サントリー名誉チーフブレンダー、「賞」を語る

「ディスティラー オブ ザ イヤー」

片平 輿水さんはウイスキーの作り手として今までいろいろな賞をお取りになってきているかと思いますが、本当にうれしかった賞はありますか。


輿水 インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC= International Spirits Challenge)でいただいた「ディスティラー オブ ザ イヤー」《註》でしょうか。これは、一製品ではなくてその会社が出しているすべての製品、それも普通に市販されている製品が審査対象になります。
 ブレンディッドウイスキーからシングルモルトまですべての領域で良い成績を取らないといけません。メーカーの真の実力が問われます。審査員は本場の大手ウイスキーメーカーのマスター・ブレンダーたち10人から12人ほどで、彼らがすべてをテイスティングして評価します。毎年多くのメーカーから500本程度が出品されますが、審査員はそれを4日かけてすべてをテイスティングしますので大変です。


片平 その「ディスティラー オブ ザ イヤー」はいつお取りになりましたか。


輿水 最初2010年にいただいて、そのあと2012年、2013年、2014年と3年続いていただきました。


片平 すばらしいですね。


輿水 審査員は私が一目も二目も置く本場の優秀なブレンダーたちです。その人たちがブラインドでテイスティングして、最後は皆で集まって評価結果を議論し全員一致で決定されます。そこで選ばれたというのは、やはり素直にうれしいです。


片平 審査員が全員一致で、というのは凄いことですね。


輿水 そうですね。とても厳しいよくできた賞だと思います。


片平 お取りになる以前は目標としてこの「ディスティラー オブ ザ イヤー」をお取りになりたいというのはありましたか。


輿水 はい。2004年に審査員に選ばれて内側からISCを見てきましたが、これはメーカーとして取らなくてはいけない賞だと思っていました。なかなか取れませんでしたが。


受賞後の変化

片平 お取りになって何か変わったことはありますか。


輿水 新製品を出すときに、それまで以上にしっかりしたものしか作れなくなりましたね。そうして生まれたのが白州25年や響12年です。


片平 部下の皆さんの反応はいかがでしたか。


輿水 もちろん喜んでいました。でもただうれしいというのではなかったですね。1980年代後半からずっとウイスキーのダウントレンドが続いていて年々売れなくなっていました。
 お客様が買ってくれないということで自分たちの存在意義が見出せなくなっていたときに作り手として世界が認めてくれたというのは大きかったです。受賞が皆のやる気を下支えしてくれました。


片平 海外の反応は。


輿水 海外の知り合いも皆喜んでくれましたが、私は自分からあまり賞の話をしないので「なぜ言わないんだ」、「もっと自分から語らないと」と言われます。最近は講演などでも「ジャパニーズウイスキー」の話をするときに受賞のことにも触れるようにしています。


片平 輿水さんは2015年には「ホール オブ フェイム」を受賞され「ウイスキーの殿堂」入りされましたね。


輿水 はい。これは突然連絡が来て、誰がどこで何を見て決めたのか分からないままにお受けしました。でも過去の受賞者を見ると皆尊敬できる錚々たる方々だったのでその仲間に入れたのは大いに栄誉なことだと感じうれしかったです。


良い賞とは

片平 輿水さんにとって「良い賞」とは。


輿水 やはり審査員の質が一番大切だと思います。誰に評価されるかです。やはり「この人たちに評価されたい」という方々が審査員になっている賞が「良い賞」なのではないでしょうか。
 それと同時に、審査基準がオープンになっていることも重要です。どこを見ているのか、どこがポイントなのかがはっきりしていてほしいです。それらと関係すると思いますが、「ホール オブ フェイム」の場合のように、過去にどんな人、どんなモノが受賞しているかも大事ですね。


片平 つくづく「賞」って不思議だと思います。賞自体は授賞する人や製品に何も手を加えるわけではない。でも、受賞したとたんに、ユーザーにとっても社会にとっても価値が上がります。特に、本当はいいモノなのに奥に隠れていて誰も知らないというところに光をあてて本来の価値を広く知らせるというのは実はとても意味あることなのではないかと思います。


輿水 そのとおりですね。ウイスキー業界でも、いいウイスキーは顧客が勝手に選ぶ、ダメなウイスキーは売れなくなって勝手に消えて行く、という考え方もあります。
 でもそれだけではなく、作り手の目利きが「これは凄い」とお墨付きを与えることにより、より質の高い製品が生まれてくるのは間違いありません。ちなみに、ISCでは「(販売するのは)薦められない Not recommended」という評価もあります。業界の内側から業界を良くしていこうという思いが込められているのだと思います。


片平 それにしても、ジャパニーズウイスキーは国内外で大変な人気ですね。


輿水 とてもうれしいことですが、急にどっときました。もっと穏やかに増えてくれたらと思いますが(笑)。


片平 今日はどうもありがとうございました。


(インタビュアー : 片平秀貴 本誌編集委員長)

《註》2009年までに、サントリーは響30年が2004年、2006年~2008年の4回にわたって単品の最高賞である「トロフィー」を受賞したのをはじめ多くの「金賞」を受賞した。2010年に「ディスティラー オブ ザ イヤー」初受賞。受賞暦の詳細はこちら
https://www.suntory.co.jp/company/award/


サントリースピリッツ株式会社
名誉チーフブレンダー  輿水 精一(こしみず・せいいち)
1949年生まれ 山梨県出身
1973年 山梨大学工学部発酵生産学科卒サントリー入社 多摩川工場配属
1976年 中央研究所、酒類食品研究所でウイスキーの貯蔵、熟成の研究に従事
1985年 山崎ディスティラリー(現山崎蒸溜所)へ(貯蔵担当)
1991年 洋酒研究所ブレンダー室へ
1996年 ブレンダー室主席ブレンダー
1999年 ブレンダー室チーフブレンダー
2014年 名誉チーフブレンダー
2015年 Whisky Magazine誌の『HALL of FAME』入り現在にいたる
【現在の活動】
関西大学客員教授
山梨大学客員教授
やまなし大使
株式会社ハセラボ  代表取締役副社長


インタビュアー : 片平 秀貴  (かたひら  ほたか)
丸の内ブランドフォーラム 代表
元東京大学大学院経済学研究科教授(1989年~2004年)。「丸の内」ブランド再構築のお手伝いがきっかけで2001年丸の内ブランドフォーラム創設。「変人×職商人(しょくあきんど)が社会に笑顔をつくる」の信念のもと、同志とブランド育成の勉強と実践を続けている。
趣味は仕事とラグビー。
2010年から本誌編集委員長。

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