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【ヒット現象の数理モデル】AKB選挙予測で培ったソーシャルメディアデータの使い方

私の研究室で最近2年続けてAKB選抜総選挙の予測に成功したことが話題にされています。

2013年には首位争いは大島優子と指原莉乃に限定されて渡辺麻友には可能性が無いことの予測が朝日新聞で、2014年は渡辺麻友が首位になることが読売新聞で、それぞれ予測として開票前に報道されています。実は研究としては選挙結果が出た後ゆっくり解析する予定だったのですが、2013年の選抜総選挙の時、朝日新聞記者が訪ねてきて、結果発表前に予測を出すよう依頼されたのが予測をするようになったきっかけです。


この2年間の解析でAKB選抜総選挙の上位の順位予測をある程度できるようになりましたが、その予測のキーはヒット現象の数理モデルという私が主となって提案した数理モデルです。


私の研究室は2010年にヒット現象の数理モデルという理論を提案しました。これは物理学の考え方を使った理論で、社会における人々一人一人が、どう影響を受けてある話題に関心を持つかを方程式として解く理論になっています。


この理論では、人の関心に影響を与えるのはTV露出等のマスメディア、友人知人から得る情報(直接コミュニケーション)、そして街の噂として間接的に伝わってくる情報(間接コミュニケーション)。


この数理モデルを用いて映画の評判を予測してみたのが図1で、「神様のカルテ」という映画の封切り4日目までの広告宣伝のTV露出の秒数とブログ書き込み数から封切り5日目以降を予測した計算です。実際のブログ書き込み数の実測とかなりよく一致していることがわかります。


ソーシャルメディア上で見られる話題の盛り上がりをこのヒット現象の数理モデルで解析すると、その話題を書いている日々のブログ投稿数の推移、Twitter投稿数の推移が高い精度で説明できます。


この解析からそれぞれの話題ごとのマスメディア情報、直接コミュニケーション、間接コミュニケーションの強さを計算できますが、このうちの間接コミュニケーションの強さが話題の盛り上がりの分析に大きな役割を果たすことが研究からわかってきました。


図2に示したのが、2014年のAKB選抜総選挙での主なメンバーについて数理モデルの計算から得た間接コミュニケーションの値です。首位になった渡辺麻友は、間接コミュニケーションの値では2位の指原莉乃を大きく引き離しています。


また、松井玲奈・山本彩・島崎遥香との争いを抜け出して4位となった松井珠理奈の間接コミュニケーションも大きいことがわかります。森保まどかは前年の圏外からいきなり25位に入って話題になりましたが、計算ではこのような大きな間接コミュニケーションの値が出ていました。


我々の研究室の研究からは、他にもドラマ視聴率の伸びも間接コミュニケーションが強いのと相関があることが示されています。また、STAP細胞研究スキャンダルの評判解析では、何が起こっているか不明な段階では間接コミュニケーションが大きく、記者会見等で一応の納得を見ると直接コミュニケーションが大きくなって間接コミュニケーションの値は小さくなることがわかっています。


このように、ビッグデータをヒット現象の数理モデルのような社会物理学の理論を用いて解析することで、間接コミュニケーションのようにこれから伸びる話題を示唆する新しい指標が得られると思います。




参考文献
[1] 吉田就彦,石井晃,新垣久史「大ヒットの方程式」ディスカヴァートウゥエンティワン 2010.
[2] A Ishii, H Arakaki, N Matsuda, T Matsumoto,S Umemura, T Urushidani, N Yamagata and N Yoshda, New Journal of Physics 14(2012) 063018 (22pp)
[3] 北尾明子,石井晃,薄井司,内山幸樹,ARG WI2第4回研究会プロシーディングス (2014)
[4] A Ishii, T Koyabu, K Uchiyama, and T Usui, "Mathematical theory for social phenomena to analyze popularity of social incidents quantitatively using social networks", Proceeding of Adaptation, Learning and Optimization 2, "Proceedings of the18th Asia Pacific Symposium on Intelligent and Evolutionary Systems – Volume 2" 389-402, (Springer-Verlag. 2014)


石井  晃  (いしい  あきら)
1957年生まれ。
鳥取大学工学研究科機械宇宙工学専攻応用数理工学講座教授

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