このページを印刷

世界を牽引する中国EC市場の最新動向:中国ファッション&ビューティ業界通のミニマル代表・高村氏に聞く

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年3月号『変わる売り方 ~アパレルの未来~』に記載された内容です。)

新型コロナの影響で世界のデジタル化が加速する中、中国の躍進は特に目覚ましい。約14億人が暮らし、日本の26倍の面積を誇る中国EC市場の可能性は無限大だ。中国に向けた日本の情報提供、ビジネス展開のコンサルティングを手がけ、中国の主要メディアとの広いネットワークを持つ株式会社ミニマル代表・高村学さんに中国EC市場の最新動向を聞いた。

近年、急速なスピードで経済成長を続ける中国は、GDPではすでに日本を追い抜き、アメリカに次ぐ世界第2位の規模を誇っている。総務省発表の「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」(2019年5月)によると、中国国内でのB to C EC取引の市場規模は2018年の時点で約1兆5,267億ドル(約160兆円)を超える規模に。

越境ECに関しても、三菱UFJ銀行国際業務部が公表した「MUFG BK CHINA WEEKLY」(2020年7月データ)によると、2019年の中国の越境EC小売額は前年比38.3%の1,862.1億元(約3,042億円)。伸び率は2018年の49.3%増から鈍化したものの、高成長が続いているようだ。

中国でここまでECが伸びた背景には、スマートフォンの普及が関係しているようだ。「中国都市部でのスマートフォン保有率は日本の約2倍の90%以上にも達しています。中国ではスマートフォンが初めてのモバイル端末保有となるユーザーが多く、ウェブやブラウザを経験しないままスマホがいきなり日常生活に入ってきました。

中国人はウェブサイトを見ない。これは、大きなポイントです。スマホがなければタクシーも呼べず、レストランでの支払いはもちろんスマホで。スマホが生活の中心になっていて、全てのことをスマホで済ませようとしています。スマホ文化が日本の比ではありません」と高村さん。

「スマホがあれば店に行く必要もないし、スマホですぐに買えないと嫌だという国民です。中国メディアの多くはSNSで新商品の情報を掲載したら、ページの最後にECに飛べるURLがついていないと読者にとってはストレス。いいと思った商品がすぐに買えないとダメなんです。消費すること、お金を使うことが好きで買い物に貪欲です」。

 


ファッションは中国2大モールを抑えるべき


 

中国のECプラットフォームのシェアは、大手のアリババが55.9%、JD.comが19.7%の2つがシェアを大きく占め、およそ80%のシェアを占めている。そして、ファッションやビューティーの分野に関しては、「アリババ運営のTmallとタオバオが2大巨頭だといえます」と高村さん。

日本のアパレル企業が中国のEC市場に参入する場合は、自社ECで越境決済とした方がいいのか、またはTmallなどのモールに出店する方がよいのか。どちらなのでしょう?

「いきなり自社のECは無理なのではと思います。自社ECをやる場合はサーバーを中国で構えなければなりません。日本でECの実績がある場合でも、それを中国語に変えてもサーバーが日本だと中国側からはアクセスが難しい。アクセス出来たとしても、重くて時間がかかるので、まずそこで離脱していってしまいます。また、ブラウザ版は見ないことも念頭に置くとよいでしょう。

また、越境ECを行うとしても、日本から送るのは経費的にもナンセンスなので、中国にまとめて倉庫を借りて、そこから商品を即日発送する必要があります。しかしこれも、あまり現実的ではありません。まずはTmallから始めるのが近道だと思います。日本でのECは完全にAmazonと楽天にシェアを取られていますが、中国でもそのような現状が起きています」。

また、自社ECがショールーム化していて、買う場所ではなく、ただ見る場所としての存在になってきたことにも注目したい。

「日本でも最近は、消費者が欲しいものを自社ECで見つけたら、次にAmazonで同じものを探しに行く傾向が見られるそうです。自社ECよりも早く届くし、価格も安いはずだと消費者は判断しているからです。店で見たものをウェブで注文するのと同じような現状がEC内でも起こっていて、中国ではその現状がさらに加速化しています。TmallとタオバオがEC市場を完全に牛耳っているので、そこでどのように売っていくかを考えるべきですね。中でもTmallから始めるのがいちばんオーソドックスで安全なやり方なのではないでしょうか」。

 


ライブコマースとKOLの関係



中国メディアと日本とのパイプ役となり、コミュニティー作りを構築している高村さんは、ファッションとビューティーを専門に300人以上の中国人エディターたちとのネットワークをもとに、常に中国の最新情報に接している。最近の中国KOL(Key Opinion Leader)ビジネスをどのように見ているのだろうか。

