【人の熱量にハマって】ヤッホー転職体験談

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年3月号『恋に落ちる、沼にはまる 沼消費とは何か』に記載された内容です。)


ヤッホーとの出会い

会場に入ると、そこには爆笑する多くの人たちと、高く積み上げられたビールの空き缶。何事が起きているのだろうと衝撃を受けたのを覚えている。それは2016年の春先だった。


私は当時勤めていた企業でプロデュースしていたカンファレンスの登壇者を探していた。おもしろいイベントはないか、ユニークな登壇者はいないか、イベントチケットサイトを流し見していると、「ぷしゅ よなよなエールがお世話になります」というタイトルが目をひいた。


どうやら明日「ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)」という長野のクラフトビールの会社が本の出版記念講演会を行うようだ。ちょうど予定も空いているし、確かこの会社、ちょっとおもしろかったような気もする。


井手という社長がどんな人かあまりよくわからないけれど、とりあえず講演で話せる人か確認しに行ってみようかな。特に大きな期待をせずに当日会場へ向かった。


冒頭のシーンはその時のものだ。なんで出版講演会なのにこんなに大爆笑?ビール会社の本の講演会とはいえ、こんなに飲む?というくらい缶が積み上げられていた。人によってはこんなに飲んだよ!とイベント中にもかかわらず、登壇中の井手に手を振ってアピールをしている。


全国から集まったヤッホーファンとこの会社の中の人との距離感の近さは一体なんなんだろう。不思議な気持ちに包まれたまま会場を後にした。


出版パーティで本を購入し、サインをもらった。本はとんでもなくおもしろかった。本当に事実なのだろうかと思うようなストーリーの連続。ヤッホーはその昔、地ビールブームのあとにとても辛い経験をした。なにをどうやっても全然ビールが売れず、最後にわらにもすがる思いでインターネットでビールの販売をして生き延びた。


楽天が主催する楽天大学で教わったチームビルディングを会社に取り込み、人を育てていった。初期からいるメンバーには反発を覚えて辞めていく人も多くいた。


辛い時を乗り越え、少しずつ売上が伸びていったときに支えてくれたのは自分たちのファンということをとても強く認識していて、とにかくファンを喜ばせたいという気持ちでいっぱいすぎて、それが仮装につながったと書かれていた。


え!なんで!?なんでそこで仮装になっちゃうの!?と思わずにいられない、どうにもぶっ飛んだ発想が愉快、痛快すぎた。本を読み終えた時には、もう登壇のオファーは確定していた。ただし、この時はまだ多少共感するレベルで、まだファンではなかった。


ファンとのコミュニケーション
私自身は正直に言うと、ビールが特別好きなわけではない。お酒は大好きだが酒が好きで飲むと言うよりは、酒の場のコミュニケーションが好きなのだ。そんな私が完全にヤッホーの虜になる出来事が起こる。


2017年5月に軽井沢のキャンプ場で開催された「よなよなエールの超宴(以下、超宴)」というファン向けのビールキャンプイベントだ。前年秋のカンファレンスに井手に登壇してもらって以降、たびたびメディアにも登場するヤッホーのことは、なんとなく意識していた。人気がありすぎて発売開始直後にチケットがなくなるという噂のイベント、そこで何が行われるのかにとても興味があり参加を決めた。


イベント当日、会場に着くと若いスタッフたちが楽しげに受付をしている。奥に進むと装飾されたステージにお揃いのイベントTシャツを着る参加者たち。会場に到着するなり限定Tシャツを購入し、すぐに着ているのだ。


イベントが始まると、妖精に扮した社員が踊って出てきたり、ビールをたくさん積んだ車に井手が乗って出てきたりした。あたかもジャニーズのライブと勘違いするようなファンの声援。「待ってたよ~!」とみんなが笑顔で迎える。


来場者1000人で一斉にカンパイしてスタート。ライブに、美味しいごはんに、ビールの教室にと、コンテンツがたくさんあり、あっという間に時が過ぎた。ファン同士も同じ時間を共有するなかで仲良くなっていった。


