ポスト・コロナ時代のまちづくりを考える

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年8月号『DX : 先行する生活者、日本企業は追いつけるのか』に記載された内容です。)

読者の方はいま、どこでこの冊子を読んでいらっしゃるだろうか。会社のデスクで少し空いた時間に情報収集する。ついこの間までは、そんな方が多かったかも知れない。しかし新型コロナの流行で、私たちのワークスタイルは大きく変わった。オフィスに行くこと自体が、当り前のことではなくなってしまった。

ライフスタイルや働き方が大きく変化するなかで、日本を代表するビジネスセンター丸の内のまちづくりを手掛けてきた三菱地所が、いまどんな議論を行い、ポスト・コロナ時代を見据えてどんな戦略を考えているかをご紹介したい。

 


コロナは変化を加速するもの



テレワーク(在宅勤務等)が進んだのは丸の内も例外ではない。むしろ大企業が多く立地する丸の内では、当社テナントの約70%が何らかの形でテレワークを導入し、感染拡大がピークを越したあとも、テレワークを取り入れた勤務形態は継続されている。

一部メディアはそれをオフィス不要論に結び付けるが、働く場所を選択するという動き自体は、コロナで生じたものではなく、既にあった変化が加速したものと当社では捉えている。むしろ、企業のオフィス戦略に寄り添うことで、新たなオフィスのあり方やサービス開発のチャンスがあると考えている。

そもそも、働く場所を真剣に選択する機会は、多くの人にとって、あまり無かったのではないか。オフィスは、言わば学校のように、全員が同じ時間に行くのが当然の場所だった。それが、強制的なステイホームとZoom等のデジタルツールを経験することで、仕事の内容に応じ、好きな場所で好きな時間に働く便利さに気付いた、ということであろう。自宅も、カフェも、ホテルもオフィスになる。そんな時代に、センターオフィス(本社)の役割をどう位置付けるべきか。

「学校のように」と書いたが、学校は知識を得るだけの場所ではない。社会のルールを学び、自分とは違う多様な考え方の存在を知り、友達とチームを作る、そうした役割が重要なはずだ。センターオフィスも、今後はより明確な目的をもって集まる場所になる。ならば、在宅勤務で求心力を失いがちな社員のハブ拠点となり、一人では得られない刺激やアイデアが生まれる場所にする必要があると考えている。

コロナがまだ深刻化する前の今年1月、当社は2020年代のまちづくりを『丸の内NEXTステージ』として発表した。テーマは『丸の内Reデザイン』。人や企業が集まり交わることで新たな「価値」を生み出す舞台づくりを目標に、①イノベーションが生まれ続けるエコシステムの形成と②デジタル基盤の強化を掲げた。

個々人のクリエイティビティが求められる時代に、都市の役割は多様な人々が集い、協創して新しい価値を生むことであり、その手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を最大限活用するという目標を立てたのだが、ポスト・コロナ時代でも本質的には変わらないと思っている。交流の価値があるところに人は集まる。まさに、『密は蜜』なのである。

 


15,000人の声を拾う



同時に、就業者の意識変化について大規模な調査を行った。テレワークでも出来るというのと、オフィスよりテレワークの方が良いというのは異なる。そのあたりのニュアンスまで探るのが目的だったが、結果は概ね予想通りだった。

約15,000人の声は、①仕事内容に応じ、オフィスとテレワーク(オンライン)をうまく使い分ける、②センターオフィス(1stプレイス)、自宅(2ndプレイス)、3rdプレイスを柔軟に選択する、③フェイストゥフェイスでしか得られない価値(創造性・偶発性・チームビルディング)をオフィスに求める、といった点を浮き彫りにしてくれた。

 


「28万人×8時間」から「多様な100万人×最適な時間」へ



以上のような議論をふまえ、7月、ポスト・コロナのまちづくり戦略について、プレスリリースの形で発信した。一つは、『丸の内は「就業者28万人×8時間」から、「多様な就業者100万人×最適な時間、交流する」まちへ』というメッセージだ。

ワークスタイルが変化し、全社員が毎日フルタイムで働くオフィスだけでは顧客ニーズが満たせなくなっている。例えば、週に3日ディスカッション目的に出社する人や、キーパーソンに会う、その1時間のために丸の内に来る人もいる。

