コロナ禍は組織を進化させるきっかけ:ヒューマンな視点で問い直せ!

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年12月号『コロナの炙り絵@LIFE』に記載された内容です。)

危機が訪れたとき、聡く賢しい組織は、二つのことをするでしょう。まず、問題の認識、そして危機をきっかけとして行動する。これは個人についても同様かと。危機において、危機そのものの認識も大切ですが、危機ではっきり露呈した既存の問題をどうとらえ解釈するかが大きなテーマとなります。

それは、そもそも論の問いとなることが多く、新型コロナ禍では、
 ・なぜ混んだ電車で時間をかけて通勤するのか?
 ・なぜ家賃の高いオフィスを構えるのか?
 ・なぜ出勤するのか?
 ・なぜ会社に縛られるのか?
といった例があげられます。

実際に、在宅時間が増えた体験や、職場に集まらないなど異なる状況で仕事をした体験から、リアルの場、あるいは同じ場にいる価値の高さや低さ、家族と一緒の時間が増えたプラス面やマイナス面など、基本的なことにあらためて気づいたはずです。

また、これらの問いは、盲信あるいは諦めて受け入れていたという気づきと表裏一体です。すると人はこれまでのやり方しかないという呪縛から(一部でも)解放され、自ら選択肢を選べることに気づき、自由に感じ考えるようになります。

一方で、鈍感あるいは重たい組織で、一年前の状態に戻そうと懸命な例もみられます。これには、関係する人々が、やはりそういう組織なんだと冷めた見方をしてしまいます。

あるいは、できるだけ変えることなくコロナ禍をやり過ごそうという組織もあり、社員はじめ関係者はガッカリしています。リモートでOKと言いながら毎日誰が出社しているかチェックする上司に、「やっぱりそうか、出社してほしいんだ」と愚痴る社員。感染対策などどこ吹く風で、現場で働く人を大切にしない会社に、「本性が見えた」と嘆いたり、あきらめの境地の社員。

このように、インナーブランディングが傷つく組織は少なくありません。すると、やる気、エンゲージメントはもちろん、採用、リテンションなどの人の問題に直結し、取引先や顧客などからの見方にも影響するでしょう。

 


問題を捉え、進化した組織の例


 

コロナ禍の話ではありませんが、組織のあり方と進化について、ひとつ例を紹介します。

多くの中小企業と同様に、採用に苦労し、社員たちが疲弊していた建築金具メーカーのサカタ製作所(新潟県長岡市)は、いまや働きやすい会社というイメージが広まり、社員の定着や優秀な人材の採用、そして社員のパフォーマンスも向上しているとか。いったい何をしたのでしょう?

それは、「残業ゼロ」と「男性社員の育休取得率100%」です。どちらも、それは理想だが現実はそうはいかない、と思っている経営者がほとんどでしょう。

坂田匠社長は、残業をする人でなく、勤務時間内で期待する成果が出せる人を評価すると全社集会で「残業ゼロ」を目指す宣言をし、会社の本気度を伝えるため、働き方の方針を社内に掲示、説明会も開いて周知徹底をしました。すると、1人あたりの平均残業時間(1カ月)は2014年の17.6時間から2019年は1.2時間に激減しました。

また、数年前のサカタ製作所は長時間労働で、男性育休とはほど遠い組織でした。それが、2018年に子どもが生まれた社員6人が3週間以上の育休を取得してから、男性育休取得率100%は続いています。

部署間の情報共有や形骸化していた仕事の選別が進んで無駄な仕事は3割減り、属人化が解消して、誰かが休みを取っても仕事が回る組織になったそうです(参考「男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる」小室淑恵・天野妙著)。


なお一般に、人間関係が職場の悩み、これが原因で離職した、といったケースは驚くほど多いのが実情です。サカタ製作所の革新は、乾いたロジックを超えたヒューマンな面で、ハッピーな組織を育んでいるとも言えるでしょう。

これは小さな例ですが、無理だという思い込みや多くの会社がそうだからウチもといったマインドセットでは、この変化の時代、それもコロナ禍という危機では、置き去りにされかねません。

 


リモートワークについて、どう思いますか?



リモートワーク礼賛といった論調も見かけますが、一概にそうとも言えません。新人のトレーニングはリモートだけでは難しい、高度なことをチームでやっているとリモートだけでは無理がある等の課題があり、仕事によってかなり異なります。リモートとリアルの組み合わせで効果を上げることもあり、単純ではありません。また、社会的な課題もあります。

「リモート勤務をする人はその特権に対して税金を払うべき」ドイツ銀行のルーク・テンプルマン氏らストラテジストは、自発的に在宅勤務を日常とする労働者に対して5%の税金を課すことを提案。それにより、米国では年間480億ドル(約5兆1000億円)、ドイツで約160億ユーロ(約2兆円)を徴収でき、低所得者やリモート勤務できないエッセンシャルワーカーへの補助金に充てられるとか。幸運にも対面型の経済から距離を置くことができる人は、経済のインフラへの寄与が小さく、これを支援する義務があるとテンプルマン氏は指摘します。

これはコロナ禍前からの社会課題です。エッセンシャルワーカーなどリアルなお仕事は金銭的待遇が比較的よくはなくても、社会の幸せのために多大な貢献をしています。都市開発では、こうした人々をどうするかが最大の課題の一つだとか(お金持ちしか住めない都市ではマズいですし、シンガポールはコロナ禍でこの問題に苦しみました)。

この話からは、主語や境遇により、様々なことを思うことでしょう。単純にみても、リモート勤務を魅力と感じる人材が増え、リアルなお仕事は従来の方法では採用の難しさが増すでしょう。いずれにせよ、社会が価値観とともに変化するのは間違いありません。

サカタ製作所の例もそうですが、コロナ禍以降はなおのことヒューマンな視点が大切になる気がします。そして従来からの慣性力との戦い。皆さんは、何を問題と捉え、どう行動しますか?

社長や本社が東京から沖縄や新潟に移った会社、淡路島に移住を始めた会社、コロナ禍以前なら驚かれる様な手を打つ企業が増えています。何が正しいかは分かりませんが、正解を待っているだけでなく、行動を起こし、新たなイニシアティブを成功に結びつける取り組みが肝要です。こうした姿勢があれば、組織のあり方や方向性は自ずと見えてくるのではないでしょうか。そして危機をきっかけに前へと進みたいものです。

 

(c) サカタ製作所
人にやさしい職場を実現するサカタ製作所

『男性の育休』
小室淑恵/天野妙 共著(PHP新書)

本荘  修二  (ほんじょう  しゅうじ)
本荘事務所 代表/多摩大学大学院経営情報学研究科(MBA)客員教授
新事業を中心に、イノベーションやマーケティングなどの経営コンサルティングを手掛ける。日米の大企業、ベンチャー企業、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。500 Startups、始動ネクストイノベーター、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、 コミュニティづくりに取り組む。監訳書に、『ザッポス伝説』『ザッポス伝説2.0』がある。

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