ASEANのボーダーレスミレニアルに向けたマーケティング戦略

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年2月号『ボーダレスミレニアル東南アジア流』に記載された内容です。)


(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年2月号『ボーダレスミレニアル東南アジア流』に記載された内容です。)


シンガポールの飲料市場トレンド
シンガポールに限らず、東南アジア各国で大きな人口層となっているミレニアル世代。その定義は様々ながら、80年代~90年代に生まれたミレニアル世代は、飲料業界の将来にとっても、大変重要な顧客層と言える。

ポッカサッポロフード&ビバレッジの子会社であるPOKKA Corporation (Singapore) Pte. Ltd.は、シンガポールにおいてPOKKAブランドの飲料事業を展開しており、茶系飲料においてはトップシェアを維持している。ニールセン・シンガポールの調べによれば、シンガポールの飲料市場は2016年まではプラスの成長を続けてきたが、現在、政府による加糖飲料への規制などもあり、炭酸飲料を中心に市場は約5%のマイナス成長となっている。


シンガポールのミレニアル世代の特徴
1)清涼飲料水市場が縮小しているいくつかの要因のひとつに、小中学校を中心とした学校施設において販売される飲料への砂糖レベルの規制が挙げられる。この活動を推進しているシンガポール政府機関であるHealth Promotion Board (HPB)は、2001年に設立され、すでに約20年の歴史がある。このHPBが活動を始めたころに生まれた世代は、現在20才前後、また、当時小学生だった世代は、現在30才前後となっており、HPBの活動と共に育ってきた世代が、現在のシンガポールのミレニアル世代ということになる。したがって、個人差は依然としてあるものの、シンガポールの消費者層の中においては、ミレニアル世代とそれ以前の世代では、飲料の志向が違う傾向にあると考えられる。


2)その他の特徴として、他のアセアン諸国も同様であるが、やはりスマートフォンを活用したデジタルな生活スタイルが挙げられる。シンガポールでは、携帯電話全体の91%がスマートフォンとなっており、近隣のマレーシア(88%)、フィリピン(65%)、インドネシア(60%)などのASEAN諸国と比較しても一番高い。また、気に入ったWebの情報をシェアする際にスマートフォンを使う割合も78%と、こちらもインドネシア(72%)、ブルネイ(60%)、マレーシア(57%)など、他のASEAN諸国を上回っている。筆者のオフィスにおいてもミレニアル世代のシンガポールスタッフに、Webの情報をシェアする場合に何でするか?と問いかけてみたところ、ほぼ100%がスマートフォンと回答した。


3)さらに、シンガポールのミレニアル世代も、他国と同様で、それ以前の世代と比較すると、自分の思うように行動し、その姿をSNSなどを通してうまく世の中に伝えることができる世代のようである。周囲に承認してもらうということに積極的とも言えるかもしれない。筆者が行ったミレニアル世代へのヒアリングにおいては、「インスタ映え」という言葉こそないものの、被写体そのものや、その横にいる自分がどうクールに写り、その姿がどう自分らしく伝わっているかということを意識しているように理解した。


ミレニアル世代を意識した商品づくり
このような特徴を持つシンガポールのミレニアル世代をターゲットとして考えた場合、商品づくりにはいくつかのポイントが出てくる。まず嗜好の部分においては、これまでシンガポールで飲まれてきた伝統的な飲料の砂糖レベルとは一線を引いた、無糖・低糖といった商品が好まれる傾向がある。


次に、商品のパッケージやメッセージなど、見た目にミレニアル世代が好む印象にする必要がある。飲料も自分たちの世代に新たに生まれたものをより好み、さらにそれはミレニアル世代が手にしていて好印象に写るものを提供していく必要がある。伝統的な砂糖レベルの商品は、ミレニアル世代にとっては一世代昔の商品であり、ミレニアル世代が自らSNSで拡散する行動には至らない傾向にある。


デジタル・マーケティングによるミレニアル世代へのアプローチ
1)開発した商品を伝えるためにターゲット層であるミレニアル世代へアプローチする方法は数多くあるが、前述したシンガポールにおけるミレニアル世代の特徴を考慮した中で、やはりデジタルでのアプローチは欠かせないものとなる。SNSに関してはミレニアル世代が好む内容・ビジュアルでの掲載が、拡散の速度と幅に影響を与えるため、配慮が必要となる。


