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美意識が問われる時代

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年1月号『美意識』に記載された内容です。)


美意識の高さは、会社を救う

今後、消費者や社会が会社としての美意識の高さを意識することは、ますます当たり前になっていくのではないだろうか。「タイム」誌の2019年 「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたGreta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)さんが国連気候行動サミットでスピーチを行った頃に前後し、ファッション業界では時代の変化を象徴するような出来事が伝えられた。

それは、世界57カ国で815店舗を展開し、日本でも一大ムーブメントを巻き起こした、ファストファッションブランドのFOREVER21が日本から撤退、米国でCHAPTER11の適用を申請するというニュースである。


同ブランドとH&MやZARAなど他のファストファッション企業と明暗を分けたのは、商品力だけではなく、社会に対する責任の捉え方、つまり美意識の差であったように感じる。ファストファッションから人々の気持ちが離れたことはもちろん、サスティナブルな取り組みを怠ったこと、不当労働行為や著作権侵害、文化差別などが表面化しても、変わろうという姿勢を示さなかったことでさらに消費者の気持ちとの温度差ができたのではないだろうか。


美意識とはなにか。

経済や社会において大事な美意識、美しさとは、やさしさではないだろうか。使い手や環境、他者、他国、世界などに対するやさしさこそが美しさに繋がるのではないだろうか。美しさに関連するものとして、デザインがある。


近年、デザインとはおしゃれなもの、かっこいいもの、先進的なものなどを指すことが多くなっているが、本来、デザイン、特にプロダクトデザインとは使い手に対するやさしさ、使いやすさ、わかりやすさなど機能美からくる部分も多かった。


キッコーマンの醤油卓上瓶などのデザインで知られる日本デザイン界の巨匠であり仏僧のGKデザイングループの故・榮久庵憲司氏は「『自利利他』(悟りを開くために修行すること、他人の救済のために尽くすことの2つを共に行うこと)の思想がインダストリアルデザインにはあった。インダストリアルデザインっていう世界は、他も利すれば自らも利するもの。」と言っていたが、この発想こそ、美意識でありこれからの日本や世界で重要になるのではないだろうか。


美意識の高い国 独り勝ちしない精神

国連発表の世界幸福度ランキングで8年連続トップ3に入っているデンマークでは、「独り勝ちしない」という精神が根付いている。例えば、世界的に注目を集めているNew Nordic Cuisineだが、予約困難になったレストランでは、自店が満席の時は、同じ価格帯、近いコンセプトでやっている他のレストランを紹介してくれる店が多い。


また、最近デンマークで話題なのが、教会をリノベーションしたコミュニティースペース「absalon(アブサロン)」。日本でも人気の「flying tiger(フライングタイガー)」創業者のレナート・ライボシツ氏が教会を買い取り、リノベーションしてはじめたのだ。


7時~24時(金・土は26時)までコペンハーゲンに住んでいる人はもちろん、旅行者でも訪れることができ、使用者が思い思いに自由な時間を過ごすことはもちろん、ヨガやダンスに卓球、ランニングなど様々な講座も開催されている。一番の特徴がディナータイム。


コミュニティーキッチンとして50kr(1kr=約16円なので約800円)というデンマークでは破格の金額でディナーを提供している。この仕組みが一風変わっていて、訪れた順に8人がけの大テーブルに座っていく。そして、8人揃ったら、テーブル毎に料理を取りに行く。


つまり、友人と2人で行けば他6 人は知らない人たちと一緒、1人で行けば、7人の知らない人と大皿料理を囲むことになる。一つの皿の料理をシェアすることで自然に会話が生まれ、食事をするうちに緊張もほぐれ、会話も弾むようになっていくそうである。


大人数でシェアするので賑やかで、どこかあたたかさがあり、空間全体に優しさを感じることができるという評判である。ライボシツ氏によると、運営自体はカツカツのようだが、このように社会的、経済的に成功を収めた人が社会に還元するのはデンマークでは当たり前のことなのだという。


美意識の輪を広げる

協力しあうこと、他者へのやさしさや思いやりが、日本、そして、世界には必要ではないだろうか。そして、それこそが各人が大切にしなければいけない美意識ではないのだろうか。


美意識とは、日々磨くものである。世界は広い、知らなかった世界を知ることで美意識を磨き、磨いた美意識で世界に還元していくことが、今年の私の課題である。2019年には筋肉は裏切らないと書き、運動を続けていると気持ちが前向きに整ってくる。培った美意識も、より楽しい社会を作っていくための礎となるだろう。


社会を作るというと大袈裟に聞こえるかもしれないが、16歳の少女が世界を動かし、1人1人の思いがやがて社会を動かす力になることを証明してみせた。始めるなら今!今日より昔には戻れないのだから。今やらなくていつやる、そろそろ変わるべき時代がきているのだから、見て見ぬふりはせずに、それぞれの美意識を大事に前に進もう。




吉田 けえな(よしだ けえな)
ファッション、ライフスタイル、コミュニケーションディレクター
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター。 PR会社や百貨店のコーディネーター、雑貨ブランドのディレクター兼バイヤーなどを経て渡米。NY を拠点に世界中で、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事に、バイイングやリサーチを行う。現在は帰国し、商業施設のプランニングアドバイスやポップアップショップの企画立案、デザインイベントやカンファレンスの運営など多岐にわたり、活動中。

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