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良い車が生まれるヒント:日本カー・オブ・ザ・イヤー<後編>

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年10月号『賞の魔力』に記載された内容です。)

良い車が生まれるヒント

吉松 未来の車を語る上でのキーワードは、CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)と言われています。そのうちのA(自動運転)とS(カーシェア)は、やはりカー・オブ・ザ・イヤーに影響してくるものなのでしょうか。


荒川 新しい分野で車という商品になっていなくても、サービスや技術に対して、焦点を当てるために、賞としては実行委員会特別賞というものがあります。時代の流れに応じて注目すべきことにも変化があるわけですから、賞についてもその流れに対応していく必要があると思っています。
 また、今はスモールモビリティ賞というのがあります。これは、結果的にいまは軽自動車しか対象になっていませんが、実は新しいスモールモビリティ、シティコミューターなども将来はここに入ってくるはずです。
 そういう軽自動車以外の小さいコミューター的なものも評価の対象にしていく受け皿は既にできています。自動運転とカーシェアに限らず、コネクティッド(C)、エレクトリック(E)関連に関しても、もちろん賞典の対象になって来ます。


吉松 そうですか。そういう流れが出てくることは自然ですね。


荒川 そうですね。そうではありますが、新聞やテレビなどのマスメディアがCASEで夢のような世界が広がるとか、明日にでも自動運転の世界がくるとか、安易な報道がありますね。そういう意味で、私たちがもっと深掘りした正確な情報を届けていかなければいけないとも思っています。それは私たちの責任です。


吉松 CASEのEでいくと、電動化と電気自動車を混同しているメディアも多いと思います。


荒川 そうですね。後はEVの話になるとありがちなのが、『EVになること=車の家電化が進むこと』の考え方になりがちです。別にEVだろうがガソリンエンジンだろうが楽しい車は楽しいのです。そのへんの誤解があると思います。
 そうなると車はどんどん趣味の世界から離れていって、家電化してしまうことになりますが、車はそう簡単に家電化はしません。電気で動こうが、水素を使おうが、楽しく夢のある製品であることに何ら変化はないと思っています。
 ただ、EVやPHEVもそうですが、どうしても政治的・経済的な問題が絡んでくると思います。EVであれば税金の恩恵を受けられるとか、PHEVが実態以上に燃費が良いという計算をされたりということがあります。もちろんこうした政治的な施策で物事を普及させることが必要なこともあります。
 しかし、それが過剰になると商品として、ゆがんだものとなります。そのあたりは注意深く見て行く必要があると思っています。過剰に技術をほめたたえるのではなく、いかに正しく理解して一般ユーザーに伝えるかです。


吉松 流通の意見というのは、自動車に限らず、売りやすいものという風になります。今のお客様が今日ほしいものよりも、一歩上をいかなくてはならないと思いますが、日本カー・オブ・ザ・イヤーはそのあたりはどうですか。


荒川 良いメディアあって、良いものを良いときちんと主張しないと、そもそも良い車は存在しえないと思っています。その良い車を日本マーケットに送りだすために、志を持って運営していきたいですね。


吉松 メディアには、読者に良い車とは何かを伝える役割と、メーカーに良い車を作る後押しをする役割の、両面があるんですね。ところで車ユーザーの高齢化についてはどうですか。


荒川 そうですね。私が思うにはメーカーは若い人の車離れに注目しすぎだと思います。例えばある車のユーザーの平均年齢は65歳です。それを50歳くらいにしたいと話がありました。
 それは理解できますが、そこにフォーカスしすぎると、今いる65歳中心のユーザーも失ってしまいます。現在のユーザーのことも大切にしないといけません。そのあたりのさじ加減は難しいでしょうね。雑誌作りも同じです。
 雑誌もどんどん読者が高齢化してきて、もっと若くしたいという声もでています。しかし、いきなりガラッとコンセプトを変えてしまったら、今読んでくれているユーザーも失ってしまいます。
 私自身、モーターマガジンの編集長を14年くらいやっていましたが、私が編集長に就任したときの読者層の平均年齢は50歳くらいでした。そしてもっと若い読者を獲得するようにというまわりの声がありました。
 しかし、1年、2年たっても平均年齢は50歳のままでした。1年で平均年齢も1歳上がれば失敗ですが、現状維持というのは成功なのです。ちゃんと50歳で一定しました。
 そういう風にみていれば、50歳中心の読者である前提でずっと作っていけばよいのです。若い人、若い人と言い過ぎると思います。これからの高齢化社会では自分の首を絞めることになりかねませんね。


前編はこちらから>>https://www.jma2-jp.org/article/jma/k2/categories/509-mh181004

荒川  雅之 (あらかわ  まさゆき)
株式会社モーターマガジン社  取締役 編集局長
1982年、モーターマガジン社入社。その後、自動車誌の編集部を歴任し、2002年、Motor Magazine編集長就任、2016年より現職。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会実行委員長には2015年に就任し現在4期目。

インタビュアー : 吉松  敏也  (よしまつ  としや)
丸の内ブランドフォーラム ディレクター
多摩大学大学院 客員教授

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