2)また、ミレニアル世代に限ったことではないが、デジタル媒体を使うにあたり、商品を知ってもらうところから購買につながるまでの、一連のステータスに合わせた内容での発信が効果的である。ミレニアル世代に対しては、何が新しいのか、何が今までと違うのか、何が自分にとって良いのか、限られたスマートフォンのスクリーンスペースの中で、しっかり伝える必要があり、それが後の拡散行動に影響する。したがって、順を追って効率的に、伝える必要がある。具体的にはAwareness(商品を知る)→Interest(興味を持つ)→Consideration(検討する)→Conversion(購入する)という購買行動のステップにできるだけ沿うようにSNS上のキャンペーンを展開しながら進めていくことが重要であると考える。


3)シンガポールの場合、現段階ではもう一つポイントとなるのは、実際の店舗での売り場をしっかり確保することが重要である。狭い国柄ということもあるが、飲料についてはECの購買は、大変伸長しているものの、まだ大きくない。デジタルなミレニアル世代とはいえ、実際の購買行動は店舗が中心という状況である。デジタルでの情報提供と売り場のケアがバランスよく行われていることが、成果を生むために大変重要な要素となる。


ボーダーレスミレニアルに向けたマーケティング戦略
これまでシンガポールにおけるミレニアル世代にフォーカスしてきたが、当然ながらデジタルなライフスタイルを日常とする彼らの情報拡散は早くて広い。ある日シンガポールに上市した商品に関して、その日には隣国のバイヤーから問い合わせがくるということがよくある。隣国の現地販売員が訪問して商品紹介を行うよりも前に、SNSを見て問い合わせをしてきてしまうという状況である。

 

従って、この世代を見据えたマーケティング戦略においては、エリアの概念を取り払い、ASEAN・アジア全体、あるいは世界といった範囲に広げて展開することを意識する必要がある。

 

つまり、ボーダーレスミレニアル層への商品戦略は、国を超えて受け入れられ、境界なく競争力が発揮できるボーダーレス商品である必要があるということになる。実際にこれを実現しようとなると、嗜好・物価・コスト・為替・法規・宗教・等々、様々な考慮すべき点が出てくるため、従来の発想による商品開発においては非常にハードルが高いものとなる。

 

しかしながら世界的に従来型の飲料が苦境に立たされ、飲料メーカーの収益は決して楽な状況ではないことからも、ボーダーレスミレニアルをターゲットとしたマーケティング戦略が、一つの方向性を示唆していることは明らかである。


ボーダーレスミレニアルの変化への対応と今後
ひとくちにボーダーレスミレニアルといっても、すべての年代が同じ感覚を持っているわけではなく、やはり80年代初頭生まれと90年代後半生まれではだいぶ異なると思われる。また、トレンドに敏感な分、好むものも刻々と変化していく。それぞれの市場において、ターゲットとする年代の特徴を十分とらえたうえで戦略を考え、変化に対応しながら遂行していくことが、ボーダーレスミレニアルにアプローチする上で一つのポイントになると考えられる。


また、デジタルによるクロスボーダーな情報収集により、ボーダーレスミレニアルの嗜好や興味は、たとえエリアや民族が違ったとしても、近い状態へと向かっていると考えられる。それに伴い、展開すべきマーケティングやコミュニケーションに関しても、ある程度均質化の方向に向かっていると思われる。

 

国や地域特有の何かが失われている可能性があることには懸念もあるが、ボーダーレスミレニアルへのアプローチに取り組むことは、ビジネスの効率化の観点からも、今後注目すべきポイントのひとつと考えられる。今後ボーダーレスミレニアル世代が新たなトレンドを生んでいくことは間違いなく、そのトレンドから新しい価値が生まれ続けることを期待したい。

 

吉田  信行 (よしだ  のぶゆき)
POKKA International Pte. Ltd.
Marketing Director
2005年、ポッカコーポレーション(現ポッカサッポロフード&ビバレッジ)入社。
POKKA Singapore(2005年~2006年)、POKKA Australia(2006年~2012年)、ポッカサッポロマーケティング本部海外ブランド戦略部(2013年~2016年)を経て、ポッカサッポロ経営戦略本部ビジネスディベロップメント部(2016年~)との兼務にて2018年より現職。

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