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駅というマーケットを活かすには ~駅のモノ・トキ消費を捉える~

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年2月号『交通起点の市場をつくる』に記載された内容です。)


「駅は消費の一拠点となっている」そう聞いたら、皆さんはどう思われるでしょうか?今では、駅で消費をするのは当たり前のことになっているように思います。この20年ほどで駅の消費拠点化はかなり進みました。では、駅を市場(マーケット)として捉え、攻略するにはどのようにすればよいのでしょうか。

私たちジェイアール東日本企画・駅消費研究センターの研究から、駅には特有のインサイトがあり、消費に結びついていることが見えてきました。本稿では、駅の消費拠点化の変遷を振り返るとともに、駅特有のインサイトと攻略法についてご紹介したいと思います。


消費の拠点としての駅

駅と消費との関係は意外に古く、昭和初期に始まります。小林一三氏が大阪・梅田駅で、日本初のターミナル型百貨店である阪急百貨店を開き、鉄道を敷設し沿線開発をしたことは有名な話です。また、東京・渋谷駅に東横百貨店が開業したのも昭和初期のことでした。

一方、国鉄の駅と消費の歴史は、戦後が中心といえるでしょう。戦後復興の為に民間の力を借りた民衆駅として開発されていきました。第1号は1950年の豊橋、その後全国に広がります。1970年代には平塚、名古屋、新宿などに駅ビルができました。さらに、1997年に国鉄は民営化され、JR東日本では2000年に中期経営構想で「ステーションルネッサンス」を発表し、「通過する駅から集う駅へ」をキャッチフレーズに改革に取り組みました。

1997年にアトレ恵比寿、2002年にはアトレ上野が誕生し、本格的に駅と一体化した駅ビルの開発が進められていきます。2005年3月にJR東日本の中では本格的なエキナカ開発の第1号といわれるエキュート大宮が誕生。続く10月にエキュート品川も開業しました。2006年には、東京駅とその周辺エリアを”一つの大きな街”として捉え「東京ステーションシティ」と命名。2011年にJR西日本の大阪駅も「大阪ステーションシティ」となり、複合開発が行われています。

私たちの調べでは、東京圏ではECや通販を除く買物のなんと1割以上が駅で行われています。このように、生活者側からみても駅は消費拠点となっており、一つの市場となっているといって過言ではないでしょう。

私たちは、駅が消費拠点となった背景には女性の社会進出があるとみています。女性・有職は、女性・無職に比べて、通勤動線上である駅でより消費をしています(図1)。駅が商業開発されたことはもちろんですが、女性の社会進出が、駅の消費を盛り上げた一端といえるでしょう。


駅市場(マーケット)の攻略法

では、なぜ駅で消費をするのでしょうか?動線上で便利なだけが理由なのでしょうか。私たちは、その答えがインサイトにあると思っています。駅には特有のインサイトがあり、それが消費に密接に結びついているのではないでしょうか。それを明らかにするために、「駅で買ってしまう」インサイトを調べてみました。調査※1で浮かび上がってきたのは、下記のインサイトです。

■キモチスイッチ:出社時に家モードから仕事モードに、帰宅時にはその逆のモードに、気分を切り替えたい。
■ご褒美:仕事や勉強など頑張った自分をねぎらいたい。
■出合い:単調な日々を打破するような、新しいモノ・コトと出合い、刺激を受けたい。
■個:会社の役職や家族・学校での役割などから解放され、「個」として過ごしたい。

さらに、それぞれのインサイトに伴って購入されるものがあることもわかりました。下記がその一例です。

■キモチスイッチ: 出社時は口中清涼菓子・栄養ドリンク・コーヒー、帰宅時はカフェ利用。
■ご褒美:帰宅時のプレミアムアイス・プレミアムビール。同じカテゴリーの中でも少し価格の高いもの。女性の場合は、スイーツなどの甘いもの。
■出合い:雑貨。他にない個性的なデザインや新商品などのニュース性のあるもの。
■個:カフェ利用。書店での立ち読み。


私たちは、駅の立地特性がこのようなインサイトを生むと考えています。駅は家と会社・学校の間にあります。父・母親から会社員へとモードを変えたり、得意先への外回りの帰りに駅でほっと一息ついたり、モードや行動が切り替わる結節点が駅なのではないでしょうか。駅特有のインサイトをしっかり捉えることで、より消費へと結びつけることが可能になると考えられます。


時間消費と駅

このように駅では便利で手早くモノを買いたいというだけではなく、気持ちを切り替えたいといったインサイトもあることがわかりました。そうしたインサイトは、意外なほど多くの生活者の来店動機となっているようです。


私たちが駅ビルの来店動機を調査したところ、図2のような結果になりました。特に私たちが注目したのは以下の点です。「欲しいモノを見たい、お得に買いたい」動機は約2割にとどまる一方、「自分らしく過ごしたい、価値観の近い人と接したい」動機は最も多く、約4割となっています。モノを買いたいという動機に比べて、「自分らしく過ごしたい、価値観の近い人と接したい」動機は2倍になっており、来店動機として主流になっていることがわかりました。


また、そうした来店動機があるためか、想像よりも滞在時間が長いこともみえてきました。女性20~30代・有職者を対象とした、平日会社帰りの駅ビル利用の調査※2では、滞在時間は平均約50分という結果でした。平日の会社帰りにも関わらず50分を過ごすというのは意外にも長いのではないでしょうか。さらに、買い物意欲の有無以上に、滞在時間の長短が購入率や購入金額に影響することもわかりました(図3)。


これまで、駅といえば、必要なもの・欲しいものを手早く購入できるというイメージだったと思います。しかし、「過ごしたい」という来店動機が主流となったり、平均で約50分は滞在したり、駅は時間消費の場としても機能しているようです。インサイトをつかんでモノを売るだけではなく、トキを過ごしてもらう場としての活用も考えられます。


このように、駅のマーケットを攻略するには、駅特有のインサイトをおさえるとともに、いかに「過ごしたくなる」ような売場や店舗を作れるかも重要なのではないでしょうか。


※1  ジェイアール東日本企画「エキシューマー・インサイト調査 (2008)」調査対象は駅で日常的に買い物をする首都圏生活者
※2  ジェイアール東日本企画「駅ビル回遊行動調査 (2017)」調査対象は1都3県居住の20~39歳有職女性(自由・自営業等除く)、平日の会社帰り・一人での駅ビル利用時

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松本  阿礼(まつもと  あれい)
株式会社ジェイアール東日本企画  駅消費研究センター  研究員
駅商業施設の開発調査や駅ビルを中心とした販促のプランニングに従事した後、現職。駅・駅周りの消費や、都市生活者の行動・心理を研究し、これからの商業施設づくりのヒントを提言している。共著に「移動者マーケティング」(日経BPコンサルティング)。一級建築士。

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