ニーズの変化をきめ細かく拾い、複数の会社で共用するオフィスを作ったり、個人がフリーに使えるスペースを用意していけば、一社当たりの利用面積は減ったとしても、就業者のアタマ数はむしろ増やせるのではないか。それこそ、多様な人材が集積・交流し新しい価値を生むという、丸の内のまちづくりに合致すると、環境変化をポジティブに捉える気持ちをメッセージにした。

今後は、具体的な取組みを進めて行く。先ずは、フレキシブルなワークスタイルに対応できるようオフィスのメニューを増やすこと。それは契約形態の変更や、さらには不動産ビジネスの事業モデルの進化に結びつくチャレンジになる。

次に、ここでしか得られない交流機能の充実だ。当社は、ビジネス交流を目的とする施設を複数運営するが、リアルな人間関係の構築があった故に、オンラインの交流もスムーズだったという声をよく聞いた。一方で、オンラインを通じ、地方や海外の人と会うハードルがすっかり低くなるメリットもあり、そうしたフェイストゥフェイスとオンラインの上手な併用は自然と進んでいくと思っている。

3つ目には来街目的の多様化。例えば、どうせ丸の内に出てきてミーティングするなら、旨いモノを食べながら、という人もいる。出勤した時には複数の予定を片付けたい、という欲張りなニーズに応えることが求められるだろう。

4つ目にはワークプレイスの拡がり。密を避ける動きの中で、公共空間も含むオープンスペースを働く場としても活用する取組みを進めたい。

最後に、都市の安全・安心と個人のWell-being(健康・快適・便利)の両立。例えば、人の流れをデータ解析する仕組みは、個人にとっては密を避ける飲食店を知らせるツールにもなる。都市のデジタル化領域はまだまだ開拓の余地が大いに残っている。

これら5つの取組みは一例で、その他にも、通勤のあり方の変化とモビリティの活用等々、新しいテーマは数多い。また、オフィス以上に制約を受けているのが、本来は都市の魅力であるはずの集客施設やMICEだ。

「密」にも、悪い密(過密)と良い密(濃密)があると思うが、現状はソーシャルディスタンスの確保が最優先であることはやむを得ない。ただ、東京がグローバル都市の地位を高めるには、いずれ求められる役割と捉えている。

 


本質はぶれない。でも、こんな時代こそ、試してみる



メッセージのもう一つは『多様なワークスタイル・ライフスタイルへの対応』だ。通勤が無くなり、家族との時間が増えたとか、週に数日の通勤ならば郊外でゆったり暮らしたいとか、ライフスタイルの価値観が変わったとの声は多く聞く。

センターオフィスの価値向上と同時に、どこでも快適、便利な働き方が出来るように、住宅のワークプレイス化や、地方と都市との新たな関係性を生むワーケーションの推進等、ニーズの多様化に応えていくのが、今後の大きなテーマである。

私たちの生活と意識に大きな影響を及ぼしたコロナも、いずれは終息の時期を迎えるはずだ。しかし、コロナが加速させたワークスタイルの変化は顧客ニーズに根差すもので、元に戻ることはなく、今後はオフィスを柔軟に選択することが普通になるだろう。

一方で、人が交流し新しい価値を生むことは、オフィスの本質的な役割として重要性が増すことはあっても無くなることはない。その中心軸はぶれずに、変化のスピードが速い時代に、アジャイル型のまちづくりを進めて行きたい。

クリックして拡大(図1~3)


石川 直 (いしかわ すなお)
三菱地所株式会社 コマーシャル不動産戦略企画部
1990年三菱地所入社。市街地再開発事業等の経験を経たのち、2000年から丸の内の再構築、『街ブランド』の立上げに参加。丸ビルオープンを皮切りとする丸の内の変貌を共にする。2009年、広報部に異動し、メディア対応と企業広告(『次だ、ニッポン』、『三菱地所を見に行こう』)を担当する。その後は、都心部でのオフィス開発、大阪うめきたの複合開発等を担当したのち、2020年より現職。まちづくりにおける、新たなコンテンツ開発や事業のタネを探すのが、主な仕事。

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