「無理上等」という勢いと、構え

シリコンバレー活用に挑戦する日本の企業たち
今、世界中がシリコンバレーを活用しようと奮闘し続けている。

日本大企業も数多くシリコンバレーに進出し、新規事業や技術獲得、情報収集やこれらを促す投資の活動などを行っている。


しかし、効果的なシリコンバレーの活用はどこの国の企業にとっても難しいが、日本企業の多くにとって特に難しい。海外企業との有望なスタートアップをめぐる熾烈な競争、スタートアップのスピード感・価値観との大きな相違、現地で意思決定できない組織構造など、シリコンバレーの日本企業は多くの課題に直面している。多くの日本企業の話を聞くと絶望的な印象にもなりかねない。


そんな状況を打破しようと、私はスタンフォード大学で展開しているStanford Silicon Valley – New Japan Projectは日本企業とシリコンバレーが双方にお互いを活用しあえるプラットフォームを展開している。そこで事例を調べ、持続性のある人脈ネットワークを開拓していくうちに、実は何社かの日本企業がが、明確なビジョンを掲げ、上手なシリコンバレー活用の道を歩んでいることがわかった。


そこでメディア企業のイシンと一緒に毎年スタンフォード大学で開催しているサミット「Silicon Valley - New Japan Summit」に、シリコンバレーで上手くいっている日本企業やシリコンバレーのスタートアップと一緒に協業している日本企業との対談や、シリコンバレースタートアップと一緒になって話をするパネル、および、目玉であるシリコンバレーのスタートアップ60社以上とのビジネスマッチングの機会を提供している。このサミットから、注目すべき日本企業の事例をいくつか紹介したい。


スタートアップとオープンに協業する「ホンダ」
シリコンバレーで脱自前主義に舵を切り、いち早く社外のIT分野の技術を取り入れてきたのは、自動車メーカーのホンダだ。リクルート出身の杉本直樹氏(Honda R&D Innovations CEO)の指揮のもと、アップルやグーグルといったスマートフォンアプリのプラットフォームと提携。「Honda Developer Studio」を立ち上げ、アプリ開発者が車内で使えるアプリを開発しやすい環境を整備した。


また、アクセラレータプログラムの「Honda Xcelerator」を立ち上げ、スタートアップに開発費やテスト用車両、エキスパートエンジニアの知見などを提供している。多くのアクセラレータプログラムは出資前提のケースが多いが、ホンダは出資を前提としない。


スタートアップと共同で開発した商品についても、独占契約の縛りは設けない。つまりスタートアップを無理に囲い込もうとせず、オープンかつ良好な関係を構築しているのだ。こういったスタンスがスタートアップに支持され、運転者向けアプリを提供するDrivemodeなど、多数の協業実績が生まれた。現在「Honda Xcelerator」はシリコンバレーだけでなく、トロント、イスラエル、中国、日本へとグローバル展開中だ。ここまでオープンにスタートアップと協業の姿勢を示し、本当の意味でのオープンイノベーションに取り組んでいる日本企業は珍しいし、見習うべきである。


危機感とビジョンを原動力にイノベーションを推進する「コマツ」
コマツは1921年創業、「建設・鉱山機械」というドメインで100年近く事業を展開してきた老舗企業だ。「KOMTRAX」に代表されるように、IT技術を取り込み、進化を続けている企業としても知られている。


世界中にイノベーションのアンテナを張り巡らせているが、最重要エリアはシリコンバレーだ。2014年にはドローンスタートアップSkycatchと事業提携を果たした。この協業では、両者の出会いからわずか4ヶ月というスピードで事業提携に至ったことでも話題となった。


コマツの海外イノベーションを推進するCTO室の冨樫良一氏は「スタートアップとの協業に必要なものは危機感と明確なビジョンだ」と語る。コマツでは自分たちの描く未来を「ビジョンムービー」として映像化し、社内メンバーやスタートアップにも共有している。


