Me Time ~孤独と自由を自分のものにする~

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年9月号『ふらり。 …隙間と自己調律』に記載された内容です。)

もう何十年も前になるが、私が中学の頃は、トイレに行くのも仲の良い友達と手をつないで、といった光景が良く見られた時代だった。

仲良しグループのつながりは強固で、放課後、休日なども予定を確かめ合う、そんなグループも多数存在したが、私は群れることをむしろ避けていた。


友達が少なかったわけではないが、いつも一緒、という状態にいる友達は、そういう意味で居なかった。一人っ子だったせいも相まって、精神的に自由であることは、私にとって大事にしたいものの一つである。


そんな人たちにとって、今は過ごしやすい世の中になってきたのではないだろうか。おひとり様ブームはいまだ健在で、飲食店も一人用カウンターを増やすなど、一人で楽しめる場所も増えたと思う。


さて、現在私は単身でシンガポール在住、私の夫は東京在住である。シンガポールに来て、平日は別として、週末は驚くほど時間があることに気付いた。日曜日の同じ一日が、家族といる日本と、一人でいるシンガポールでは全く違う長さに感じる。その時間が、Me Timeであり、Me Timeを自由にデザインする喜びも感じるようになった。


友人もある程度限られる場所で(友人の多くは家族で在住)、日本で時間を使っていたお稽古事も無く、あるいは親の様子見からも少し解放され、自分一人の時間の過ごし方として、そして思いもしなかった場所で時間を使ってみるには格好の環境が用意されていたからだ。


このような視点で、シンガポールと言う街を見てみると、東京と負けず劣らず、お一人様にとって過ごしやすい街、そしてふらりと出かけて時間を使うことにとてもウエルカムな街であることに気付く。


シンガポールは街のサイズもコンパクト。何よりも安全で、人工的にクリンリネスが整えられており、ふらりと何処かに出かけるには格好の街なのだ。また、プライベートタイムでは、内着(家の中で着るリラックスウエア)と外着の境目が無い人が多い。だいたい一番よく見かける靴がビーチサンダルなのだ。


何気なく外に出るのに「支度をする」という感覚は極めて薄い。また、この街のベンチの多さには、いつも驚かされる。ふらりと出かけても、一息つく場所には困らない。休日などは、何をするでもなく、ベンチに座ってスマホをいじったり、本を読んだり、ぼーっとしたりしている人達がたくさんいる。こんな環境が、「ふらり」を後押ししているように感じる。


そんなシンガポール在住の数人に、彼らのMe Timeの過ごし方を聞いてみた。男女ともに一定数見られたのは、足裏マッサージ。とにかくどこでも見かけるので、それこそちょっとお茶でも、と同じような感覚で行くようだ。


女性には、足裏と同様どのショッピングモールにも必ず入っているペディキュアとネイルショップもふらりと入れる場所のようだ。ただサービスやテクニックが雑なので、ローカルのネイルショップでは日本人はあまり見かけない。


男性に多い、電動スクーターでウロウロする、という過ごし方もある。シンガポールは蒸し暑いので、15分も歩くと汗びっしょりになる。そこで活躍するのが電動スクーター。気軽な足替わりとして、街では本当によく見かける。日本では道路交通法の関係で制限されているが、シンガポールではLTA(陸上交通庁)が定めたルールの下で走ることができる。


コンパクトなので、駐車、駐輪といった気を遣う必要は無く、ちょっと店に寄るという時などは折りたたんで持ち歩いているようだ。MRTやバスなど公共交通機関も非常に便利に整備されているが、ヘルメット要らずの気軽さと、自由に動き回れ、汗をかかないという心地よさを両立するこの電動スクーターは、シンガポールでは大人気である。


私の場合のMe Timeは、例えば教会のミサ。私はクリスチャンで洗礼も受けているにもかかわらず、東京では時間が無いことを理由にすっかりご無沙汰していた。こちらに引っ越して、たまたま敬虔なクリスチャンである友人から、いくつか教会を教えてもらって出かけてみると、これが意外に楽しめる。


日本も欧米も、ミサで歌う聖歌はある意味まじめに厳かに歌うのだが、シンガポールではメロディそのものがポップソングのように編成されているのだ。明るくテンポが良い。これはプロテスタント教会のミサでも同じらしい。それから気が向けば時々ミサに行くようになった。


また、クリエイティブシンキングなどのイベント。スタートアップやビジネスオーナー向けのネットワーキングイベントも、数多く、非常にオープンに誰でも受け入れるところが多い。


「日本に居たら、まず行かないな」、と思うようなイベントも、こちらに居るとちょっと出かけて見ようか、という気になる。そう思って出かけてみたあるイベントで、たまたま気が合う人と知り合う時などは、元々の期待値が低いだけに、意外に意味ある時間を過ごしたような気になるものだ。


思えば東京では、「特に目的もなく出かけてみる」ということはほとんど無かったように思う。一人でふらりと出かけて見る景色やインプットされるものは、前述のイベントと同様、事前の期待値が無いからすべてが自然に心地よい。少しの孤独と自由な時間が、自分を癒してくれるのだ。




松風  里栄子  (しょうふう  りえこ)
株式会社センシングアジア    代表取締役
博報堂コーポレートデザイン部部長、その後博報堂コンサルティング  執行役員、エグゼクティブマネジャーを経て、2014 年、アジアへの海外進出支援を行う、センシングアジアを創業。海外市場参入時の事業戦略・事業計画・マーケティング戦略と実行支援、コーポレートブランド戦略、CMO、マーケティング組織改革、M&A、ターンアラウンドにおけるブランド・事業戦略構築、新規事業開発で多くのコンサルティング実績を持つ。

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