令和時代の新しい家族の食卓とは

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年1月号『新型でいこう』に記載された内容です。)


手料理への飽きがもたらす食卓のカオス


 

「家のごはんには、もう飽きた!」
私の身の回りで、そしてネットでもしばしば見聞きするセリフだ。コロナは私たちの生活のあらゆる面に多大な影響を及ぼしているが、その中でも食生活の変化は相当に大きいのではないだろうか。それもそのはず。これまで毎日のように職場近くでランチをしていた人は、在宅ワークになった途端、「基本的に自宅で」となった。

自分でつくるか、家族の誰かが作ってくれるかはそれぞれだが、よほどの料理上手でなければ、レパートリーは限られる。それは夜も同様だ。以前なら、同僚と飲んで帰る機会もあったかもしれないが、今はほぼ皆無だろう。

もちろん皆が在宅ワークというわけではないが、それでも外食の機会は急減し、家で食事をする比率は大きく高まったはずだ。それが「家のごはんに飽きた」という冒頭のセリフに繋がっている。結果として、Uber Eatsをはじめとするデリバリー市場が急拡大したり、便利なミールキットが品薄になったりするのも当然である。

今や多くの家庭において、手料理、ミールキット、デリバリー、テイクアウト、冷凍食品やレトルト食品などが、かつてないほど入り乱れている。しかし、このカオスを私は決して悪いものとは思っていない。それどころか、こうしたプロセスを経て新しい時代にふさわしい「新型の家族の食卓」が生まれてくるのではないかと思っている(なお、単身世帯は2015年時点で約35%存在し、この比率は微増傾向にあるものの、今回はまだマジョリティである「家族の食卓」にフォーカスする)。

 


「昭和の食卓」「平成の食卓」とは?


 

少し時代をさかのぼってみる。昭和以前の家族の食卓とはどんなものだっただろうか。あえてデフォルメして言えば、それは「専業主婦のお母さんが手間暇かけてつくった料理」が並んでいるイメージではないだろうか。

厚生労働省の資料によれば、1980年(昭和55年)の専業主婦世帯と共働き世帯の比率は64%対36%である。結婚している女性の実に3分の2は専業主婦だったのだ。もちろん専業主婦だって忙しいには違いないが、料理に割ける時間はそれなりに長かったことだろう。

では、昭和に続く「平成の食卓」はどうなっていったのか。これまた極端に言うならば、「仕事に追われる忙しい日々の中で、『時短』に大きな価値を求めた料理」に象徴されるのではないか。

というのも、平成に入り、共働き世帯の割合は急速に増えていく。共働き世帯が専業主婦世帯を初めて上回ったのは1992年(平成4年)のことだが、以後、多少の揺り戻しはあるものの、その差は年々開いていき、共働きであることがむしろ多数派となっていった(ちなみに2017年の専業主婦の割合は35%で、1980年と見事に逆の関係性になった)。

しかし、女性が外で仕事をするようになったにもかかわらず、家庭における家事負担は依然、女性に重くのしかかっていた。今でこそ、「イクメン」だの「料理男子」だのと男性が家事や育児に積極的なケースが増えているものの、平成の前半はまだそんな傾向は薄かったように思う。

日中は仕事に、夕方以降は家事に追われる中、女性がじっくり時間をかけて料理をつくる余裕などあるはずもない。結果、「時短」というキーワードが注目されるようになり、すぐにつくれるレシピや、調理時間を短縮するための工夫に人気が集まっていった。言うまでもないが、「時短」は悪いことのはずがない。忙しい毎日の中で、それでも家族に健康的でおいしいものを食べさせたいと願う女性の愛情が「時短」に繋がっていったのだ。

 


「令和の食卓」の3つのポイント



さて、それではコロナを踏まえて「令和の食卓」とはどのようなものになっていくのだろうか。未来予測ではなく、「このようになって欲しい」という願望を込めて書いてみたい。ポイントは3つある。

①作り手は入れ替わり
料理の作り手は家族みんなで担当するようになって欲しい。今回のコロナ禍で、今まで料理をしてこなかった男性が、料理の面白さに目覚めたという話を聞くことがある。家庭料理には多くの場合、「センス」は要らない。基本的なレシピさえわかっていれば、むしろ大事なのは、調理の段取りや食材の在庫管理だったりする。仕事をしている男性にとっては、それはある種の「業務マネジメント」とも言えるので、そう考えれば仕事の延長と捉えられるのではないだろうか。夫と妻が自然に料理をつくる立場をローテーションしている様はひとつの理想である。

②テクノロジーの恩恵を
これまで料理をしてこなかった人がそれに取り組む際には、テクノロジーの進化が大きな後押しとなる。例えば、シャープが販売する「へルシオ・ホットクック」という調理家電がある。これはレシピにのっとって材料を投入し、あとは放っておくだけで料理が仕上がる優れものだ。火加減の調整なども機械が自動でやってくれるので、まず失敗する恐れがない。この手の家電は今後ますます普及していくだろう。すると、料理の経験が少ない大人はもちろんだが、子供まで料理の作り手となりうる。①と繋がっていくが、こうしたテクノロジーを活用すれば、家族全員が料理にコミットすることができるようになるのだ。調理家電に限らず、テクノロジーを利用しない手はない。

③多様なシーンの使い分け
仕事の忙しさや家族の都合によって、料理にかけられる時間はまちまちだろう。週末の時間のあるときや記念日にはたっぷり時間をかけて料理をする一方で、物理的に余裕のないシーンでは、冷凍食品やデリバリーを最大限に活用して簡便に済ませる。こうしたメリハリはとても大切だ。「毎食ちゃんと作らねば」という心理的なプレッシャーはマイナスですらある。皆さんご存知のとおり、最近の冷凍食品の品質の高さには目をみはるものがある。「『手抜き』ではなく『手間抜き』」という表現があるが、まさにその通り。上手に力を抜くことも肝要だ。

コロナという外的要因で、多くの家庭において食卓は変化せざるを得なくなった。それを憂うのではなく、令和時代の「新型の食卓」をそれぞれがつくりあげていってはいかがだろうか。

 

子安 大輔(こやす だいすけ)
株式会社カゲン 代表取締役
1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂入社。マーケティングセクションにて食品、飲料、金融などの戦略立案に従事。その後2003年に飲食業界に転身。飲食店や商業施設、ホテルなどのプロデュースやコンサルティングに数多く関わる。著作に「『お通し』はなぜ必ず出るのか」「ラー油とハイボール」(ともに新潮社)など。食について多様な角度で学ぶ社会人スクール「食の未来アカデミア」主宰。

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