ビジョンを映像で示すことで、求めている技術がクリアになり、社内外から良質な情報が集まってくるようになるのだという。ビジョンなくしてシリコンバレーは活用できない、と私はいい切るぐらい重要なことを、コマツは何年も前から実践している。主力事業の新たな付加価値になるような新技術を積極的に取り込むためには経営トップとの強い信頼関係も必要で、これも兼ね備えている。


110億円の現地決裁権を持ち、CVCを本格始動させた「パナソニック」
シリコンバレー進出から20年を経て、2017年に大胆な組織変更に取り組んだのはパナソニックだ。スタートアップへの投資・事業提携を加速させるべく、独立した組織のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「パナソニックベンチャーズ」を設立した。


事業推進のスピード感を高めるため、新体制ではシリコンバレーオフィスに投資判断の権限を委譲した。Presidentの木下雅博氏は「$100 Million(約110億円)の枠内であれば、本社に決裁を仰ぐことなく、投資を判断できる。過去には最短2時間で投資を決めたこともある」と語る。


さらにCVCとしての活動の継続性を重視し、ファイナンシャルリターンも追求している。ファイナンシャルリターンを得るには、筋のよいスタートアップに投資することが必要不可欠だ。そこで、シリコンバレーで強いネットワークを持つインテルキャピタル出身の投資家を採用した。現地のプロフェッショナルで固めた布陣でスタートアップとの協業を狙っている。


今までにない新規事業にチャレンジする「ヤマハ発動機」
楽器メーカーから二輪メーカーへとスピンアウトした歴史を持つヤマハ発動機。そして今、楽器、二輪メーカーに続く「第3のヤマハ」創造に向けて走り続けているのが、シリコンバレー拠点であるYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valleyだ。


2015年にヒト型自律ライディングロボット「MOTOBOT」をシリコンバレーの研究機関であるSRIインターナショナルと共同開発した。わずか6ヶ月で自律走行するところまでこぎつけ、東京モーターショーに出して大きな話題を集めた。世界で誰も作ったことがないこと、やっとことがないことをしようという姿勢の表れである。同社はこれまでにスタートアップ4社への出資を行ったほか、18社以上のスタートアップに物品や関連技術の無償提供を行っている。出資だけでなく、スタートアップを支援する姿勢を貫き、現地で良い評判を得ている。


CEOの西城洋志氏は、シリコンバレーでの日本企業の可能性と課題についてこう語っている。「日本企業は優秀だ。しかし確実性の高い世界で生きてきたから、9割の成功率でないと、チャレンジできない。シリコンバレーでは6割の成功率でもチャレンジする。そして失敗から学ぶ。もっと日本企業は多くの打席に立ち、フルスイングすべきだ」。


シリコンバレーの活用、「無理上等」
シリコンバレーを活用するのは簡単ではない。異なる企業文化で、競争力溢れるスタートアップと協業を探りながら、巨大企業に育ったグーグル、フェイスブックやアマゾンがAIなどのフォロンティアを常に開拓しながら既存のビジネスをディスラプトさせようとする中、アップルのような巨大企業もひしめく地域で、物価が高く、世界中から人材の良いところ取りをするのがシリコンバレーである。


こういうところで日本企業が安易に駐在所を作って数名送り込んで何かの「イノベーションの種」を見つけてくるという手法は成功しにくい。しかし、非常に多くの日本企業はここ30年間、こういう経験をしてきた。そこが「シリコンバレーは無理」という考え方につながる。


「無理上等」という勢いと、本気で構え、過去の失敗から学んで成長した上記の日本企業に勇気付けられる形で今後も本腰を入れて乗り込んでくる日本企業を応援し続けたい。




櫛田  健児  (くしだ  けんじ)
スタンフォード大学リサーチスカラー
ノンフィクション作家、政治経済学者。東京都出身。アメリカンスクール・イン・ジャパン、スタンフォード大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校政治学博士。

「Silicon Valley - New Japan Summit」
Webサイト:https://svs100.com/event2018-sv/
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