心地よい音楽とともに「この時間が大切」と感じるような、そんなニュアンスでしょうか。

二郎 色々なものが効率優先になる中で、わざわざそういう時間を作ることって、大事だと思います。僕の周りでも「チルってる」という表現をしますね。昔だったらタバコがそんな一息つく役割を担っていたのかもしれません。

─ 普段はお酒を飲まない拓也さんも、チルのために、たまにビールを楽しむことがあるということですね。

拓也 最近、アサヒビールから「ビアリー」という「微アルコール」のビールが発売になったんですけれど、ちょくちょくそれを買っています。本当にアルコールゼロだとバカバカしいけれど、ビールだとちょっと重い。ビアリーは両方のいいとこ取りという感じで、まさに僕みたいなペルソナをイメージしているんじゃないかと感じます。飲食店でもこういうものを提供して欲しいですね。

麻里 それはいいですね。私はノンアルを頼むことで場の空気を乱していないか気になるタイプです。自分だけグラスにストローが刺さっているとテンションも下がります。でも、そういう「ほんのちょっとだけアルコール入り」のものがあれば、自分も飲んでいるみんなと同じ楽しい雰囲気を味わえる気がしますね。

─ 本日はありがとうございました。


(インタビュアー : 子安 大輔  本誌編集委員)

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