「中国人KOLを使ったビジネスが白熱していますが、KOLも本当にピンキリなので注意が必要です。本人の身元のリスクもあれば金額も日本とは比べものにならないくらい高い。ほとんどのKOLはWeChat(SNS)に1本書くだけで300万円というが、その費用対効果は評価が難しいところです。弊社も中国人KOLとのネットワークがあり仕事をすることも多くありますが、KOLを選ぶにあたって信頼できるのはメディアのエディターたちの意見です。編集者たちから中国でのトレンド、PRの仕方などリアルなマーケット情報を取引先に提供して新商品開発の参考にしたりプロモーションを仕掛けたりしています」。


KOLといえば、ライブコマース。ライブコマースでの爆発的な売り上げはKOLなしには達成できないと言われている。KOLが告知を行い、ライブコマースでKOLが売る。中国で有名なKOLがライブコマースを配信すれば、視聴者数が1億人を超えているというから、5分間で日本人口とほぼ同数の視聴数となるのだ。

「中国EC市場は、ライブコマース一辺倒になり、商品を販売するにあたって無視できない有力な販売手法の一つになっています。日本企業の例では、アダストリアのニコアンドが、“口紅王子”の異名を持つトップKOLのAustinを起用したライブコマースで、3万枚のTシャツを5分で完売しました。ニコアンドは進出後まもなくテンセントのソーシャルツールWeChatのミニプログラムを開設し、Tmallへもかなり早い段階で出店しました。ローカルファッションブランドとのコラボ商品企画やイベント開催など、他の日本ブランドができていない事を確実に行なっています」。


しかし、ただ有名KOLを使ってライブコマースすれば売れるのか?というとそう簡単にはいかないようだ。

「すべてにおいて手法や法則があるんです。WeChatやweiboのプラットフォームは、“今年はこういう人を流行らせたい”という指針を出しています。例えば今年は音楽系の活動をしている子を検索トップに上げていこう、など指針に合致するようにKOLをプロデュースしていくと、超優良KOLが育っていきます。中国ECには法則があるので、日本企業は勉強していくべきですね。TmallでもWe ChatやweiboなどのSNSでも、マーケティングに基づいて成長しています。日本は人口が減り成熟した社会なので、パイがあるところでビジネスをしないと縮小する一方。中国の方に買ってもらわないと成長は難しいですよね」。

 


日本ブランドは認知度が低いことを忘れずに



「もしもまだ“中国人は日本のブランドが大好きでmade in japanが大好き”と思っていたら、それは大きな間違いです。ユニクロを除いて日本のファッションブランドはほぼ知られていません。ファッションプロのELLEやVOGUEのエディターに聞いても、ほぼ知らない。かろうじて『BAOBAO ISSEY MIYAKE』くらい。もちろん、『コムデギャルソン』は知られていますが、あくまでもパリのブランドという認識。日本人が思っているほど中国人は日本ブランドを知らないのです。D to Cや越境で日本のブランドを売るのはアパレルに関してはないと思います。コスメは認知度が高いものがあるので、別だと思いますが」。

一昨年までは2000万人以上の中国人が海外で買い物をしていたが、旅をできなくなった今は国産ブランドを見直す動きが出てきたようだ。

「中国のいいブランドを探す、買うという流れが出てきました。企業や投資家たちもドメスティックブランドに積極的に投資しています。コスメでは、『パーフェクトダイヤリー』というブランドが急成長していますが、これは1,600億円以上の投資額を集めました。また、中国のアパレルブランド『シャンシア』にはエルメスが出資しています。今後もそのような動きが出てくるのではないかと思います。考えてみれば、中国ブランドに投資して、中国で作ったものを中国人に買ってもらう、という方が効率的ですよね。企業が中国ブランドに投資する例としてはこの2つのブランドがシンボリックだと思います」。

14億人の90%以上がスマホを持ち、KOLのライブで瞬間的に200億円も売れ、さらに海外の投資家達も中国ブランド開発に注力する今の中国EC市場。一筋縄ではいかないが、法則の研究と手法を見出しさえすれば、事業検討のきっかけとなりそうだ。新しいサービスが日々生まれ、さらなる拡大の余地がある中国EC市場から目が離せない。

図表 《クリックして拡大》

 

高村 学  (たかむら まなぶ)
株式会社ミニマル代表
1972年生。明治学院大学卒業後、1995年に株式会社INFASパブリケーションズ入社。「STUDIO VOICE」「流行通信」「TOKION」「WWDジャパン」編集部を経て、2012年1月5日に株式会社Minimalを創業。メディア事業、グローバル・コミュニケーション事業、クリエイティブ事業を立ち上げ、「SEVENTIE TWO」、「The Flower Journal」のパブリッシング・ディレクターを務める。


小泉 恵里  (こいずみ えり)
編集者・ライター
1973年生。東京外国語大学卒業後、ファッション企画・コンサルタント会社勤務の後、ファッション誌「流行通信」「WWD ジャパン」、メンズ総合誌「GQ JAPAN」編集部を経て、2009年独立。ファッション・ライフスタイル分野を中心に編集執筆活動をするほか、IT企業でコンテンツディレクション、リテールビジネスのコンサルティングも行なっている。

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。

関連アイテム