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日本的スポーツの終わりと始まり

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年1月号『スポーツ2019 2020』に記載された内容です。)


日本的なマネジメントの一時代の終わりを感じる事柄が続いています。

それはスポーツ界もしかり。いくつものスポーツ組織やリーダーたちの問題が露見しました。マネジメントの瓦解とも言うべき現象に、驚きつつも、やはりそうかという印象でもあります。


テレビで騒がれたような話だけでなく、現場も問題だらけです。少年スポーツの現場でも、論理的には考え難いような指導がいまだにまかり通っているとか。日本の少年野球の練習、食事、試合について狂っていると考える米国人も少なくありません。


そこには、少年たちの教育や将来は二の次で、組織や管理者の目的達成が優先されるという、おかしくなった日本大企業のようなパターンが見られます。また、陸上選手への鉄剤注射は、粉飾決算ほか手段を選ばず業績をよく見せることに似ているかもしれません。こうした日本的なスポーツのあり方は終わりにした方がよいでしょう。


スポーツマンシップとはかけ離れたような事象が同時多発的に起きている現実を見ると、もはや2020東京五輪だと能天気に言っている場合ではないと思う人も多いでしょう。しかし、これだけ問題が一気に噴出しているのは、改善できる機会が見える化したことでもあり、ピンチはチャンスに転じることが肝要です。


お家芸であるはずのeスポーツで出遅れた日本
エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)がオリンピック正式種目になる可能性が高まっているそうです。2019年の茨城国体でeスポーツの大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」が開催され、2022年に中国・杭州市で開催予定のアジア競技大会では正式メダル種目になることが決まっています。


日本のお家芸ともいうべきコンピューター・ゲームのグローバルなスポーツ競技化に、日本社会が湧いているかというと、そうでもありません。むしろ、諸外国の後塵を拝しているのが実情です。


eスポーツ部をつくろうと生徒が学校に相談すると、反対されたという話を多く聞きます。ゲームなんてスポーツじゃない、と理解を示さない先生が大半だから仕方ないと思う読者の方もいるでしょう。


しかし、世界ではeスポーツはメジャーなスポーツになっているのが現実です。米国やオセアニアでは高校スポーツとして盛り上がっています。そこで、遅まきながら日本も「第1回全国高校eスポーツ選手権」の開催(決勝は2019年3月)が決まり、eスポーツ部発足支援プログラムも始まりました。出足は遅かったのですが、日本のゲーマー人材は豊富で、プロでは世界大会優勝者も出ています。これから巻き返しも可能でしょう。


これからのスポーツと日本
課題山積みの日本スポーツ界ですが、これをバッシングするだけでは前に進めません。


各スポーツ界を聖域化していたのかもしれません。各組織の大先輩である指導者・幹部を聖人視し、絶対化していたのかもしれません。そもそも、どこの国でもスポーツ界は問題だらけです。日本だけOKなわけがありません。


そういう意味では、組織の問題やeスポーツの出遅れなどの課題は、何をするかが明らかになってきたと捉えてもよいでしょう。そこで我々マーケティングやビジネスに取り組む者たちの出番です。スポーツ人だけでは今の時代には無理があるでしょう。我々がいっしょにチームを組んだり、サポートしたり、できることは多々あるでしょう。


例えば、楽天球団が新規参入に備えて先輩球団をヒアリングした際に、事業上のコンペティターについて問うと他のプロ野球球団名をあげるが他に言及なく愕然としたというエピソードをうかがったことがあります。その後、楽天はナイター来場は居酒屋も競合など、マーケティングはじめビジネス戦略を考えたといいます。


もっとも、冒頭に述べたように、日本のビジネス界はスポーツ界と同様にマネジメントの危機を迎えています。eスポーツへの出遅れは、ベンチャーで米国だけでなく中国にも突き放された、新事業に疎い日本のビジネス界とも共通します。我々も心機一転、これからの時代をつくる努力が不可欠です。


なお、昨年10月に開幕したTリーグのチェアマンは、日本初のプロ卓球選手でドイツなど海外リーグでプレーした後に、卓球用品メーカーVICTASの社長・会長を務めた松下浩二氏。経営経験とともにビジネス界との交流が広い松下氏は、「世界一の卓球リーグをつくる」という目標を掲げ、中国はじめ海外市場を狙っています。内弁慶でも国内主義でもない新しいリーダーシップが生まれつつあることは明るい兆しです。


新時代へのスポーツの転換と適応は、2020東京五輪までに実行する必要があります。これは、日本の将来をつくっていく上での、直近かつ恰好のテーマと言えるでしょう。



本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)本荘事務所 代表/多摩大学大学院経営情報学研究科(MBA)客員教授
新事業を中心に、イノベーションやマーケティングなどの経営コンサルティングを手掛ける。日米の大企業、ベンチャー企業、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。500 Startups、始動ネクストイノベーター、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、 コミュニティづくりに取り組む。

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