【得意を磨き、得意を広める】ブランドのリ・ポジショニングを考える

国内人口の変化、グローバリゼーション、情報化の進展等、社会や生活者の有り様が変化している。

また、全体的な所得向上が進まず、消費マインドが冷え込む中、市場の多くが停滞を余儀なくされている。この状況で売上を拡大していくためには、直接的な競合からのシェア奪取か、新たな市場・機会の開拓による間接的な競合からの奪取が必要になる。


ただ、その実現の手段として、短期的な効果しか期待できない価格訴求や費用対効果のリスクが大きい新商品の開発以前に、既存の経営資源であるブランドの活用を検討すべきではないだろうか。それは、既存市場を対象にした機能、ベネフィット、コミュニケーション等の改善によるブランド強化に留まらず、ブランドの基本機能を活用した新たな可能性を探り、その実現を目指すことが必要だ。



強みを活かしたリ・ポジショニングの事例


<1>ポカリスエット(大塚製薬)は、「水分補給飲料」のコンセプトでスポーツ飲料のトップブランドとなったが、生活者の嗜好や競合の変化により、清涼飲料市場に主戦場を移行、健康的な清涼飲料としてポジショニングされ、売上規模が拡大した。(アスリートの水分補給→体にやさしい飲料)


<2>ウィダーinゼリー(森永製菓)は、アスリートの試合前の栄養補給剤から、ご飯一杯分の栄養を短時間で摂食できる商品という提案を行い、「10秒メシ」のキャッチコピーとともに浸透した。(アスリートの栄養補給→ビジネスマンの朝食代替)


<3>シーブリーズ(資生堂)は20代~30代男性が夏のマリンスポーツ時のデオドランドとして定着、新たに「NATURAL+AID」というコンセプトで10代女性が日常使いするデオドランドとしてポジショニングし成長した。(若年男性の夏→女子高生の日常)


<4>ハイチオールC(エスエス製薬)は成人男性の二日酔いを予防・解消する薬として定着、美白効果があることからシミそばかすの予防薬としてのポジショニングを行い、大きく売上規模を拡大した。(男性の飲酒対策→女性の美白対策)


リ・ポジショニングで大きな成果を挙げたブランドに共通することは、機能の独自性が明確になるセグメンテーションとポジショニングを行い、さらにブランドを磨き上げ、支持を獲得し、トップブランドの地位に育成している。その後、生活者や競合環境の変化に対応し、基本機能を変えずに、その特性を活用した新たな用途・シーンを提案することで、より大きな支持の獲得に成功している。


リ・ポジショニングとMD政策の変更によるブランド再生事例


<1>無印良品(良品計画)は、西友のPBとして、素材の選択、工程の点検、包装の簡略化という基本理念のもとで商品開発を行い、「わけあって安い」のキャッチコピーとともに発売され、その簡潔さや分かりやすさで支持を拡大し、ブランドへのカウンターであった商品がブランド化した。様々な環境変化に対応し成長を続けているが、近年では安さで売上を求めるのではなく、価格や売上に流されない自分たちのあるべき姿を「無駄のない魅力的な新しい何かを提案する」を方針に商品開発を行い、再生のひとつの要因となった。(価格、売上→価値、顧客満足)


<2>J.CREWは、通販から始まったアメリカのアパレルブランド。流行にとらわれない、さわやかでナチュラルなアメリカンカジュアルのベーシックな地位を得た。ただ、変化や刺激が少ないテイストへの支持が失われ、経営危機に陥った。このため、思い切った改革、商品政策のコンセプトをデザイン&クオリティへ、価格帯も上げ、トレンドを取り入れたラグジュアリー路線へと転換した。スタイリッシュで高品質、値段も適正というポジションを獲得し、売上を大きく改善した。(ベーシック→スタイリッシュ)


両社とも規模拡大や成功体験等により、イノベーションが出来にくい環境となり、業績の悪化を招いた。その改善のため、顧客が志向するものに単純に迎合するのではなく、顧客志向を踏まえた上で、自分たちが提供したい価値に絞り込んだポジショニングを行って復活している。顧客が共感可能なモノやコトを作る創造力や提案力を鍛える、あるいは、実現可能な仕組みを整えることが重要のようだ。


変化へ対応し続けるということ
日本では進化という言葉に進歩やグレードアップという意味が含まれるが、生物学での進化は純粋に変化を意味するものであって、必ずしも進歩を意味することではないらしい。


最後まで生き残った生物が進化の形であり、あらゆる生存競争の中で最後まで勝ち続けるという結果が進化らしい。何やらビジネスの世界に似ているようだ。


我々が戦う真の場所が顧客のマインドの中であるとするならば、我々と我々のブランドが生き残るためには、顧客の変化に対応するイノベーションを繰り返し、その存在する意味と意義が顧客の中に在り続けられるよう、自らが変化し続けることが必要だ。その実現のためには、生存環境と競争相手の認知と理解、そして己を見極めることが基本になるだろう。孫子曰く、「彼を知り己を知れば百戦危うからず」と…。




苅谷  誠一郎   (かりや  せいいちろう)
マークス&インデックス  代表
流通業を中心にメーカー、行政など幅広い業界でマーケティングリサーチおよびプランニングを行っている。特に、量販店、生協などのスーパーマーケットの新規出店および活性化のための調査は、全国で300件を超える豊富な経験を有する。

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