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共に歩もうとする意識を醸成する フィードバックの価値

多数の国籍の人々を前に、英語で自分のアイデアをプレゼンすることは、いつでもハードルが高いものだ。そんな苦手意識と戦いながら参加した、THNKという場での経験を振り返る。

THNK School of Creative Leadershipは、アムステルダムにある新しい形のスクールで、クリエイティビティ、ビジネスモデルイノベーション、アントレプレナーシップという3つをコアに、世界で社会的インパクトを作り出す人材の育成と、彼らによるプロジェクトの実現を目指している。


オランダの経産省、アムステルダム市、マッキンゼー、スタンフォード大学d•scool、ボーダフォン、フィリップスデザインなどのサポートを受け、2010年に元マッキンゼーのパートナー陣により、設立された。


私は、そのコンセプトに魅かれ、2012年度の9月期から在籍し、世界から集まった30人の仲間、講師陣、ゲスト、パーソナルコーチ、メンターらと、貴重な時間を過ごした。THNKでは、2カ月に一度のペースで、アムステルダムにおいて、1週間から2週間のオンサイトプログラムが組まれる。


そこでは毎回最終日の一日前に、プレゼンイベントがあり、自分のプロジェクトアイデア、ビジョンなどを限られた時間で話す。このスクールは、MBAホルダーはもちろん、ダボス会議のヤンググローバルリーダーに選ばれるような面々が集まっており、みんな、圧倒的に自信に満ちたプレゼンを披露するのだった。


私も海外で開催される国際会議でスピーチをした経験は何度かある。ただそれは、決められたテーマ、例えば‘中国における違法コピーの現状と、中国のクリエイティビティ’といったお題に関して自分の分析と見解を述べるといった、客観的なものであった。


それと、自分を題材にし、自分のアイデアやビジョンを話すこととは、明らかに違った。自らを堂々と表現し、聴衆を巻き込むクラスメイト達に感心するとともに、たった一人の日本人である私は、毎回本当に緊張したものだ。


しかも半年に一度は、フェスティバルと銘うって、OB、OGのみならず、ヨーロッパの企業、投資家など200人以上が集まるプレゼンイベントが開催される。休憩をはさみながら、現クラスのメンバー以外にも、希望するOB、OG含め50人以上が次々とプレゼンをする一日となる。


クラスの中だけでなく、多くの参加者の前で「自分のアイデア」を話す、それはさらに緊張を高め、最初は、逃げ出したいくらいの気持ちを押さえて、順番を待ったのだった。


そんなプレゼンイベントに、このスクールは、ある仕組みを取り入れている。それは目に見える「フィードバック」と、「相互サポート」である。全てのプレゼンイベント参加者には、小さな紙とペンが配られる。


そこには、「あなたは、このプレゼンのコンセプトの、どこが好きですか?」「あなたは、どのように、このプロジェクト(プレゼンで話される内容)に貢献できますか?」と書かれ、プレゼンを聞いた後に記入するようになっている。


プレゼンイベントが終わった後、スクールのスタッフによって、このフィードバックペーパーは、スピーカーごとに分類され、次の日にスピーカーに渡されるのだ。


これが、大きな励みになった。そのペーパーをきっかけに、単に「いいプレゼンだったよ!」「良いアイデアだね!」というような、ちょっとしたプレゼン後のやりとりで終わるのではなく、次のアクションを話しあうことが出来た。自分の話の何が伝わり、何が伝わらなかったのか、も後で振り返ることができた。


と同時に、自分が他の人のプレゼンを聞く、その聞き方が変わった。なんとなく聞くのではなく、そのプレゼンをどう受け止め、何か自分に出来ることは無いかと考えながら聞く。一つのプレゼンが終われば、すぐペーパーに意見を書き込まなければならないので、必然的に、集中力と他の人のプレゼンに対するコミットメントが高まった。


様々なアイデアワークショップの場では、「賞賛の文化」というものが推奨される。人のアイデアを評価するのではなく、前向きに受け止めよう、ということである。しかし、賞賛だけでなく、「人に対して、自分に何ができるか?」を問いかけながら、人のプレゼンと向き合うことで、自分の引き出しやキャパシティも問われているような気がした。


ここでのフィードバックとは評価でなく、人を勇気づけ、共に歩もうとする意識を醸成するものである、と感じたのだった。本号の他の記事でも、プレゼンイベントは、コミュニティビルディングであり、行動を喚起するプラットフォームだ、との話がある。


THNKのプレゼンイベントも、まさにプレゼンをきっかけに、参加者が相互にコミットして繋がる仕組みを取りいれることにより、次のアクションへドライブをかけるようなプラットフォームであると思う。


そんなコミュニティでの経験と、そこで感じた仲間とのつながりが、自分の意識と行動を後押ししたことは間違いが無い。私は昨年、自分の会社を立ち上げ、新しいチャレンジの一歩を踏み出した。

 

松風  里栄子  (しょうふう  りえこ)
株式会社センシングアジア 代表取締役
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