このイベントで私はヤッホー沼にハマった。何がよかったのかを振り返ると、ひと言で言うと「人の熱量」だった。ファンは東京をはじめとして全国から集まってくる。ビールを飲むためだけではなく、人に会うためだ。


私も過去に音楽フェスやビールフェスに参加したことはあったが、それはあくまでアーティストのライブを楽しんだりビールを飲んだりすることが目的だった。しかし、ここは違った。


ビールを飲むことや音楽を楽しむのと同列に、ヤッホーの社員や同じヤッホーファンと乾杯して楽しむことを目的に来ている人が大勢いた。そこに圧倒的な衝撃を受けた。ヤッホーの社員もみな楽しそうにイキイキとしている。


ビールグラスを手に、ファンのところを乾杯しに回っていた。この人たち、本当に心から仕事を楽しんでいる。その熱量が溢れ出ていることが、どうにもうらやましかった。


ヤッホーの組織と働き方
超宴以降、とにかくヤッホーの組織づくりの話が聞きたくて、井手の講演にたくさん参加した。人からはストーカーとも言われ、井手本人からは2017年に社外で一番会ったのは私だと言われるくらいだった。そのくらい何度聞いても井手の話はおもしろかった。例えば、ヤッホーの組織構成はとてもフラットだ。


社長の他にはユニットディレクターがいて、あとはプレイヤーというシンプルな構成。今でいうティール組織を自然と作っていた。社内で互いを呼ぶ際もニックネームで呼び合う文化だ。社長の井手のことも皆「てんちょ」と呼ぶ。


年齢が上・下だから、男性・女性だから、そういった枠の中での関係性はない。自分がこれまで働いてきた環境とは全く違う組織づくりをしていた。


みな自立し、フラットに意見が言えて議論ができる組織に強く共感を覚えたが、やっぱり何度聞いてもどうしてそれが会社組織で実現できるのか、理解できなかった。私がいる環境ではどう考えても再現性がないと思った。根本の根本まで聞いて知れば、何かヒントが見つかるのではと思い、さらに追いかけた。


なぜそんなにも繰り返されたかというと、ヤッホーの切り口の多さと露出の多さだった。ある時は組織の作り方、またある時はブランディングにマーケティング、さらには広報と幅広いのにそれぞれがストーリーを持っている。


そしてそれを惜しげも無くどんどん出してくるし、遠慮も謙遜もなく、ただ自分たちのミッション・バリューに紐づいた活動を愚直に行っていることが伝わってきた。


知的な変わり者、入社する
ヤッホーは「知的な変わり者」をブランドイメージに置いている。私も知的な変わり者でありたいし、おこがましいとは思うが、すでにちょっとその片鱗はあると思っていた。


沼にどっぷり溺れているより、沼からちょっと這い上がって新しい沼を自分で作ることができたらさらにおもしろいかもと思い、昨年入社した。


実際に日々その環境を体感してみて、働き方のオープンイノベーションがヤッホー流組織術からも作り出していけると感じているし、働くことは楽しいことだと改めて実感している。今は私が沼にハマるきっかけとなった春の超宴の準備をしている。ビールが叶える幸せな世界の創造をファンと共にしていきたい。




田  美智子  (でん  みちこ)
2018年ヤッホーブルーイング入社。三越での外商やオイシックスでのwebマーケティング・SNS運用、トレタでの広報の経験を生かして現在はファンコミュニティのオーガナイザー。ヤッホーブルーイングには社長の井手が「2017年に最も多く会った社外の人」と認識するほど井手の講演に通い、熱烈なファン時代を経て入社に至る。人をつなげるプロモーションを得意としており、PRとコミュニケーションについて考えるコミュニティ「でんこラボ」主宰。軽井沢と渋谷の二拠点生活中。趣味は野球観戦と排水口掃除。

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