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駅まち一体開発~回遊ネットワークと賑わい形成

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年2月号『交通起点の市場をつくる』に記載された内容です。)


成熟化社会、安定成長時代を迎えた昨今でも、駅を中心とした街づくり、都市更新を実施することにより潜在化していたポテンシャルを顕在化し、都市の価値を高めた街が都市間競争、沿線間競争に打ち勝とうとしている。更に人口減少、高齢化社会とIoTビジネス、AIに対応した都市モデルが勝ち組になっていくのだ。

1.公共交通中心の東京の都市発展

①公共交通都市発展の経緯

東京は明治維新後、鉄道省による国内鉄道網の建設、五街道沿いの都市を結ぶ都市間鉄道整備や山手線建設等を進めた。一方、私鉄は山手線からの放射状の鉄道建設を進めたが、都民の足は路面電車やバス交通が主体であった。第二次大戦前には(図1)のような公共鉄道網が出来上がり、公共交通が市民の足であった。

戦後の高度経済成長と共に都市人口が急増すると、モータリゼーションの台頭により、道路には自動車が溢れ、駅は大混雑し、通勤地獄の時期を迎える。東京は拡大を続け、郊外部には公共施行のニュータウン+鉄道と共に、東急の多摩田園都市という鉄道と一体となった民間施行の沿線開発等により郊外住宅地が形成されていく。

鉄道、地下鉄の整備と運行システムの高度化による輸送力増強が進み、東京都心部は伝統的CBDと公定副都心並びに都市機能更新型都市からなる多心型都市構造「TOD コンプレックス」の形成により、交通渋滞を克服し、優れた移動定時制を実現した3500万人の都市圏を形成した。


②TOD(駅まち一体開発)の進展

公共交通網の整備とリニア新幹線建設による東京、名古屋、大阪の6000万人都市を形成し、空港アクセス線整備による国際化、グローバル化対応が進展している。東京駅、六本木や渋谷駅周辺では国際競争力強化をテーマに都市更新が進んでいるが、共通のテーマは駅まち一体開発であり、駅前の広場空間を再整備し、更に街を円滑にネットワークする人の空間の創出である。

特に渋谷は複雑な駅構造と谷の地形により、駅は街の分断要素となっていた。副都心線の建設決定を受けた東横線の相互直通地下化を契機に100年に一度と言われる再開発が進行している。谷の地形を逆利用し、多層のネットワークと垂直動線を官民の敷地境界をまたいで整備し、ハチ公広場等の駅前空間の拡大整備を行うことで、駅が街の起点となり、駅徒歩圏400mは業務、商業立地エリアとしての価値が高まり、パルコ等の都市更新も誘発している(図2)。

③都市運営の視点から

多摩田園都市は「城西南地区開発趣意書」が発表された1953年から70年近くになる。初期に入居された方は高齢化または既に亡くなられた方も増えていることが推察される。ところが多摩田園都市に遅れて開発がスタートした多摩ニュータウンと比して、年令別人口構成比ははるかに若い(図3)。

多摩田園都市では人口増加と共に、拠点駅を中心に生活利便施設、文化施設を更新、増強しサービスグレードを向上させ、生活満足度の向上を図っている。過去10年でたまプラーザ、二子玉川、南町田で大規模商業を開業するなど、郊外沿線都市を運営する視点が若手のファミリー層に訴求している。

一方、都市側の拠点渋谷は行政とまちづくりガイドラインを共有しながら、他社の開発と一体で、街の価値向上につなげている。拠点と沿線都市の価値を一体で向上するモデルなのだ。


2.アジア諸都市の都市発展

①道路交通渋滞都市

中国、アジア諸国の経済発展は目覚ましく、都市部への人口集中も著しい。しかしながらジャカルタに代表されるように道路の渋滞は痛々しく、経済成長の足かせにもなっている。アメリカ型の都市計画を選択したことは人口密度と人口の絶対値に対する認識が不足していた可能性もある。右の図(図4)は人口密度と移動に係るエネルギーの相関を表すNewman and Kenworthyの有名なデータである。

アメリカ諸都市の人口密度は低く、自動車利用率が高いため、移動エネルギー消費は著しい。つまり、自動車交通主体の都市が成立している。ヨーロッパも人口密度は高くないが、エネルギー消費も大きくないのは公共交通が発達しているからだ。

東京は人口密度が高く、エネルギー消費が少ない。人の密度が高いにもかかわらず、公共交通が発達しているので、都市内移動が円滑にできるといえる。

②鉄道の導入と高鐵駅

中国でも諸都市の渋滞問題は著しく、国を挙げて地下鉄建設や都市間鉄道建設が進められている。北京地下鉄は現在23路線が営業中で、一日の利用者は1000万人を上回るという。東京の地下鉄利用者数と同等である。更に、近い将来には30路線になるという。しかし、依然として道路渋滞は著しく、結果として都市部での開発が規制されている。一方で地下鉄は移動装置として建設され、周辺建物とは接続もなく、まちづくりとの連動は感じられない。

高鐵駅は複数の方面への路線が入り、かつ空港型の駅内は一方通行移動であることと自動車での駅アクセス対応用のアプローチデッキが加わり、巨大な駅が整備され、街の分断要素になっている。地下鉄等との乗り換え利便性やまちとの回遊等のまちづくりが二の次になっている。

③TODブームの到来

日本の大都市は期せずして、公共交通利用が社会文化として成立した稀な都市といえる。日建設計としては、駅と街を一体的に計画し、交通利用の利便性向上と駅を中心とした人の空間、公共空間の整備等による、街の価値向上を目指して取り組んできた。一方、アジア、中国での都市化と鉄道整備が進むことを想定し、本の出版と諸都市との交流を行ってきた。

特に中国では都市化が急ピッチで進む杭州、深セン、成都や都市更新時期を迎える大都市の北京、上海、広州の行政、地下鉄会社等からの計画検討依頼が休む間もなく降ってくるなか、本年、成都では国営企業の成都地下鉄との合弁会社も設立し、多くの案件に携わっている(図5)。


3. 駅周辺の高度複合化都市

①駅ビル

日本の駅ビルの歴史は古く、阪急電鉄による1920年開業の阪急梅田ビルに白木屋が入居、1929年に阪急百貨店として開業したのが始まりといえる。1934年には渋谷に東横百貨店が開業している。

都心から郊外に延びる沿線のターミナル駅として、都心部での乗り換え客を取り込み、かつ休日の住民の憩いの施設として住宅エリアの住民の都心への移動を促し、鉄道の売り上げと沿線の価値向上を意図した施設と言える。また、東横劇場を内包し、若手俳優による歌舞伎公演、新派劇や落語などの舞台上演の場として人気を集めた。一方、顧客を駅ビルに閉じ込め、街の拡大を意図していなかったともいえる。

②駅の概念の拡大

都市の付加価値向上に当たり、駅を集客と回遊の拠点とすることを命題として計画検討を行っているが、駅直近エリアには商業と業務施設を配し、加えてエンターテイメント施設を導入することと、駅前広場の歩行者空間の充実を図ることに心がけている。

渋谷都市再生のパイオニア事業であるヒカリエは東横線・副都心線の駅と地下 3 階で直結し、地上 1 階、2 階、4 階へアーバンコアという垂直動線を内包し、公的水平回遊ネットワークへとつながる。上部は業務・商業施設と共に、ミュージカル専用ホールを導入し、かつての東急文化会館の DNA を拡大伝承、渋谷らしさを増幅している(図6)。

③ネットビジネスとリアル商業

日本の大都市では公共交通利用が市民生活の基本となり、駅を中心に都市は発展し、更に駅まち一体開発により駅勢圏の活性は高まっている。中国、アジア諸国の都市も同じベクトルで変化し、駅の賑わいが回遊ネットワークで街に広がることが期待される。

杭州西駅周辺都市設計コンペでの提案は高架駅の下に交通広場を設置、内部にアトリウムと商業空間を整備、駅を賑わいの拠点としつつ、駅から街へのネットワークを整備することと、駅周辺開発にアクセスする一般車のための道路を地下化し、歩行者優先都市を提案した(図7)。2022年のアジア選手権開催に向け、駅の工事が進んでいる。駅周辺の敷地内外の豊かな環境のパブリックスペースはクリエイターの交流と創造を生みだし、第二のアリババの出現が期待される。

賑わいの源泉は商業施設であることは基本変わらないが、特に中国ではネットビジネスによる物品購入が加速度的に進行して、開店休業や閉店に追い込まれたSC(ショッピングセンター)も少なくない。共働きが基本の中国ではSCを利用する主役の女性が平日の夜、休日にしかショッピングに行けないことも要因の一つだろう。

日本のサブアーバンエリアの駅まち一体開発の代名詞は二子玉川ライズであり、中国の訪日団の視察も多い。駅から業務商業街区を通って、住宅街区、更に公園につながる歩行者ネットワークは分かりやすく快適である。駅からガレリアを抜けて交通広場に至る空間は駅の概念の拡大を具現化したと言える(図8-1、図8-2)。

ネットワーク沿いの広場は週末には様々なイベントが開催され、家族、友人達の笑顔が絶えない。ネットワーク沿いは飲食・カフェが主役で、大型物販としては蔦屋家電が顔を出し、賃料の稼ぎ頭である女性ファッション系は裏に控える。

蔦屋の本業は本屋だが、セレクトショップのような家電とリビング空間が蔦屋ワールドという体験型物販、アンテナショップなのだ。消費者は最終の購買はネットかもしれないが、手に取って楽しみ、話を聞いて納得して買う。リアル商業があって、ネットビジネスは成立するのかもしれない。

中国ITの旗手アリババのスーパー『フーマーフレッシュ』が中国全土に急速に拡大中だ。生鮮に着眼したリアルビジネス×ITだが、ユニークなのは店頭の鮮魚をその場で料理して提供するイートインコーナーだ(図9)。この仕組み、実は日本の商店街でしばしば見る魚屋さんの奥が料理屋のパターンだ。新鮮、美味、高くないという安心感もある。リアル商業のヒントは結構身近なところにあるのかもしれない。街の活性化のためにも更なるリアル商業の活躍に向けた業態研究の躍進に期待するところである。


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横尾  茂  (よこお  しげる)
株式会社日建設計  都市部門都市基盤計画グループTOD計画部長
1961年東京生まれ。
1983年早稲田大学建築学科卒業、東京急行電鉄入社。
ビル事業部計画部に配属、賃貸ビル事業計画を担当。渋谷マークシティ、コレド日本橋、二子玉川再開発事業等の開発を担当。2008年に日建設計に転職。
共著に『駅まち一体開発: 公共交通指向型まちづくりの次なる展開』(a+u2013年10月臨時増刊)がある。

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